天才レオス・カラックス監督による“自画像的シネマエッセイ”

エンタメ
2025.04.29

『IT'S NOT ME イッツ・ノット・ミー』ⒸJean-Baptiste-Lhomeau

2022年の開催が予告されながら実現しなかったポンピドゥーセンターでのレオス・カラックス展。「いろいろ問題が多くて、結局“嫌だ”と言った」というカラックスだが、展覧会のために準備していた短編から生まれたのが、この自画像的シネマエッセイだ。映像や言葉の奔流は、ジャン=リュック・ゴダールの『ゴダールの映画史』さながら。

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天才監督の自画像的シネマエッセイ。

「ゴダールは、17歳でパリに来て“映画を発見した”当時に、健在だった偉大な映画作家のひとり。映画にはすごく感謝してるし、彼からはたくさん盗んだ。盗むのはいいことだし、僕も文学やいろいろなものから盗んでいる。大切なのは、盗んだものをどうするか」

『汚れた血』など自作や名作映画、文学や絵画、ニュース映像など多様な引用のコラージュは、彼自身や映画史を見つめつつ、現代社会を見つめることに。本作の編集中に発生したウクライナ戦争など、紛争が絶えない世界への怒りも伝わってくる。

「“まばたき”に関しての引用は、小津安二郎の言葉だと思っていたんだけど、先日、ある男性が“あれは溝口健二ですよ”と教えてくれたんだけどね。世界の状況には、みんなも怒ってくれているといいなと思う。この作品はフィクションじゃないので、現実に起きていることを入れる必要があると考えたんだ。自然なかたちで作れたという意味で子どもっぽい映画なので、タイトルも子どもっぽい。子どもが飲み物をこぼしたときに“僕じゃないよ(IT'S NOT ME)”と嘘をつくような。で、“僕じゃない、彼だよ”と言うと、政治的になる。いろんな政治家を出しているけれど、彼らが“先に戦争を始めたのは俺じゃない”と言っているのもタイトルにかけているんだ」

想いの数々を詩的なイメージに映し出す。サーモグラフィー風な映像のなか、カラックスの肉体が熱を感じさせないのに、彼が綴る文字が緑に輝く導入部は哲学的だ。『汚れた血』の名シーンに、アネットが新たな輝きを与える感動も!

「アネットは僕の娘のようなもの。彼女を誕生させてくれた人形師カップルへの感謝も表したかった。映画は内省だけでなく、身近な人への感謝を表すためのものでもある。冒頭シーンは僕が見た夢でもあるし、朝起きたら夢が小説として書き上がっている奇跡が欲しい。映画のアイデアはどこから浮かんでくるのか、僕にはまだ理解できていないんだ」

PROFILE プロフィール

レオス・カラックス監督

1960年11月22日生まれ、フランス・シュレンヌ出身。16歳でバカロレアに合格し、パリに出る。『ボーイ・ミーツ・ガール』で長編デビューし、フランス映画の旗手に。『アネット』でカンヌ国際映画祭監督賞受賞。
写真・Mari SHIMMRA

INFORMATION インフォメーション

『IT'S NOT ME イッツ・ノット・ミー』

数多くの引用や、iPhoneで撮影した映像を自宅で編集した、“ホームムービー”と呼ぶ自画像的作品。監督/レオス・カラックス 出演/ドニ・ラヴァン、カテリーナ・ウスピナ、ナースチャ・ゴルベワ・カラックスほか 4月26日よりユーロスペースほか全国公開。Ⓒ 2024 CG CINÉMA・THÉO FILMS・ARTE FRANCE CINÉMA

インタビュー、文・杉谷伸子

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