オモコロ新編集長・みくのしん「編集長らしくあるために、とりあえずカッコつけています」

昨年20周年を迎え、インターネット界では長寿Webメディアとなった「オモコロ」。新たに編集長に就任したみくのしんさんに、これまでの軌跡と、新体制への心構えを聞いた。


新体制で臨む「オモコロ」編集部。その新編集長をライターとして活躍されてきたみくのしんさんが務める。

── 「オモコロ」新編集長就任、おめでとうございます! 反響はいかがですか?

みくのしん 思ったより褒めムードで驚きでした。発表まで気がかりだったんです。前編集長の原宿さんは「オモコロ」のシンボルだったし、誰も交代を想像してなかったと思うんです。だから「みくのしんかよ」と言われる気がして…。でも記事を公開したら不思議と歓迎されたので、ちょっと怖かったですね。

── “怖かった”とは?

みくのしん 僕、良いことがあったら悪いことが起こるって信じてるんです。この歓迎ムードは何かの振りにすぎない、危険の前触れ、この後谷底に落っこちるのか…と。でも今のところ何も起こってなくて、それも怖い。何かがチャージされてる状態というか…。

── みくのしんさんなりに、編集長として心がけていることは?

みくのしん じわじわ“編集長”に侵食されていってる気がしますけど、そうですね、カッコつけたりしてます。

── なるほど。具体的には…?

みくのしん 休日にさらっとフルーツを買う。フルーツは余裕の象徴ですから。あと名作映画を観る。編集長という人間は娯楽じゃなく半ばインプットで映画を観てると思ったので、座って前傾姿勢で映画を観てます。こども編集長って感じですね。

── キッザニアみたいです。原宿さんもエンタメに詳しかったですし、インプットは大事ですか。

みくのしん 僕は「編集長」を原宿さんしか知らないので、どこか真似ている部分はあるかもしれないですね。自分の発言や身の振り方が原宿さんぽいなと思うときもあります。

── みくのしんさんにとって原宿さんはどんな存在でしたか?

みくのしん 面白すぎるおじさんです。言葉を選ばないで言うとカリスマですね。普通の業務はだらしなかったりするんですけど、「面白いという一点で上にいる」というすごみがある。その納得感をライター全員が持っていたと思います。僕はそういう面でも原宿さんみたいにはなれないから、別の部分で編集長にならなきゃと思ってますね。

── 編集長交代はどういう流れで決まったんでしょう?

みくのしん 今Webメディア全体が元気がなくなってるから「オモコロ」も体制を新しくしてみよう! という流れですかね。「マジ!?」と思いましたけど、正直薄々そんな気はしてたんですよ。

── 予感があったんですか。

みくのしん 「オモコロ」って平日は毎日更新なので、編集がライターさんとやり取りをして編成を埋めていくんです。マメに連絡を取って、記事で悩んでいたらリモート会議や撮影もお手伝いするし、みんなでごはんにも行く。それって大人になって友達ができるような体験というか、「オモコロ」の醍醐味でもあるんです。僕自身ライターの頃にあの空気を感じて嬉しかったし、ずっと引き継がれている伝統みたいなもので。で、ライターから編集側になったとき、それまで原宿さんがやっていたその一連のコミュニケーションをいつの間にか僕がやることになったんですよ。

── 責任重大ですね。

みくのしん 僕も入りたてだったから「頑張ります!」みたいな感じで引き受けて。つまり僕がずっと編集長みたいなことをしてたんです。たいしたもんですよ。

── 「この記事いいね」とか「何曜日に配信しよう」とか、みくのしんさんが決めていたと。

みくのしん そうなんです。本当はもうちょっと原宿さんに「この記事は別の曜日がいい」とか言われながら、背中を見たかったし、二人で「撮影行くぞ!」「はい!」とかバディをやりたかったんですけどね。

「100万PVになる」がお笑い芸人をライターへ

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── 「オモコロ」ライターになったきっかけは?

みくのしん それまでお笑い芸人をやってたんです。でも鳴かず飛ばずで、事務所に所属するオーディションも受からない。そんなときに、当時後輩で作家をしていた、現編集部員のかまどが「『オモコロ』って知ってます?」って教えてくれて。いわゆる漫才やコントのようなお笑いとは違うけど、面白い! と思って読むようになったんです。いろいろあって落ち込んでいて、毎日「オモコロ」だけが楽しみで。で、「日本おもしろ記事大賞」という記事のコンテストのお知らせを見て試しに応募しようと。

── それまでネットで記事を書いたことはあったんですか?

みくのしん なかったです。なので何を書いていいかわからなくてモジモジしてたら、締め切り1週間前くらいに記事の書き方講座が開催されたのですぐ申し込みました。新宿の会場で「記事の導入部分を書こう」というお題に沿って文章を書くんですけど、僕は「芋を光らせます」っていう序文を発表したんですよ。そしたら原宿さんに「これ本当に書いたら100万PVになるよ」って言われて。

── すごい!

みくのしん で、僕は直感的にここに来る人たちは実際に書かない人が9割だから、実際に記事を書いたら注目されるはずと思ったんです。面白くなる自信もあったし、芋を光らせればいけると。今でも覚えてますよ。会場を出たら雨が降っていたけどなんだか未来が見えた気がして嬉しくて、傘を差しながら小走りでそのまま東急ハンズに行って「サツマイモを光らせたいんですけど」と相談したら「インターネットで調べてください」と言われました。

── そうなんですね。芸人としてやっていたお笑いの方向性とは近い記事だったんでしょうか。

みくのしん いや、全く違うと思います。というかその頃は漫才でもコントでも自分が出せてない状態だったんです。それとは別で先輩ライターのARuFaさんの記事とかを読んで「オモコロ」のイメージだけを理解した気になっていたと思います。そんな曖昧だけど「いける」って感じが良かったのかもしれません。

── なるほど。前からお笑いはお好きだったわけですが、どういうジャンルが好きだったんですか?

