Kinky Bootsとは
2013年にブロードウェイで初演され、その年のトニー賞でミュージカル作品賞のほか、その年最多となる6部門を受賞するなど、大成功を収めたミュージカル。脚本は、『ラ・カージュ・オ・フォール』や『ニュージーズ』などのヒットミュージカルを手がけたハーヴェイ・ファイアスタインが手がけ、音楽・作詞はシンディ・ローパーが担当。誰もが生きる勇気をもらえるようなパワフルな題材と、名曲揃いの楽曲の魅力で、世界中に熱狂的なファンを獲得している。物語は、父親の会社を継ぎ倒産寸前の靴工場の再起をかける青年・チャーリーが、ドラァグクイーンのローラと知り合ったことから、ドラァグクイーンのためのブーツ“キンキーブーツ”を作ることを思いつくところから始まる。自分とは違う人を受け入れていくことの大切さを感じさせると同時に、他人とは違ってもあなたはあなたでいいと勇気をくれる作品だ。
甲斐翔真
『キンキーブーツ』という舞台は、初演も再演も再々演も観ています。ものすごく熱狂的なファンを持つ中でも、特にローラが人気キャラクター。それゆえオーディションの話を聞いたときの最初の感想は、「僕が受けてもいいのか?」でした。なぜなら僕の思い描くローラに僕はいなかったから。だから正直、ローラの扉を開けるのは怖かったです。今までの俳優人生は、運が味方してくれていたと思います。そんな中、今回ローラと向き合うという試練は、僕の人生における課題。ここをやり切れたら、何か違うものが見えるのではと思っています。
この作品が掲げるテーマに、“受け入れることで世界は変わる”というものがあるのですが、最近僕にもその言葉を彷彿する出来事がありました。実は最近、祖父を亡くしたんです。3年前に祖母を亡くした際は、ただただ悲しかったんですが、祖父の死には悲しみの中に、それに勝る責任感とでもいうのでしょうか、「泣いてる場合じゃないぞ」と言われている気がして、もっと頑張らなければと奮い立たされたように感じました。本や人の言葉ではなく、自分自身でひとつの死生観に辿り着き、成し遂げないといけないことが見えてきたんです。
稽古が始まる前の今は、ドラァグクイーンを演じる自分の姿がまだ想像がつきません。じつは初めて僕と優也さんがメイクして衣装をつけた“ビジュアル”の解禁があったのは、『ムーラン・ルージュ!ザ・ミュージカル』の大阪公演の最中でした。Wキャストだった(井上)芳雄さんには「見たよ。可愛いじゃん」と言われ、カンパニーの女性陣から「なんか悔しいんだけど!」と言われ、一応お褒めいただけたと受け止めました(笑)。
これからハイヒールのレッスン、ダンスや歌のレッスン、そして稽古も始まります。できればその前に、本当のドラァグクイーンの方々と話をして、役の魅力、作品の魅力を教えていただきたいなと。そして誰からも愛されるローラを演じたいと、心から思っています。
松下優也
オーディションの話をいただいたときはすごく嬉しかったのですが、即答できなくて。今作に対するファンの皆さんや製作陣の想い、熱量を知っているからこそ、『キンキーブーツ』のローラを演じるとはどういうことかを理解して、覚悟を決める時間が欲しかったんです。
今作に限らず役作りをするときは、まず感覚第一で取り組み、次に、役のことを、特に台本に書かれていない部分を研究しながら構築していきます。そして、舞台に上がるときは再び感覚を大事に。じゃないと観ている方に感動は届かないと思うので、そんな“感覚のハンバーガー”で。舞台上で生まれるものは、たしかにその瞬間にしか存在しません。でも、観た人の記憶に残り続けたり、作品が時を超えて愛されることもある。だからこそ、“そのときの本当をやる”ことを心がけています。また、ミュージカルで歌うときは芝居と歌をシームレスに繋げることを大事にしていて、曲のフェードインとフェードアウトのときにテクニカルなスキルが必要な点が、ライブのときとは違います。そこにこだわるのは、以前の自分が、“ミュージカルは急に歌い出す”というイメージを持っていたから。同じように感じている人たちに素晴らしいと思ってもらうためにも、芝居が自然と音楽を引き出す感覚を目指しています。
俺自身、ミュージカルや音楽、映画などさまざまなエンターテインメントに救われてきて、今の自分を形成する大きな要素にもなっています。『キンキーブーツ』も、誰かの生きる糧のような存在になれたらいいなと。今作には、“受け入れることで世界は変わる”というテーマがありますが、数年前から、自分が自分として存在するためには、強い自己主張よりも、周りの人やその意見を受け入れることが必要だと考えるようになりました。一見、矛盾しているようですけどね。ただ、この仕事をしていると周りが見えすぎるが故にうまくいかなかったり、ソリッドさに欠ける場合もあるので。バランスをとってやっていこうと思います。
松下優也×甲斐翔真
豪快でやさしい姉御肌の一面と、父親の想いに応えられなかった自分に悩み、繊細な心を持ち合わせているドラァグクイーンのローラ。そんなローラをWキャストで演じるのは、甲斐翔真さんと松下優也さん。
――おふたりは「初めまして」ではないのですよね。
甲斐:初めましては、2023年のビルボードでの僕のライブを、優也さんが聴きに来てくださったとき。音楽とダンスの世界にいた方で、ミュージカルという枠に収まらない、いい意味で異質な存在な方だと思っていました。そんなプロにライブを観てもらえるなんて、シンガーでない僕はちょっと恥ずかしかったです(笑)。
松下:20代でグランドミュージカルの主演ができるのは貴重な存在。まさに若手のホープです。
――そんなおふたりが、今回は大人気ミュージカルのWキャスト。
松下:Wキャストはすごくいいものだと思う。なぜなら、いい方向に動いたら作品が2倍によくなるものだと思うから。同じセリフと同じ歌をそれぞれの解釈で演じれば、どうしても違いが出る。つまり、自分だけが演じていては気づかないところを、気づかせてもらえるってことなんだよね。
甲斐:確かに。僕は今までの作品がほぼWキャスト。相手は全部先輩だったので、常に学びの場でした。Wキャストはライバルだと言われることが多いですが、むしろ戦友か同志です。優也さんはローラに共感する部分はありますか?
