涙なしでは読めない、ゴリラが起こした裁判|酒寄さんの一目ぼれ読書記録・第10回

お笑いカルテット「ぼる塾」の酒寄希望さんが、本屋さんで気になった本を紹介していく月1連載の第10回をお届けします!


Profile

酒寄希望

さかより・のぞみ 1988年4月16日生まれ。お笑いカルテット「ぼる塾」のメンバーで1児の母。ぼる塾のブレーンとしてネタを書いて舞台に立ちながら、子育てエッセイや作品レビューなど執筆業でも活躍中。著書に『酒寄さんのぼる塾日記』(ヨシモトブックス)など。noteにも投稿中。最近は香港映画にハマり、現在250本以上鑑賞。note

わたしは、普段は忘れているけど、あるワードを見たり聞いたりした瞬間に、自分がそれを好きだったことを思い出すものがあります。

それは、「ゴリラ」です。

好きな動物を聞かれて一番に「ゴリラ!」と、答えるほどではないのですが、動物園でゴリラのコーナーに差しかかったり、テレビで偶然ゴリラを見たり、ゴリラと名のついた商品を見かけたりすると、「ほう……ゴリラですか」と、ついつい引き寄せられてしまいます。

なぜ、ゴリラに惹かれてしまうのかというと、その格好良いヴィジュアルは勿論ですが、以前どこかで「ゴリラは全員血液型がB型」という豆知識を得たからです。それ以来、わたしも血液型がB型なので、勝手にゴリラ全体に対して仲間意識を持つようになりました。ちなみに、今調べて見たところ、正確にはニシローランドゴリラの血液型が全てB型であるだけで、ヒガシローランドゴリラにはO型もいるし、マウンテンゴリラはA型とO型のみで、B型は存在しないようです。なんてこったい! けれども、そんなことでわたしのゴリラ愛は変わりません。

ですから、今回一目惚れした本は、タイトルを見た瞬間に「ほう……ゴリラですか」が、発動し、すぐに手に取りました。そしてタイトルを改めて確認して、

「ゴリラ裁判の日?」

もっと興味を持ちました。ゴリラ裁判とは一体何なのか。ゴリラが裁判をするのか、逆にゴリラが裁判にかけられるのか、はたまた、ゴリラ裁判という名前だけれど、バナナなどが事件に関係しているだけで、ゴリラそのものは出てこないのか。わたしはあらゆるゴリラに関する可能性を頭で考えました。

「決めた! 読もう!」

『ゴリラ裁判の日』著・須藤古都離(講談社)

正直、読む前はそのタイトルのインパクトの強さからコメディ作品を想像していました。けれども実際に作品を読んだら全く違いました。

まず、この作品はゴリラが裁判をしているところから始まります。裁判をしているのは、「ローズ」という名前のメスのゴリラです(物語と血液型は関係ありませんが、彼女はニシローランドゴリラなのでB型です)。彼女は殺された夫のために動物園に対して裁判を起こしました。

それがどのような事件だったのかというと、四歳の人間の子どもが過ってゴリラパークの柵を越えてエリア内に落ちてしまい、その子どもに対して彼女の夫であるオスゴリラのオマリがじゃれついてしまったのです。動物園側は麻酔銃を使わずに実弾を用いてオマリを射殺。しかし、動物園側は彼を殺したにも関わらず、その後も何も罪に問われませんでした。夫を殺された彼女はどうしてもこの結果に納得がいかず、自分も所属している動物園に対して裁判を起こしたのです。

ゴリラの彼女が一体どうして人間に対して裁判を起こせるかというと、彼女は人間の言葉を理解し、話せるからです。ローズは人間の手話を操り、その手話の動作をすると、意味を機械が理解して音声で発してくれる特殊なグローブを使って、人間と会話をします。

そして、彼女は裁判に負けます。これはわたしがとんでもないネタばれをしたわけではなく、物語の序盤という序盤で彼女は裁判に負けてしまうのです。

「もうゴリラ裁判終わっちゃったよ!」

読んでいたわたしはその展開の速さに驚きました。こちらとしては、まだローズが人間と普通に会話をしていることに違和感を持っている最中なのに、もう裁判まで終わってしまったのです。あまりのハイスピードに、

「このあとページ数めちゃくちゃあるけど、一体どうなるの?」

と、心配になりました。裁判についても、ローズは可哀想だけど、どう考えても動物園側が勝つようにしか思えない内容でした。麻酔銃ではなく、実弾を使ったことについてもゴリラの生態をよく知る動物園側からしたら、そう判断しなくてはならないことだったのです。そこは人間の子どもよりも明らかに力の強いゴリラにとって、どうにもならなかったことでした。

「万一、ローズがもう一度裁判を起こしたとしても、この判決はどう考えてもひっくり返らないと思うな。判断する陪審員も全員人間だし……」

ですが、裁判後、物語はローズの過去に戻ります。

 

ここからがすごいんです!!

