旗揚げ45周年、劇団☆新感線の魅力とは。主宰・いのうえひでのりさんインタビュー。
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続けられたのは、自分らが面白いと思うものを信じていたから。
――45年劇団が続くってすごいことですよね。
毎回、次の1本、次の1本とやってきただけなのでびっくりです。でも思えば、20周年も35周年のときも、もうそんなにやってきたんだっけ、と思った気がします。
――その幕開けとして『紅鬼物語』を持ってきたのは?
前々からやりたいと思っていた題材ではあったんですが、なかなか座組みとしてできるチャンスがなくて。今回のキャスティングならできるかなと。それがたまたま45周年イヤーのスタートのタイミングになりました。
――新感線は毎回キャスティングも話題ですが、どのような視点でキャスティングされているんでしょう?
見る人が見れば、パターンがあるみたいなんですが、僕自身はよくわからなくて。しいていえば、舞台や映像で見たことがあるとか、ワークショップに来てくれたときに面白そうだなと思った方。そしてじつはこれが一番大事なんですが、ウマが合いそうかどうか。長期公演だと、下手したら半年ぐらい一緒にいることになるので、波長が合わないとお互い辛いですから。どんな状況も楽しんでくれる人はいいですね。あとは上手な方(笑)。舞台ってひとつの役をずっとやり続けるから、突き詰めるタイプの俳優さんが合っているんでしょうね。なかには、瞬発力で勝負する方もいらっしゃいますが。
――新感線から才能を開花させた俳優さんも多いですが、そういう環境を作られているんでしょうか。
僕がつか(こうへい)さんに憧れて演劇を始めたということもあり、つかイズムはあると思います。まずは、俳優自身の意思は抑えて僕の作品の世界観に浸ってもらい、そのうえで本人の中からさらに湧き上がってくるものを舞台にのせるというか。そこで個が光る人が伸びるんでしょうね。ただそれには、演出家がどれだけ自分のことを見てくれて、どれだけ愛してくれているかを、俳優さんが実感できていないと難しいと思いますが。
――今回の柚香光さんの起用についても伺えますか?
じつは僕はあまり存じ上げなかったんです。ただ、柚香さんの名前が挙がって拝見してみたら、身体能力がすごく高いし、超がつくぐらいまっすぐで真面目で、この芝居に合うと思いました。これまであり得ないくらいカッコいい男性を演じてきた彼女が、それを一回封印してどんな紅子を見せてくれるのか楽しみではあります。そこでたおやかな女性が見えてくれば、これまで積み上げてきたものがすべて武器になるはずです。
――柚香さんにとって女性の役は(宝塚歌劇団)退団後初です。今回敢えて、そういう方を起用しようと思われたのは?
わかりきった答えだと、つまんなくなっちゃうタイプなんですよ。他に紅子を演じられそうな俳優さんは思いつくけれど、彼女に賭けてみたいと思ったし、やってみないとわからない方が、面白いと思うんですよね。
――劇団の存続のさせ方はいろいろですが、主役に客演の方を迎えて新陳代謝しながら、新感線らしさを周りで主役を支える劇団員たちが担うというのが面白いです。
結果的にそうなっただけで、意図していたことではないんですけどね(笑)。でも客演の方はみんな、劇団に参加している意識を持ってくれていて、気づいたら準劇団員みたいな感じになっているのは嬉しいですよ。
――あくまで劇団にこだわるのは、なぜですか?
たまにプロデュース公演も演出しますが、同じようなメンツを集めてやってもやっぱりどこか違う。不思議ですよね。劇団員って…うちだけじゃないと思うけれど、みんなの面白いと思う視点や面白がり方が近くて、説明せずともわかってくれる、ありがたい存在です。
――新感線がここまで多くの人から支持を集めているのは、観客というか大衆に寄り添った作品作りをしていることも大きいと思います。そこは意識されていますか?
そこは気を遣いますよ。あまりお客さんに媚びるのもイヤらしいけれど、お客さんとコール&レスポンスできるような場面も作りたいと思うし。せめぎ合いです。ただ、基本的にサービス精神旺盛なタイプではあります。どこかいつも、お客さんをびっくりさせたいとか、笑わせたいという気持ちがある気がします。爆音で音楽を流すのも、演劇でそれをやったらみんなびっくりするだろうなと思ったのが最初。時代劇もずっと好きで、田村正和さんの舞台を観てシビレて、ああいうものが作りたいって始めたし。ちょっとずつ自分の好きなものを切り崩して舞台を作っているようなところがあると思います。
――“笑い”もですよね。稽古場で実際にいのうえさんが、何歩歩いたらセリフを言うとか、やって見せるそうですが、ご自身の笑いの定義があるんですか?
こうやると笑えるよ、ということは示すけれど、答えはひとつじゃないし、それが絶対とも思っていません。劇団員の橋本じゅんさんは僕とは全然違う呼吸でやるけど、面白いですし。ただ、初めて新感線をやる人に、「ここはオイシイ場面だよ」ということをわかってもらうために、やって見せるということはあります。
――旗揚げ当時の演劇や小劇場の常識を次々打ち破っての今だと思うのですが、続けてこれた理由とは?
自分らが面白いと思うものを信じてたんでしょうね。つか芝居からオリジナルに移行したとき、動員が一気に減ったけれど、それでも毎回来てくれる人が200人はいた。わかってくれる人はいるって思えたんですよね。
多くの人を熱狂させる舞台のココがスゴイ。
演劇ファンでなくとも「新感線なら観たい」と思わせる、面白さの理由とは。

