2019年9月。『DEATH STRANDING』(注1)発売直前の東京ゲームショウ(TGS)(注2)2019のSONYステージにて、声優陣を招いた生ステージを開催した。会場を埋め尽くした集客数と溢れんばかりの熱気から、“伝説のステージ”(注3)として今も語り継がれている。
翌年のコロナ禍で、コンサートやスポーツ観戦など、観客が集うリアルなイベントは中止になり、オンラインを活用したヴァーチャルなライブやイベントが定着した。ゲーム業界も、この影響からは逃れられなかった。
海外からも必ず取材に訪れる世界最大級の祭典となったTGSは、2018年には、歴代最高の入場者数を記録したが、コロナの影響で2020年はオンライン開催に変更された。2022年に、ようやく一般公開が再開したものの、小学生以下の入場とコスプレは禁止。気がつけば、ファーストパーティー(注4)の出展がないサードパーティー(注5)だけの展示会になっていた。
TGSのブースを借りるには、コジプロのようなインディーズ・スタジオは、金銭的に厳しい。それでも物販ブースだけはと、2022年からまた再開した。ゲームの展示やトークショーは出来なくても、ファンたちと直接繋がることが出来るからだ。
あれは今年の物販ブースでの新商品のラインナップを組んでいた梅雨時期のことだ。「SONYがTGSに出展するかも?」という噂を耳にした。またあの“ステージ”が出来るかも知れない。そう思うと、いてもたってもおられず、一方的に企画と登壇者のスケジュール確認に入った。まだSONYブースの青図はおろか、TGS会場全体の青図さえもない。ステージの大きさもわからない中で、内容を詰めていった。既に構成は決まっていた。オンラインではなく、生での対面を重視するステージ。だから、自ずと日本寄りになる。日本語アフレコ版のキャストが既に決まっていたので、声優陣を主軸にして構成することに。そんな折、SONYブースの位置情報が解禁された。例年でのいつもの角位置とは違う。ステージもかなり小さい。これでは、あの伝説的な集客はあり得ない。なんとしても、オンラインではない生の繋がりの素晴らしさをもう一度、観客や業界に示したい。そこでTGSのメインステージを借りるという暴挙に出た。
ところが、メインステージの最終日の午後は、CESA(注6)の恒例のステージで押さえられているという。朝の10:30からの60分枠にするしかない。さらには、登壇者や発表内容を付加していくと、どうしても枠内に収まらない。そこで開始時間を30分早めての90分枠に開催直前で変更をした。
2024年9月29日、5年ぶりの『DS2』のスペシャル・ステージ(SONYプレゼンツ)を行った。三浦大知さんと僕がMCを務め、ゲストには津田健次郎さん、水樹奈々さん、杉田智和さん、若山詩音さん、そして映画監督のレフン監督(ハートマン役)、アクロニウムのエロルソンさん(コラボ)も友情出演した。最後には三浦大知さんとダンサーたちによる『DS2』に収録される三浦さんの新曲(注7)の生歌と踊りを披露。朝早くからのステージにもかかわらず、多くのファンたち、メディアが集い、同じ空気を共に吸い、熱狂してくれた。またこの熱気は世界中に、配信という形で伝播され、アーカイブとしても、まだ拡散を続けている。21世紀のゲームショーの在り方とは? 見本市のエンタメ性とは? これからの体験型プロモーションとは? そんなことをポストコロナ時代に、再提示出来たステージとなった。ファンだけではなく、登壇者や設営スタッフ、コロナで仕事を失いつつあった機材関係のスタッフの皆さんにも喜んで貰えた。
最も印象に残ったのは、朝の開場前の風景だ。駅から会場まで続く長い待機列。全てがスマホで楽に完結出来るこの時代。チケットを事前に予約し、スケジュールを立て、早起きをして、満員電車に揺られ、長時間立ちっぱなしで入場待ちをする。スマホ世代の若者たちがそんな面倒なことをするはずがない。そう思っていた。ところがそれは、嬉しい誤算だった。彼らは好きなゲームや好きな人たちに逢う為なら、苦労も厭わない。努力も惜しまない。推しのためなら、エネルギーと時間を使う。その風景を俯瞰して、僕は感動した。ステージを企画して正解だったと。これが本当の繋がりなのだと。そして、興奮しながらも、綺麗に整列しては入場していく彼らの笑顔を見て、安心した。僕らはコロナ後も繋がっている。
2024年9月。TGSには、世界44の国・地域から過去最多の985の企業・団体が出展。また、歴代2位となる274,739人の入場者数という記録を残した。
今月のCulture Favorite
PlayStation® Presents『DEATH STRANDING 2』Special Stage!!
先日行われた、東京ゲームショウ2024でのイベント映像のアーカイブが公開中です。
『OD』 インフォメーション
「The Game Awards 2023」にて発表した、最新作『OD』の公式ティザートレーラーが、KOJIMA PRODUCTIONSの公式YouTubeチャンネルで公開中。
https://youtu.be/j1pnFI1r8N0
『PHYSINT(Working Title)』 インフォメーション
先日、完全新作オリジナルIP『PHYSINT(Working Title)』の制作を発表。
https://youtu.be/WjPc9QI3hjY
PROFILE プロフィール
小島秀夫(こじま・ひでお)
1963年生まれ、東京都出身。ゲームクリエイター、コジマプロダクション代表。’87年、初めて手掛けた『メタルギア』でステルスゲームと呼ばれるジャンルを切り開き、ゲームにおけるシネマティックな映像表現とストーリーテリングのパイオニアとしても評価され、世界的な人気を獲得。世界中で年間最優秀ゲーム賞をはじめ、多くのゲーム賞を受賞。2020年、これまでのビデオゲームや映像メディアへの貢献を讃えられ、BAFTAフェローシップ賞を受賞。映画、小説などの解説や推薦文も多数。ゲームや映画などのジャンルを超えたエンターテインメントへも、創作領域を広げている。