佐々木:今度の世界選手権は、勝つためには、ひとつのミスも許されない、とてもハイレベルな戦いが見られると思いますよ。
小林:僕が引退したのは、7シーズン前だけど、最近の試合を見ていると、ほんと、辞めてよかったと思うよ(笑)。
佐々木:思う。この間の四大陸選手権を見て、また“3年前に引退しといてよかった”と思った(笑)。
小林:だって、この間、アメリカのヴィンセント・ゾウっていうジュニアの選手の映像を見たら、4回転ルッツジャンプを、両手あげて跳んでるんだよ。ルッツといえば、6種類のジャンプ(アクセル、ルッツ、フリップ、ループ、サルコウ、トゥループ)中で、4回転半回るアクセルを除けば、いちばん難易度の高いジャンプだよ。
佐々木:ハンパないね(笑)。
小林:あんまり簡単に跳んでるんで、最初、3回転かと思ったもの。でも、スローで見たら、ちゃんと4回、回っていた。回転があまりにも速いと、やっていた僕らでさえ、区別がつかないんですよ。
佐々木:俺なんて、片手をあげて、3回転のルッツ跳んで“すごい!”って言われてたんだから(笑)。
小林:ジャンプは、ここ2年ぐらいの間に、ものすごい勢いで進化していますよね。ソチ五輪の時は、4回転ジャンプを1種類跳べれば、メダル争いに加われたけど、もはや、それだけでは10位以内に入るのさえ難しい時代。そもそも、ジャンプの質自体が変わってきているように見えます。
佐々木:そう、そう。体が大きくなって、パワーがついてきたら跳べるようになる、っていうのが、以前の4回転だったんです。
小林:だから、跳べる選手といえば、過去にはアレクセイ・ヤグディンやブライアン・ジュベールみたいな、欧米のがっしりした、筒みたいな体つきの男子が多かった。
ジャンプは、パワーからパワーレスの時代へ。
佐々木:でも、今は逆。いかに力を使わずに、効率のいいジャンプを跳ぶか。助走をつけずに軽く跳んで、速く回転して、流れるように降りてくるというジャンプが、主流になっている。効率のいいジャンプじゃないと、4分30秒のフリープログラムの後半に、4回転ジャンプを2本跳ぶなんて、とてもじゃないけど、体力的に無理。
小林:練習方法も、全然違う。それまでは、リンクをグルッと回って、加速して跳ぶ練習をしていたんですよ。でも、10年ぐらい前から、リンクの(短い)縦方向をジグザグに使って、ひたすら跳ぶ練習をするようになった。“とりあえず、跳び上がって、脇を締めろ”っていう練習を繰り返して、回る時の軸をなるべく早く作って、降りられるようにするんです。おそらく、今の10代の選手たちは、幼稚園ぐらいからそういう練習をしてきているんじゃないかな。
佐々木:リンクの縦方向は距離が短いので、助走をつけられない。助走がないと、力を使えないので、跳び上がるタイミングと、体重をのせる位置がかみあわないと、跳べないんです。そういう練習をしいるからこそ、得点にかかわってくるような、跳ぶ前や降りてからの難しいつなぎも入れられる。
小林:クワドアクセル(4回転半)を跳ぶ可能性だって、今の10代なら、多くの選手が持っていると思いますよ。
佐々木:僕もあると思う。一方で、ある程度大人になると、これを跳んだらケガをするかも、という感覚が芽生えてしまうので、新しい4回転の習得は大変。20代半ばや後半の選手が戦うには、厳しい時代になったんじゃないかな。
ネイサン選手は、4回転を失敗しない!?
小林:今の段階で、効率のいいジャンプを跳んでいるなぁと思うのは、アメリカのネイサン・チェン選手。とにかく、ジャンプの軸を作るのが早いよね。
佐々木:ジャンプを跳ぶ時は、跳び上がった後、回りながら両脇をグッと締めて、体の真ん中に回転軸を作るんですけど。彼は、そのタイミングが早いんです。ふつうの人は、だいたい1回転半ぐらいしたところでその体勢になるんだけど、彼の場合は、その体勢になるのが、明らかに早い気がする。
小林:あれだけ軸を作るのが早かったら、(いちばん難易度が低い)4回転トゥループなんて、ほとんど失敗しないんじゃない?
佐々木:しかも、ネイサン選手は、ジャンプだけじゃなく、スケートの評価に必要なものをすべて持っているんですよ。スピンも上手いし、スケーティングもしっかりしている。芸術面がもっと磨かれれば、ものすごい得点が出そう。
小林:プログラムに入れている4回転の種類は、ネイサン選手のほうが多いですけど、羽生結弦選手はひとつひとつのジャンプの質が高い。クリーンに着氷した時のGOE=出来栄え点は、すごいですからね。
佐々木:あんなに力を使っていないように見えながら、それでいて幅があって豪快なジャンプ、なかなか跳べないよね。
小林:羽生選手が今シーズンからプログラムに取り入れている4回転ループジャンプも、実は難しい。いちばん回転が抜けやすいんです。
佐々木:そう、不意にスコーンと抜けて、転倒することがある。
小林:それに、基礎点が1.1倍になる後半に跳ぶトリプルアクセル(3回転半)のGOEのすごさね。すごく難しい跳び方をするんだけど、ほんと、失敗しないよね。
佐々木:だから、羽生選手がノーミスの演技をしたら、“勝てる選手はいない”と思ってしまうほど。
小林:ただ、この間の四大陸選手権で、ネイサン選手が、羽生選手に勝ちましたよね。そうすると、ジャッジの目も変わってきますから。羽生vsネイサンの対決に、カナダのパトリック・チャン選手と、宇野昌磨選手が割って入れるか。スペインのハビエル・フェルナンデス選手と中国のボーヤン・ジン選手が、どこまで食い込めるか。
佐々木:もし、パトリック選手が、フリーで3本の4回転ジャンプをクリーンに着氷したら、ファイブコンポーネンツ(スケート技術、要素のつなぎ、演技、振付、曲の解釈の、5つの要素で採点される演技構成点)では、相当な得点が出そうだから、今以上におもしろい戦いになるんじゃないかな。田中刑事選手も最近強くなっているので楽しみです。
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