柚香光さん

爆音のロックンロールで幕を開け、舞台の上に徹底した世界観を構築し観客を圧倒する。誰もが楽しめるエンターテインメントを提供してきた劇団☆新感線が45周年を迎える。その幕開きとなる『紅鬼物語』に主演する元宝塚歌劇団花組トップスターの柚香光さんが語る劇団☆新感線の面白さとは。

宝塚歌劇団退団から約1年。元花組トップスターの柚香光さんが、退団後初めての演劇作品に挑戦する。その舞台というのが、劇団☆新感線 いのうえ歌舞伎【譚】Retrospective『紅鬼物語』。鬼が棲まう平安の世を舞台に描かれる、“お伽噺”のようなファンタジー。

「新感線さんの舞台は、なにより華やかでパワーと活気があって、シリアスな中にも軽やかなコメディシーンがあって、そのバランスが絶妙ですよね。それに、心臓を引っ張られるような力強いロックの音楽に、迫力満点の殺陣。そこに刀が合わさるときの効果音が加わって臨場感がありますし、さらに人間的な温かさもあって。エネルギッシュなのに、お客様に対して押し付けがましくないのも素敵だなと思います」

凝った舞台美術や衣装。ライブに匹敵する大がかりな照明や音響。それらを駆使したド派手な演出で観客をどっぷりと作品世界に引き込んでいくのが新感線の真骨頂。ただそれゆえ真ん中に立つ俳優には、壮大な世界観や演出に負けない、劇場全体を制する華と存在感が求められる。宝塚歌劇団花組トップスターとして大劇場の真ん中に立ってきた柚香さんであれば、相応に違いない。

「確かに劇場を満たすパワーや、登場したときに自分の周りの空気を変えるということは、私が宝塚歌劇団で培ってきたもののひとつだと思っています。でもそれも、演出自体がお客様の視線を集めるようにしてくださっていたり、舞台の構造や照明、その前後の音楽といったあらゆる分野のプロの方々の技があってのことです。ただ、劇場の雰囲気や舞台の構造、作品や役、場面によって、密度の濃さなのか圧なのか、パワーを充満させるのか爽快感のあるエネルギーをスパーンと放つのか、それともグワッと鷲掴みにするような粘度のあるものなのか、全体に放つのか個々に刺さる鋭いものなのか、必要とされるものが違います。役者自身がそこのポイントをきちんと把握しているかが重要。この場面で演出が何を見せようとしているのか。どういう流れでこの構図になり、その照明になるのか。どのセリフにどの音がかかってくるのか。そのすべてをひとつも取りこぼしがないよう理解しておくように意識していました」

歩を進めるその足運びで、繊細な指先や顔の角度ひとつで、観客の視線を、劇場の空間をコントロールしてみせる人。この撮影でも、カメラの前でさまざまなポーズをしてくれたが、動きのひとつひとつがしなやかで美しく、シャッター音のリズムに合わせて踊っているようにも感じられたほど。

「姿勢、目線、筋肉の使い方…そういったものひとつひとつでこんなにも見え方が変わるんだと思うことはあります。私自身も、ここまでずっと学びながらでまだまだ先は限りないです。新感線さんの舞台を観たとき、観客に対してすごく親切な印象を受けました。この人はこういうキャラクターで、この作品ではこういう位置付けだというのが丁寧ですし、この場面ではここを見てほしいという視線の誘導が明確です。今回のお稽古場でも、(演出の)いのうえ(ひでのり)さんに導いていただきながら楽しく過ごしています」

わかりやすい、といえば関西出身劇団らしいベタな笑いも、新感線の舞台の面白さのひとつ。オモシロの部分もやられるんですか? と伺うと、「今回はあまりチャンスがなくて」との返事。

「でもじつは私、結構やりたい側なんです。基本的に楽しいことが大好きな人なので、劇団員の方々が楽しそうにやられているのを見ながらお腹を抱えて笑っています(笑)。劇団員のみなさんは、個性的なキャラクターを作っていくプロフェッショナルです。作品の中で、自分はここに行く、それなら自分はこっちを担当する、というように、とてもテンポよくご自身の役の立ち位置を確立していかれる。自分という役者の料理の仕方も見事ですし、他の方の個性の活かし方もわかっていて、これが劇団の阿吽の呼吸なんだなと思って見ています」

