好きな世界を共有するふたりの絆。将棋の奥深さにも触れられる。
「将棋は、羽生善治九段や藤井聡太さんなど特別な“天才”だけがクローズアップされやすい世界ですが、楽しみで指しているごく普通の子どもや大人もたくさんいるんですよね。そうしたどこにでもいる人たちはどんなことにつまずき、突破口を見出すのかという普遍的な人生に光を当てて書いてみたかったんです」
思春期の入り口に立つ女の子たちの友情とすれ違い。30歳で人生の岐路に立った女性の迷いと決意。きっと誰も覚えがある。将棋については、「息子が将棋部にいて、部活の世話役などをやっているうちに惹かれていきました。私は見る将(将棋の対局を見るのが好き)ですが(笑)」
マンガ『3月のライオン』のヒットなど将棋人気が広がりつつあるとはいえ、将棋をする女の子や女流棋士はまだマイノリティ。そんなハルと夕子が互いの境遇や苦悩を知り、自分の問題と重ね合わせて考え、成長していくさまに元気が湧いてくる。
「夕子さんはハルちゃんと血はつながっていないけれど、ハルちゃんの落ち込む気持ちをちょっと後押ししてくれる人であり、フ・カフェはハルちゃんが無防備な自分でいられる場所。そういう逃げ場所があることは誰にとっても大切だと思います」
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ハルを小児脱毛症としたのは、尾崎さん自身の体験がベースにある。
「私自身が闘病中にウィッグ体験をしたんですね。それで小学生時代に小児脱毛症の女の子がいたことを思い出し、当時の彼女の心情を想像したり…。そうして作り上げたのがハルちゃんです。書くときは何かしら自分の経験を下地にはしているのですが、心理的葛藤から距離が取れたとき、書いておきたいと思う衝動が来て、物語が生まれる気がします」
おざき・えいこ 1978年、大阪府生まれ。早稲田大学教育学部卒。2013年、ボイルドエッグズ新人賞を受賞してデビュー。他の著書に、『くらげホテル』『有村家のその日まで』がある。
『竜になれ、馬になれ』 両親は離婚、クラスメイトとの関係にも悩み中…知らず知らずストレスがハルの頭皮に!? 少女と大人の女性の居心地のいい関係を描く。光文社 1700円
※『anan』2020年2月26日号より。写真・土佐麻理子(尾崎さん) 中島慶子(本) インタビュー、文・三浦天紗子
(by anan編集部)