
お笑いカルテット「ぼる塾」の酒寄希望さんが、本屋さんで気になった本を紹介していく月1連載の第14回をお届けします!
Profile

酒寄希望
さかより・のぞみ 1988年4月16日生まれ。お笑いカルテット「ぼる塾」のメンバーで1児の母。ぼる塾のブレーンとしてネタを書いて舞台に立ちながら、子育てエッセイや作品レビューなど執筆業でも活躍中。著書に『酒寄さんのぼる塾日記』(ヨシモトブックス)など。noteにも投稿中。最近は香港映画にハマり、現在250本以上鑑賞。note
今回紹介する本は、いつもと少し違います。今までの連載で紹介した本たちは、わたしが訪れた本屋で偶然出合って一目惚れをした本でした。つまり、そのときが初めましての本です。
しかし、今回紹介する本は以前から存在を知っていました。ですが、読むことに対して心の準備がなかなかできず、購入を踏みとどまっていました。本当はすごく欲しいのに、我慢をしてしまっていたのです。この本を買いに行くために本屋さんに行くことが、どうしてもできませんでした。
ある日、用事があって出かけた際、偶然その近くに本屋さんがありました。わたしは吸い込まれるように本屋さんに入り、その本を発見しました。見つけた瞬間、体に電流のようなものが流れました。それは、自然と笑顔になってしまうような、または泣いてしまうような喜びの刺激でした。
「ずっと会いたかった」
ずらりと並んだ新刊。待望の新刊! わたしはこの光景をずっと求めていたのです。
「さくら先生、お久しぶりです。超一方的なわたしの片思いだけど、あなたの新刊が読める日を待っていました」

『たびたび』(新潮社)著・さくらももこ
わたしはさくらももこさんの大ファンです。大大大ファンです。ちびまる子ちゃんもすきだし、コジコジもすきだし、何より彼女の書くエッセイがだいすきです。相方の田辺さんと仲良くなったきっかけもさくらももこさんでした。わたしはお笑い芸人をしていますが、その笑いの原点にあるのはさくらさんの作り出すユーモアだと思います。わたしの人生はさくらももこ作品とともにあったといっても過言ではありません。
ですから、さくらさんがいなくなってしまったとき、心に大きな穴があきました。それは一生埋められない穴でした。本当に何が起こったのか信じられませんでしたし、今もどこかで信じていません。ですからこうして時が立ち、さくらさんの新刊が再び読めることになったのは、まさに夢のようでした。神さまから贈り物をもらった気分です。わたしと同じような気持ちの人は大勢いると思います。
この本は、さくらももこさんが編集長をした伝説の雑誌『富士山』から生まれた単行本未収録の11篇のエッセイを収録した旅行記です。わたしは『富士山』は全部購入していたし、何度も繰り返し読んだ雑誌です。記事の企画、取材、執筆、漫画、イラストなどすべてをさくらさんが手がけるという今考えてもとんでもない雑誌でした。その雑誌の中でわたしがとくにすきだったのが、さくらさんがいろんな所に出かける旅行記でした。(ちなみに、『富士山』収録の爆笑旅エッセイは、既刊の『またたび』という単行本でも発売されています。さくらさんと旅行の相性は抜群なのです)
ですから、今回『たびたび』に収録されたどのエッセイを読んでも当時を思い出し、「懐かしい~!」という気持ちになりました。まだ実家に住んでいたころ、寝転がって貪るように読んでいたあのころが蘇りました。

さくらさんの旅行記は、スケールが大きいのにそれでいてピンポイント! 旅先でほかの誰も真似できないような大業を成し遂げたかと思えば、せっかく旅に行ったのに何もやらないで過ごすなど、とにかくとても自由です。さくらさんの趣味に偏った旅スタイルは、さくらももこワールド全開です。旅ってこんな風に自分好みにやっても良いのかと旅の面白さを再発見させてくれます。
どの旅行記も、「さくらももこの旅行」というテーマが一貫しています。さくらさんにしかできない旅行なのです。香港にお茶を買うためだけに行ったり、大阪にラーメン目的で行ったり、福島の知り合いの実家に田舎遊びをするために行ったり、「わたしがやりたいことをやる!」という彼女の強い意志が感じられます。さくらさんの旅エッセイでは、普通の観光地巡りはなかなかありません。新潟に行ったエッセイでは、ロシア村とトルコ村に行く予定だったのに、「やっぱりトルコ村は行かないでのんびりしよう」と、旅の途中でキャンセルするような流れになったりします。
「そんなことして取れ高は大丈夫なのかな? エッセイ一本書ける?」
と、読者が心配になってしまうのですが、最終的にとても面白い旅行記になっているからさくらさんはすごいです。さくらさんはトルコ村に行かずとも、呑気に過ごしたら過ごしたで楽しい新潟旅行を書くことができるのです。さくらさんが呑気に過ごすことはさくらももこの書く旅エッセイの大事なポイントなのです。