みくのしん 『内村プロデュース』『水10!』『「ぷっ」すま』や『やりすぎコージー』みたいな深夜のお笑い番組とか、『爆笑オンエアバトル』みたいなネタ番組も好きでした。基本テレビです。

── 芸人にはなりたかった?

みくのしん 面白いということだけでメシを食うってすごいな、カッコいいな、なれたらいいなとはずっと思ってました。でも度胸はなくて、高校卒業してすぐ就職したんです。工業高校だったし、勉強が苦手で大学には行きたくなかったんです。だって“大”ですよ?

── …大?

みくのしん 小からやばかったし、中もしんどかった。高も別に義務じゃないのになんで行かないといけないんだろうって思ってたのに、大て。よく大学は人生最後の夏休みとかいわれるけど、勉強は絶対するじゃないですか? これは、何かの策略だ、と思って就職しました。

── 会社員生活を送るんですね。

みくのしん はい。精密機器メーカーに入りました。でも高卒の等級だと給料が低い。大卒と同じ等級になるには試験や論文が必要で、高卒の等級のままのおじいさん社員もいる。俺もこうなるのか、それならずっとやってみたかったお笑いにチャレンジしてもいいかもと。3年くらい働いてから養成所に。

── 養成所を卒業した後は?

みくのしん 吉本じゃないので、出ても所属にはならないんです。なのでいったんフリーになりました。それでライブのオーディションを受けているとき「オモコロ」に出合って──という感じですね。

── そういう流れだったんですね。それまでネットの笑いの文化に触れたことはありました?

みくのしん ないです。そもそも僕は今でもですが、インターネットに全然詳しくないんですよね。だから「オモコロ」に入ったときは困りました。あるあるも流行も知らないし、ポツーンでした。オタクだなぁって思ってました。

── よく馴染みましたね。

みくのしん とにかく飲み会のお誘いは絶対行くし、イジられたら大きい声でリアクションをするし、「インターネット感がないヤツ」というように見えたのも今振り返ると良かったのかもですね…。

── それが個性になったと。

みくのしん はい。これは今でも大事にしています。かまどとのラジオ『かまみく』をやっていて思うのは、お互い見てるものも影響を受けた言葉も違う。自分にとっては当たり前でも相手には当たり前じゃない状態が好きなんですよね。SNSやYouTubeで同じものを見ていたら同じ感覚になっちゃう。興味ない分野にも面白いことはたくさんあるはずで、だから僕はネットじゃなく映画やテレビを観たり、面白くて気になってるものも我慢したりしてます。

── あえて別の方向を。

みくのしん プライドも考え方も一緒にいると似通ってくるけど、そこから外れたほうが面白そうだなと。影響されたワードの元ネタがバレると恥ずかしいですしね。

── インターネット強者が多い「オモコロ」編集部のなかで、バランスをとってるんですね。

みくのしん 「お母さん的なミス」が好きなんですよ。『ラーメン二郎』を『二郎ラーメン』って言っちゃうみたいな、不意のアクシデントが好きで。つまりイレギュラーを起こしたいんです。そのためには物事を知らずにプライドを削いだ状態でコミュニケーションをとるのが大事なんじゃないかなと思っています。これはここだけの話なんですが、最近「イレギュラー」をコントロールできるようになってきたんです。コツは気持ちより体を先に動かすこと。考えない。電話が鳴った瞬間に受話器を取る感覚です。「やだー、誰? どうしよう何を話す!?」とかを考えず、間を置かず「やだー」の状態でパッと取る。それでも人生は動き続けるのが面白いんですよ。これはイレギュラーが起きやすい。

── だいぶ怖いですね。今でも記事を書かれていますが、書くことは楽しいですか?

みくのしん しんどいです。終わりにすればいいのに別の展開が浮かんで自分でも「いつまで書くんだよ」って思います。でも辛いことって体にいい気がするんですよね。高校時代、体重が100㎏ぐらいあったんですけど、楽して痩せるんじゃなく「走るの嫌だ」と思いながら走って痩せたんです。イヤイヤ「しょうがないな」って思いながらやれるから、なんか始めやすいし。しんどいって必ず実になるから最終的に嬉しいんですよ。だから今はめっちゃしんどいですね。

Profile

みくのしん

東京都出身。編集者、ライター。2016年、「芋掘りを100倍感動させるために、サツマイモを光らせてみた」の記事でバーグハンバーグバーグが運営するWebメディア「オモコロ」にてライターデビュー。'22年、同社に入社し編集部員に。今年2月「オモコロ」編集長に就任。共著に『本を読んだことがない32歳がはじめて本を読む』(大和書房)など。

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写真・内田紘倫(The VOICE) ヘア&メイク・いたつ インタビュー、文・飯田ネオ

anan 2497号(2026年5月27日発売)より
Check!

No.2497掲載

ときめきカルチャー 2026

2026年05月27日発売

今、胸をキュンとときめかせるモノ・コト・ヒトの最前線を集めた特集。ぷくっとしたプラバンの素材感に魅了される、話題のストップモーションアニメや白熱のオーディションコンテンツなどをピックアップ。それぞれの魅力に迫ります。

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