5歳児だって生きるのは辛い…大人にこそ響く、能町みね子の初・私小説

エンタメ
2019.01.24
読めばみな、幼少期の記憶が喚起されるはず。それくらい、能町みね子さんの小説『私以外みんな不潔』の中には、生身の5歳児がいる。
能町みね子

「自分は幼稚園の頃の記憶が人より鮮明なようなので、その頃の感覚を今大人の言葉で書いたら面白くなるんじゃないかなと思いました」

子どもの内面を大人に響く小説として成立させている巧さに驚くが、

「会話文が多いと大人の語彙が使えず子どもっぽい文章になるので、地の文を多くしました。それと、親は子どもにとってあまりに絶対的なので、存在感を薄めています」

読み書きを早くにおぼえ、イラストを描くのが好きな誇り高き幼稚園児・なつき。転居により新しい幼稚園に通うが、それが苦痛だ。

「うちは家族が円満だったのですが、子どもだからそれが当たり前だと思っている。でも幼稚園に行くと誰もが自分を愛してくれるわけじゃなくて、それが嫌で仕方がなかった。家では絵を褒められたので、幼稚園では何も言われないだけでマイナスに感じていました。ようやく褒められた時も“当然なのに、なんで今まで気づかなかったんだ”と(笑)」

絵や文字が下手な子への眼差しは冷淡。一方できないことがあってつらくても、ひどく恥じたりはしない。

「5歳児の自我はまだ、人と自分を比べて劣っている部分を恥ずかしく思ったりする前の段階。失敗しても、周囲の子たちもまだ注意力散漫なので、気を付けていればしつこくいじめられたりしませんでしたし」

他人に関心がないわけでもない。超然とした子が気になったり、あっけらかんとした子と友達めいた仲になったり…。やがて来る卒園の日、なつきが抱く感覚に、ぐっとくる。

「人生ではじめての、人と別れるという体験だったんですよね。その時に自分がああいう気持ちになったことにも、びっくりしました」

5歳にだって不安や不満も、自尊心だってあるのだと実感させる本作。

「“共感した”という感想も多くて、結構みんな共通の部分があるんだなと思いました。あの頃の、大人はなんでこんなに子ども扱いするんだという感覚はいまだに残っていて。今、自分が小さい子に話しかける時には一人の人間として接していますね」

子どもの人格をもっと尊重したくなる作品でもあるのだ。

能町みね子

のうまち・みねこ 1979年、北海道生まれ、茨城県育ち。文筆業、自称漫画家。2006年『オカマだけどOLやってます。』でデビュー。著書に『文字通り激震が走りました』『雑誌の人格』など。

『私以外みんな不潔』聡明で潔癖ななつきは、新しい幼稚園で乱暴な子や字の下手な子に馴染めない。そんなある日、「おたのしみ」時間に危機的状況が訪れて…。幻冬舎 1300円

※『anan』2019年1月30日号より。写真・土佐麻理子(能町さん) 中島慶子(本) インタビュー、文・瀧井朝世

(by anan編集部)

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