『たびたび』は、国内も国外も大変愉快な旅エッセイばかりなのですが、わたしは中でも、さくらさんがミッフィーの生みの親であるディック・ブルーナさんに会いにオランダのユトレヒトに行くエッセイがだいすきです。さくらさんとブルーナさんという、それこそビッグスターの同士の共演! しかもそれがさくらさんのエッセイで読めるのです。さくらさんの描いたまる子ちゃんとミッフィーちゃんを見ることもできます。
さくらさんの言葉で書かれるブルーナさんはまさにミッフィーちゃんの生みの親としてわたし達読者が想像していた通りの優しい人で、ますますミッフィーちゃんのことが好きになりますし、ブルーナさんが語る仕事に対する思いから、一見シンプルに見えるミッフィーちゃんの絵本にあらゆる思いが込められ、数々の挑戦がされていることを知りました。また、さくらさんの視点から見るブルーナさんの世界を知ることで、さくらさん自身の深い愛も感じられ、人を幸せにする作品を作り出す人たちの優しさが溢れ出すあたたかい旅行記になっています。このエッセイは、まるで陽だまりのような回です。
しかし、そんな回でもさくらさんといえばやっぱりおもしろが切っても切れません!ブルーナさんとの心温まる会合のあとのまさかのオチ! 流石、さくらさん! これこそ、一筋縄ではいかないさくらさんというような終わり方にニヤニヤしてしまいました。
『たびたび』は、朝井リョウさんの特別寄稿も収録されており、「朝井さんってさくらさんのめちゃくちゃ大ファンじゃん!」と、激しい熱量が伝わる内容でそちらもとても素晴らしかったです。さくらさんのファンとして共感必須の文章です。嬉しすぎるさくらさんの新刊! 何度も繰り返し読みます! それこそ一生読む!
こちらにも、一目ぼれ!

『コンビニ兄弟 テンダネス門司港こがね村店 1巻』(新潮社)原作・町田そのこ 漫画・瀬戸ましお
コンビニがすきです。コンビニ自体もすきだし、コンビニを舞台にした作品もすきです。わたし自身、コンビニアルバイト経験者だからなのか引き寄せられます。
読んだ感想は、「タイトルから予想していたお話しとまったく違った。けれども、めちゃくちゃ面白い!」。あくまでもわたし個人の意見なのですが、コンビニ兄弟というタイトルからこの内容は思いつきませんでした! 予想外過ぎてびっくり! この作品は、九州だけに展開する架空のコンビニチェーン「テンダネス」の、さらに名物店である「門司港こがね村店」が舞台になっています。
このコンビニを名物店にしているのが店長である志波三彦(しば みつひこ)です。この人がとにかくモテます! 半端なくモテます! わたしが今まで見てきた実在&架空のキャラクターの中でも一番のモテキャラクターかもしれません。彼が悪気なく老若男女をフェロモンで虜にしてしまうシーンは毎回笑ってしまいます。モテ過ぎてギャグになるほどです。何でこの人がコンビニの店長をやっているのだろうと不思議になりますが、そんな彼が店長をやっていることこそがこの作品の大きな魅力です。
この作品はドタバタギャグ小説かと思っていると、心温まるお仕事小説で、読むと自分自身が「テンダネス」に行ってきたかのように元気になります。ネタばれになるので伏せますが、コンビニ兄弟というタイトルの理由がわかったときの爽快感は半端ないです!読みやすく、普段あまり本を読まない人にもおすすめです!

『あんなに あんなに』(ポプラ社)著・ヨシタケシンスケ
こんなの泣いてしまう。「あんなに あんなに」は、我慢しても涙がこぼれてしまう泣ける本です。泣ける本という紹介では、あまりにもそのまま過ぎて申し訳ないのですが、出先で読むと危険なので泣ける本と声を大にして言わせてください! この涙を止めるのは無理! 可愛らしい絵柄に、選び抜かれたシンプルで短い言葉。子育てあるあるがぎゅっとつまった本です。
主人公のお母さんと息子の過ぎていく日々は、わたしが息子を産んでから今まで体験してきた日常でした。本をめくりながら、「わかる!わかる!すっごくわかる!」と、何度もうなずきました。子どもは常にころころ変わるといいますか、泣いていたかと思ったらもう笑っているし、元気だったと思えば熱を出します。まさに、「あんなに〇〇だったのに もう こんな」! 何度も絵本に登場するこのお母さんの口癖は、まさに世の中のお母さん全員の口癖です。そして、絵本の中の少年はどんどん成長し、あんなに小さかったのに大きくなり、お母さんはその分老いていきます。
わたしの息子はまだ小学生で、この本でいえばまだまだ途中です。それでも、いつかはくる未来の「あんなに あんなに」。思い出しただけで今も泣いてしまいそうです。そして、この絵本は自分がお母さん目線になって読むほかに、自分が子ども目線になって、お母さんを自分の母親に重ねて読むこともできます。そちらもまた違うあたたかい涙がこぼれそうになります。家族との時間を大切にしたくなる一冊です。








































