an-an-an、とっても大好き〇〇〇〇●

小島秀夫のan‐an‐an、とっても大好き○○○○●:第24回目『お気に入りの“声”と過ごす』

エンタメ
2025.04.05

小島秀夫の右脳が大好きなこと=○○○○●を日常から切り取り、それを左脳で深掘りする、未来への考察&応援エッセイ「ゲームクリエイター小島秀夫のan‐an‐an、とっても大好き○○○○●」。第24回目のテーマは「お気に入りの“声”と過ごす」です。

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昨年の5月からスタートした『DEATH STRANDING 2: ON THE BEACH』の日本語音声収録が、3月中旬に終了した。長年共に年を重ねてきた朋友たち。新たに加わった声優さんたち。サブキャラクター、ゲストキャラなどを含めると総勢66人。10ヶ月にも及ぶ収録だったが、オールアップの日は、完成に向けた喜びよりも、寂しさの方が圧倒的に勝った。

僕がゲーム業界に入った1986年。ゲームはまだ喋ることが出来なかった。キャラクターも声を持たなかった。漢字フォントさえもなく、カタカタと一文字ずつカタカナを表示するだけ。処女作である『メタルギア』(1987)の主人公ソリッド・スネークは、そんな事情から、無口なタフガイとして生まれた。

’88年、CDドライブがついたゲーム機「CD‐RO M2」(注1)がNECから発売される。メディアがCDなので、それまで不可能だった音声による台詞も使える。いち早く名乗りをあげてリメイクしたのが、’92年の『SNATCHER CD‐ROMantic』(注2)だ。僕はまだ20代。人生で初めての音声収録だった。キャスティングだけは自分でしたものの、全くの門外漢だったこともあり、運営は代理店に丸投げした。神戸から始発の新幹線に乗り、東京のスタジオに到着。既に豪華声優陣たちはマイク前でスタンバイしている。挨拶も打ち合わせをする時間さえもない。ほぼ半日で全てを収録するというとんでもないスケジュールだった。人間関係を築けるはずもない。この初陣の反省と悔恨が、その後の音声収録を大きく変える。井上喜久子さん、塩沢兼人さんは、この頃からの付き合いになる。

’94年の『POLICENAUTS』(注3)では、声優事務所に直談判、キャスティングやスケジュール、収録方法、サウンドクオリティ、台本作りなどもこちらでもコントロール出来るように改善した。声優さんたちとの食事会など、交流を深めることも可能になった。今に続く、音声収録のスタイルはここから始まった。田中秀幸さん、飯塚昭三さん、寺瀬めぐみさん、阪脩さんらとは、ここからの付き合いになる。勿論、お気に入りの井上さんや塩沢さんたちにも引き続き、出演して頂いた。

’98年の『メタルギアソリッド』(注4)では、業界の暗黙のルールに屈せず、音声収録のクオリティをさらに向上させる環境作りを独自に構築。そして、あの無口なスネークも発話が可能になり、007やルパン三世のような軽快なセリフによって、声という要素からもキャラを立たせた。そこに一役買ったのが、大塚明夫さん、銀河万丈さん、青野武さん、鶴ひろみさん、桑島法子さんたちの才能豊かな新メンバーたち。勿論、『SNATCHER』から繋がるお気に入りたちにも出演して頂いた。

その後もMGS2からMGSVに至るまで、お気に入りの声優さんたちと多くの時間を共有してきた。かけがえのない体験だった。新作ごとに新たなキャスティングも迎えてきたことで、藤原啓治さん、杉田智和さん、水樹奈々さん、大塚芳忠さん、小林ゆうさん、麦人さん、三上哲さんなど、気がつくと“ファミリー”は大家族になっていた。その頃には、収録スタジオや技術者、機材を自前で持つようにした結果、自由度もクオリティも格段に上がっていた。

独立後の『DEATH STRANDING』(2019)では、多くの朋友たちに再び参加してもらった。“繋がり”をテーマにした作品だったからだ。津田健次郎さん、石住昭彦さんとはここから繋がる。

