「幼い頃、はじめて読んだ大人の小説が酒見賢一さんの中華ファンタジー『後宮小説』でした。それが面白くて人生が大きく変わりました」 と、一昨年、中国歴史小説『震雷の人』で松本清張賞を受賞しデビューした千葉ともこさん。第2作となる新刊『戴天』も前作と同じく、唐の時代を舞台にした歴史エンターテインメント。中国史の知識はすべて独学というから驚きだ。
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玄宗が治める唐の時代。最初は栄華を誇るが、やがて玄宗は楊貴妃に入れあげて政治を怠り、臣下は私欲に走る。そんな折、地方の軍人が中央に反旗を翻す安史の乱が起きて…。

「唐の時代って好きなんです。私は長く公務員だったのですが、今の日本の行政機構は唐の律令や制度を元に作られているので、役職や仕組みが似ていて親近感があります。この時代は女性も強かったことも魅力ですね。唐のあと次第に纏足(てんそく)の時代に入りますが、この時代は女性も馬に跨っていたんです」

主要人物は複数いる。名家の息子で、友の裏切りで男性機能を失った軍人・崔子龍(さいしりゅう)、官僚の不正をただそうとする僧侶・真智(しんち)、裏で権力を操る宦官・辺令誠(へんれいせい)、楊貴妃付きの奴隷女性・夏蝶(かちょう)――。裏切りあり、計略ありの二転三転の話運びで読者を否応なく引き込む。

現代日本に通じる話を意識したという千葉さん。

「安史の乱以降国が傾いていく様子は、バブル期以降の日本に通じると感じていて。辺令誠のように、権力に支配された人の怖さは今の時代も同じですよね。それにこの話では、ホモソーシャルな社会での男性の生きづらさも書こうと考え、それで男性器にコンプレックスを抱く崔子龍や宦官、男性社会に属さない僧侶を登場させました」

武力の衝突から心理戦から胸を打つドラマまで盛り込まれ、息をつかせぬ面白さ。国を立て直すために尽力する男女の姿から浮かび上がるのは、英雄とは何か、という問いだ。

「私の世代はサービス残業といった滅私奉公が美徳のように言われてきましたが、それで人生が潰された人は多い。ですので、私が書くなら自己犠牲を厭わない英雄ではなく、自分を大切にする英雄を書こうと思いました」

彼らの勇気をぜひ、見届けて。

『戴天』 政治が腐敗し安史の乱目前の唐。軍人の崔子龍は陰の権力者・辺令誠に対抗するため、僧侶の真智は官僚の不正を暴くため行動を起こす。文藝春秋 1980円

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ちば・ともこ 1979年、茨城県生まれ。筑波大学日本語・日本文化学類卒業。2020年『震雷の人』で第27回松本清張賞を受賞しデビュー。現在は安史の乱の終焉を描く第3作を構想中だという。

※『anan』2022年6月29日号より。写真・中島慶子 インタビュー、文・瀧井朝世

(by anan編集部)

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