今回の舞台で柚香さんが演じるのは鬼でありながら人の妻となり、子を産み母となった紅子。今、「紅子という役を探す作業がすごく楽しい」と話す。

「最初は、鬼ということで豹変していくようなキャラクターを想像していたのですが、紅子は情に厚く愛情深い方なんです。鬼である自分の存在に悩みながらも、人を愛し抜きたいという一途な想いを持っていて、鬼としての本能を封じ込めて人間界で人間を尊重して暮らしている。それゆえ苦しさや悲しさを心の奥底に隠して、すごいなと思うんですよ。その生き様が素晴らしいしカッコいい。そんな役を演じさせていただけることがすごくありがたいです」

その口調に、柚香さんの役へのリスペクトの想いが溢れていた。

「舞台に携わる者として、芸事に対する敬意や、演じる役柄に対しての敬意は絶対に忘れないようにしたいと思っています。これまで役になかなか共感できず、難しいなと思うことも迷うこともありました。でもそういうときって、大抵は自分の理解が足りていないか、自分の思考が役に到達していないんです。実在の人物ならば史実を調べたり、その時代の生活環境や情勢、価値観などを勉強したり。家族構成や仕事などの背景から想像したり教えていただいたりして学ぶようにしています」

退団後、男性を相手に芝居をするのは初めてのこと。

「そこが宝塚時代との一番大きな違いかもしれないですね。当たり前ではありますが、男性は男性を作らずに演じているわけです。私も、男役時代とは体の使い方や筋肉の神経の入り方も違います。ただ、大事なのは性別ではなく、一挙手一投足すべてを紅子として舞台上で存在することだと思っていますから、自分の中で課題を見つけながらやっているところです」

柚香さんの圧倒的なフィジカルセンスは、幼い頃から学んできたクラシックバレエが基礎にある。

「宝塚入団当初は、バレエとは違う筋肉の使い方が必要で、逆に苦労した時期もありました。とくに男役は地面に対して体の軸を下に下げて立つトレーニングが必要です。しかし、バレエでは体の重心を引き上げることを学んできましたから、どうしても重心が引き上がって足元が軽やかになってしまうんです。しかもタップやジャズ、ヒップホップは、ビートの刻み方が違い、踊るときの膝の使い方から足裏の使い方までまるで違います。でも、ひとつ取っ掛かりを見つけられてからは、その違いを楽しめるようになりました」

とはいえ、正解がないのが芸の世界。どこまでも果てしない中、それでも前に進んでいくための心がけなどはあるのだろうか。

「先々の理想像みたいなものはまだ描いている途中ですが、心がけとしては、作品ごとに目的意識を持つこと。こういうお芝居ができるようになりたいとか、こういう表現ができるようになりたい、こういう顔つきの人になりたいという自分の中での目標のようなものは持つようにしています」

ならば、柚香光として今見ている先は? そう尋ねるとウフフと含みのある笑顔を見せた。

「楽しみにしていてください。応援していただけると嬉しいです」

Profile

柚香光さん

ゆずか・れい 1992年3月5日生まれ、東京都出身。2009年に宝塚歌劇団に入団。’19年に花組トップスターに就任し、’24年に退団。7月より『バーン・ザ・フロア 2025』、12月よりミュージカル『十二国記 ‐月の影 影の海‐』に出演。

Information

2025年劇団☆新感線45周年興行・初夏公演 いのうえ歌舞伎【譚】Retrospective『紅鬼(あかおに)物語』

【大阪公演】5月13日(火)~6月1日(日)SkyシアターMBS 1万5800円 ヤングチケット2200円、【東京公演】6月24日(火)~7月17日(木)シアターH 1万5000円 U‐25 2500円 作/青木豪 演出/いのうえひでのり 出演/柚香光、早乙女友貴、喜矢武豊、一ノ瀬颯、樋口日奈、粟根まこと、千葉哲也、鈴木拡樹ほか

詳しくはこちら

写真・樽木優美子 スタイリスト・大園蓮珠 構成、文・望月リサ 撮影協力・AWABEES

anan 2445号(2025年4月30日発売)より
Check!

No.2445掲載

ジャパンエンタメの現在地 2025

2025年04月30日発売

日本が誇る最前線のエンターテインメントの形を深掘り。高橋一生さん、鈴木亮平さん、土屋太鳳さん、柚香光さん、草彅剛さんなど人気・実力を兼ね備えた俳優陣から、ミュージシャンの羊文学、小説家の安堂ホセさん、脚本家の吉田恵里香さんなど注目作のクリエイターたち、ジャパンアイドルの最新形・CUTIE STREETの板倉可奈さん&増田彩乃さん&川本笑瑠さんまで、超豪華ラインナップです。CLOSE UPには、timeleszの原嘉孝さんが新メンバー連続登場企画の第1弾として登場。

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