そして、最新作『DEATH STRANDING 2: ON THE BEACH』。朋友たちに加え、新たな家族として、ずっと仕事がしたかった加瀬康之さん、宮本充さん、若山詩音さんらに主要キャラを、さらにゲストとして千葉繁さんや小山力也さんにお願いした。

何故、同じ声優さんたちを使い続けるのか? 強い信頼関係があるからだ。もはや彼らとは“家族”同様の運命共同体だ。これからも、出来ることなら、お気に入りの人たちとお気に入りの時間を過ごしていたい。

20代で収録を始めた僕も、今年の夏で62歳になる。多くの才能ある朋友たちは逝ってしまった。塩沢さん、青野さん、藤原さん、鶴さん、飯塚さん…。彼らとの別れはとりわけ辛い。もっと一緒に過ごしたかった。『デススト2』での大塚芳忠さんの単独オールアップの日。最終日なので、編集したばかりの「プレオーダー・トレーラー」(注5)を観てもらった。芳忠さんには、「また凄いものを創ってしまいましたね!」と喜んでいただけた。僕は芳忠さんに、「次回作にも出演してください。ちょっと先になりますが」とお願いをした。芳忠さんは、「まだ生きていればね」とお気に入りの声で。僕は、返す言葉もなく、芳忠さんをエレベーターまで送っていった。もう一度、お願いを告げようとした時、無情にも扉が閉まった。僕は、しばらくその場を動けず、「必ず約束を果たします」と、自分の健康状態も顧みながら、心の中で何度も唱えた。

注1:CD‐ROM2 1988年に発売された、CD‐ROMのゲームソフトを使用できるPCエンジン用の周辺機器。家庭用ゲーム機として初めて光学ドライブを搭載。
注2:『SNATCHER CD‐ROMantic』 1988年にコナミから発売されたアドベンチャーゲームのリメイク版。
注3:『POLICENAUTS』 1994年にPCソフトとして発売された、SFアドベンチャーゲーム。
注4:『メタルギアソリッド』 1998年に発売された、ステルスゲームの金字塔「メタルギアシリーズ」の3作目。
注5:「プレオーダー・トレーラー」 ゲームなどの発売前、予約受付段階で公開される予告映像。

今月のCulture Favorite

『デススト2』日本語版声優のオールアップしたみなさんと記念撮影。

日曜劇場『御上先生』の撮影現場を訪れた際に、是枝先生役の吉岡里帆さんと。

ライブの楽屋で、ニュー・オーダーのバーナード・サムナーと2ショット。

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PROFILE プロフィール

小島秀夫

こじま・ひでお 1963年生まれ、東京都出身。ゲームクリエイター、コジマプロダクション代表。’87年、初めて手掛けた『メタルギア』でステルスゲームと呼ばれるジャンルを切り開き、ゲームにおけるシネマティックな映像表現とストーリーテリングのパイオニアとしても評価され、世界的な人気を獲得。世界中で年間最優秀ゲーム賞をはじめ、多くのゲーム賞を受賞。2020年、これまでのビデオゲームや映像メディアへの貢献を讃えられ、BAFTAフェローシップ賞を受賞。映画、小説などの解説や推薦文も多数。ゲームや映画などのジャンルを超えたエンターテインメントへも、創作領域を広げている。

★次回は、2444号(4月23日発売)です。

写真・内田紘倫(The VOICE)

anan 2440号(2025年3月26日発売)より

最新作『DEATH STRANDING 2: ON THE BEACH』新たなトレーラーは、こちら!

先日アメリカで行われた、SXSW2025イベントステージのアーカイブが公開中です。

『OD』 インフォメーション

「The Game Awards 2023」にて発表した、最新作『OD』の公式ティザートレーラーが、KOJIMA PRODUCTIONSの公式YouTubeチャンネルで公開中。 https://youtu.be/j1pnFI1r8N0

『PHYSINT(Working Title)』 インフォメーション

先日、完全新作オリジナルIP『PHYSINT(Working Title)』の制作を発表。
https://youtu.be/WjPc9QI3hjY

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