松下:すごいあると思う。ローラの一見大胆な姿の裏側にある内面の繊細さはちょっと理解できる。
甲斐:僕は最初、ローラと自分を重ね合わせられなかったんです。でもいろいろ調べていたら辻褄が合う部分が見えてきました。僕は役を演じているときの方が人前に立つのが楽しくて、甲斐翔真個人では何をしていいかわからない(笑)。ドラァグクイーンは、僕の中の“演じる”と一緒なのかもしれない。サイモン(ローラの本名)もドラァグクイーンという羽で羽ばたけたのかなと思いました。
松下:なるほどね。
甲斐:そういう意味でローラは単純に明るい人ではない。彼なりの陰を背負っているから、その表裏一体の姿を表現できないとですね。
松下:僕も今はまだローラに辿り着いていないけど、辿り着いた先の未知の自分を見るのが楽しみです。初日の幕が開くとき、ステージの上には確実にローラを演じる松下優也が存在していると思う。キンキーの魅力は、さっき翔真くんが言ったみたいに、ショーアップされた派手さと人間の繊細な内面を描く両極端な二面性。だから芝居はいいけど、ショーは…と言われてもダメだし、その逆もダメ。どっちもメーターを振り切って演じていかないとだね。
――お互いのこのシーンを見るのが楽しみ、この歌を聴くのが楽しみというのはありますか?
甲斐:ボクシング(笑)。優也さん、めちゃカッコよさそう。
松下:僕は翔真くんが最初の「LAND OF LOLA」をどう見せるのか、楽しみだなぁ。
甲斐:僕も想像がつきません(笑)。
松下:翔真くんが想像ついていないのだから、僕はもっと楽しみ。すごいところに行き着きそう。
甲斐:ミュージカルって、体験したことのない人は扉を閉ざしがちなものだけど、この作品だけは何がなんでも観に来てほしい。
松下:『キンキーブーツ』は人によっては人生が変わる可能性もある。それぐらいのものをお届けできる自信があるよね。
甲斐:はい。それにシンディ・ローパーの楽曲だから、初心者の方にも聴きやすいと思います。
松下:さらに演じる僕らの熱量はとてつもないもの。それは劇場に来ていただかないと、なかなか言葉や写真では伝わらないから。
甲斐:僕らの魂をぜひ劇場に受け取りに来てください。
松下:人生観が変わるはずです!
PROFILE プロフィール
甲斐翔真
かい・しょうま 1997年11月14日生まれ、東京都出身。2016年に出演した『仮面ライダーエグゼイド』で注目を集める。’20年に『デスノート THE MUSICAL』で初舞台・初主演を果たし、以降、『RENT』『エリザベート』『ムーラン・ルージュ!ザ・ミュージカル』などのミュージカルで活躍。12月開幕のミュージカル『next to normal』が控える。
PROFILE プロフィール
松下優也
まつした・ゆうや 1990年5月24日生まれ、兵庫県出身。2008年にシンガーとしてデビューし、’09年に俳優デビュー。舞台を中心に活躍し、ミュージカル『イン・ザ・ハイツ』『太平洋序曲』などに出演。今年、ミュージカル『ジョジョの奇妙な冒険 ファントムブラッド』に主演。来年、ミュージカル『ケイン&アベル』が控える。
INFORMATION インフォメーション
ブロードウェイミュージカル『キンキーブーツ』
2025年4月27日(日)~5月18日(日)東京・東急シアターオーブ、2025年5月26日(月)~6月8日(日)大阪・オリックス劇場 脚本/ハーヴェイ・ファイアスタイン 音楽・作詞/シンディ・ローパー 演出・振付/ジェリー・ミッチェル 日本版演出協力・上演台本/岸谷五朗 訳詞/森雪之丞 出演/東 啓介・有澤樟太郎(Wキャスト)、甲斐翔真・松下優也(Wキャスト)、田村芽実・清水くるみ(Wキャスト)、熊谷彩春、大山真志、ひのあらたほか サンライズプロモーション東京 TEL:0570・00・3337(平日12:00~15:00)