劇団☆新感線『蜉蝣峠』(2009年上演)
【劇団☆新感線のココがスゴイ 1】構築された世界観に幕開きから圧倒される。
舞台上にしつらえられたセットの規模の大きさや豪華さは、演劇界でも随一。衣装はもちろん小道具に至る細部まで手が込んでいて、作品の世界観を完璧に構築し、観客を誘ってくれる。

劇団☆新感線『髑髏城の七人』(2011年上演)
【劇団☆新感線のココがスゴイ 2】おバカもチャンバラも全部が本気クオリティ。
関西出身劇団らしいベタなギャグ満載。笑いのために凝った小道具が用意されていたりと妥協なし。また魅せることを前提にした殺陣シーンは、スピード感といい迫力といい、群を抜く見応え。

劇団☆新感線『神州無頼街』(2022年上演)
【劇団☆新感線のココがスゴイ 3】まるでライブ!? な迫力の音楽で興奮度UP。
これから始まる芝居へのボルテージを高めてくれるのが、開演前に爆音で流れるヘヴィメタル。劇中で歌う場面では、ライブさながらのド派手照明や演出で盛り上げたりも。

劇団☆新感線『薔薇とサムライ2‐海賊女王の帰還‐』(2022年上演)(C)ヴィレッヂ/松竹
【劇団☆新感線のココがスゴイ 4】スターを引き立てる、計算された演出。
旬の俳優が主演を担うことの多い新感線。本人の魅力を引き出す役設定はもちろん、登場から照明や効果音、BGMを駆使した演出で期待感を煽り、「待ってました!」と声をかけたくなるほど。
Profile
いのうえひでのり
1960年1月24日生まれ、福岡県出身。大学在学中の’80年に劇団☆新感線を旗揚げ。劇団公演のほかプロデュース公演の演出も多数手がけており、昨年演出した歌舞伎NEXT『朧の森に棲む鬼』も大きな話題に。劇団は秋冬公演も控える。
Information

2025年劇団☆新感線45周年興行・初夏公演 いのうえ歌舞伎【譚】Retrospective『紅鬼(あかおに)物語』
【大阪公演】5月13日(火)~6月1日(日)SkyシアターMBS 1万5800円 ヤングチケット2200円、【東京公演】6月24日(火)~7月17日(木)シアターH 1万5000円 U‐25 2500円 作/青木豪 演出/いのうえひでのり 出演/柚香光、早乙女友貴、喜矢武豊、一ノ瀬颯、樋口日奈、粟根まこと、千葉哲也、鈴木拡樹ほか
anan 2445号(2025年4月30日発売)より