彼女がまだアメリカの動物園で暮らしておらず、カメルーンのジャングルに住んでいた頃の話が始まり、どうして彼女が人間の言葉を身につけられるようになったのかについてわかっていきます。それにより、この作品がただ単にぶっ飛んだお話なのではなく、「ゴリラが人間の言葉を話す可能性も0ではないのかもしれない」と、読者に対して思わせるほどの説得力を持たせます。この作品は決してイロモノではありません。

ジャングルで普通のゴリラとして暮らしていたローズは、彼女の母ゴリラや人間の研究者たちによって人の言葉を学習し、自分は仲間のゴリラよりも人間に近い感情を抱いていることに気づき、徐々に自分がゴリラとしてジャングルで暮らしていくことに違和感を持ち始めます。そして、彼女の身に色んなことが起こります(本当にここでは説明しきれない程、ジャングルでは色んな出来事があります)。なんだかんだあって、人間の言葉を理解するゴリラとして発見された彼女は、憧れのアメリカに渡り、彼女の夫の住んでいる動物園へと移送されるのです。そして、悲しいあの事件に繋がっていきます。

この物語はゴリラのローズの話でありながら、ひとりの人間の少女が女性へと変化していく成長記録のようにも読めます。

過去を知った後だと、彼女に降りかかった悲しい事件がより一層悲しい事件として再認識されます。彼女と夫の絆、そして、彼女と動物園の間にも並々ならぬ愛情があったのです。それでも、彼女は裁判を起こしました。

そして、物語が再び現在に戻ったとき、彼女は改めてもう一度、動物園に対して裁判を起こします。どうして絶対に勝てないと思われる裁判をもう一度彼女が起こすのかは、裁判が始まった後の展開を読むとわかり、これは鳥肌が立つほどすごいです!

この作品の根本にあるのは、「動物と人間の命はどちらが重いのか?」というテーマではありません。わたしは最初、そのテーマで裁判が進んでいるものだと思っていたので、ローズの訴える真のテーマを知ったときには衝撃を受けました。わたし達にとっての当たり前が、果たして本当にそうなのか、読んでいて足元がぐらつきました。そして、最後の最後の結末はもう涙なしには読めませんでした。本当の幸せについても考えさせられます。

「ゴリラ裁判の日」という強烈なワードに惹かれて読み始めましたが、この作品を読んだ今、ますますゴリラに対する愛が急上昇しています。主人公のローズはとても可愛いし、イケメンゴリラもたくさん登場します。ゴリラに興味がない人も、この作品を読んだ後は、「ほう……ゴリラですか」と、ゴリラを見るたびに引き寄せられるようになると思います。

絶対に勝てないと思われる裁判を、なぜ、ゴリラの彼女は再び起こしたのか。ぜひ、人間は読むべきだと思います。もちろん、ゴリラにも読んで欲しいです!

こちらにも、一目ぼれ!

『いつか、アジアの街角で』著・中島京子、桜庭一樹、島本理生、大島真寿美、宮下奈都、角田光代(文藝春秋)

わたし自身が多くを旅したわけではありませんが、アジアの国々に惹かれるものを感じて、アジアをテーマにした本を見つけると結構な頻度購入しています。昨年、香港をすきになってからはさらにそれが加速しました。今回手に取った、『いつか、アジアの街角で』も、アジアという文字と表紙の美味しそうな山盛りマンゴーかき氷のふたつの魅力に刺激されて買わずにはいられませんでした。

読んで感じたのは、いろんな作家さんの小説を一度に楽しめるアンソロジーという形は、とてもアジアっぽいということです! このアンソロジーは、アジア各地の国を舞台にしたお話よりも、日本の中で体験するアジアのお話が多いです。女子大生が出会った風変わりな台湾出身の青年、新大久保の探偵が事件に巻き込まれる台湾料理屋、会社に行けなくなった女性が作る大根餅、自分をコントロールできない少女と日本に残った台湾の老人など、人と人の交流からアジアというものを感じられます。

わたしは中でも、大島真寿美さんの書かれる「チャーチャンテン」というお話に心惹かれました。かつて香港が大好きだった女性と香港から日本にやってきた少女の熱い交流が、わたしの知りたい香港という場所を小説という形で心温かく教えてくれるのです。さらに、わたしがアジアをすきになるきっかけをくれた作家、角田光代さんの「猫はじっとしていない」も、読むとやっぱりアジアって不思議な魔力があるよなと、強く実感する素晴らしい作品です。

『ドラミちゃん』著:藤子・F・不二雄(小学館)

ドラミちゃんといえば、黄色い体に真っ赤なリボンが特徴的な、ドラえもんの可愛い妹ロボットです。わたしはドラミちゃんのことが大大大すきです!こちらの本はなんと丸ごと一冊ドラミちゃんになっています!

藤子・F・不二雄氏生誕90周年&ドラミちゃん登場50周年を記念して、『ドラえもん』の中からドラミちゃん登場エピソード17作品が厳選収録されています。ドラミちゃんの記念すべき初登場エピソードも収録されており、大好きと言いながら実は知らなかったドラミちゃんの初登場をやっと知ることができました。わたしのイメージするドラミちゃんはお兄ちゃんのドラえもんよりもしっかり者で頼りになる妹でしたが、この漫画でドラミちゃんを読むと、思ったよりもおてんばでうっかりさんで、新たな可愛らしいドラミちゃんの一面を知ることができました。

また、ドラミちゃんが登場することで生まれる普段と違うのび太の成長、ドラえもんとのび太の友情もあり、日常の面白さだけでなく、感動エピソードも多く収録されていました。出木杉くんとしずかちゃんの仲を嫉妬するのび太に対し、ドラえもんとドラミちゃんどちらがのび太のキューピットとして活躍できるか兄妹で競い合う「ドラえもんとドラミちゃん」、ドラミちゃんにのび太のお世話役を奪われるのではないかとドラえもんが落ち込む「ションボリ、ドラえもん」は今まで読んだことがなかったのですが、どちらも心にジーンとくる名作で出合えてよかったです!

酒寄さんの一目ぼれ読書記録・連載バックナンバー

第1回『そりゃあもう いいひだったよ』

第2回『アンソロジー カレーライス!!大盛り』

第3回『壇蜜』

第4回『パリのすてきなおじさん』

第5回『炒飯狙撃手』

第6回『感情的にならない本』

第7回『答えは風のなか』

第8回『ゆうずどの結末』

第9回『グレタ・ニンプ』

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写真・中島慶子(本) 文・酒寄希望

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