一ノ瀬ワタル「役者の仕事はチームプレー。協力し合えるところが好きなんです」

Netflixオリジナルドラマ『サンクチュアリ -聖域-』の主演で、一躍注目の俳優となった一ノ瀬ワタルさん。役との向き合い方やウサギとの日常など、アツく語ってくれました。


身長178cmで、がっしりとした体つき。その迫力とは裏腹に、人懐こい笑顔と大きな声で、気さくな人柄を窺わせる。一ノ瀬ワタルさんといえば、悪役を印象的に演じることでも定評があるが、『サンクチュアリ -聖域-』でのブレイク後は、優しい父親役など、より幅広い役柄で表現力を発揮。最新作は、主演映画『四月の余白』。一ノ瀬さんが演じるのは、元半グレで服役経験もある西健吾。更生施設を営み、問題児と根気よく向き合う一方で、時には体罰も辞さないという難しい役どころだ。

── 『四月の余白』は、映画『空白』などで知られ、鬼才とも評される𠮷田恵輔監督作です。まずは出演の経緯を教えてください。

一ノ瀬ワタル(以下、一ノ瀬) 自分が聞いた話では、𠮷田監督がこの映画の企画を考えた時に「西役をできるのは一ノ瀬しかいない」と言ってくれたそうなんです。『サンクチュアリ -聖域-』が終わってから、しっかり主役を演じるのはこれが初めてだったので、オファーをいただいた時はちょっとビビりましたが、その言葉を伝え聞いて、背中を押してもらえたというか。それに、西はほかのキャラクターを受け止める側なので、自分がいつも意識しているような味つけの濃い演技ではなく、「できるだけ一ノ瀬さんのままでいてほしい」と。そんなふうに言われるのは初めてだったこともあり、すごく面白そうだなと思いました。

── それまで𠮷田監督の作品を、観たことはありましたか?

一ノ瀬 けっこう観ていましたよ。『ヒメアノ〜ル』に『愛しのアイリーン』『空白』。やっぱり𠮷田監督の作品は、人の心の深さみたいなものを感じられるところが好きだったりするんですよね。実はまだエキストラだった頃に、𠮷田監督の映画のオーディションに行ったことがあって。その時は受からなかったんですけど、𠮷田監督は俺のことを覚えていてくださって、そんなご縁からも今回オファーをいただけて嬉しかったです。現場では、怖い監督なのかと思いきや…むしろ恐ろしいぐらいにいい人で! 令和になってあんな監督を見たのは初めてです。

── 本作の物語や、西のキャラクターについては、どのように解釈されましたか?

一ノ瀬 最初に台本を読んだ時は、ちょっと心配なところもあったんです。西は、対話でどうにもならない子どもには手を上げ、それを肯定しています。そこが気になっていたんですけど、演じていくうちにかなりテーマの深い映画だなと思うようになって…。西は昔、凶悪な罪を犯して、刑務所に入っていたこともある男です。でも、いまは過去を反省して、更生施設を運営している。そして、そこに集まる子どもたちに、ものすごい愛情を注いでいるんです。ただ、だからといって俺の犯罪歴がなかったことになるわけではありません。あ、いま西のことを「俺」って言っちゃいましたけど、撮影中に西役に入り込みすぎて、つい「俺」って言ってしまうんです。とにかく俺は、どうすればよかったのか、何をすれば子どもたちが幸せになれたのか。難しすぎて、自分には答えがわからなかったです。

── 「俺」という発言もありましたが、いつもそれぐらい役に入り込むのでしょうか?

一ノ瀬 毎回というわけではないんですけど…。芝居に“潜る”という表現が正しいかどうかはわかりませんが、いかに深く潜って海底にいる魚を捕らえるか、みたいな感覚です。そうするほど役を理解できる気がするから。このやり方を教えてくれたのは、『サンクチュアリ -聖域-』の江口カン監督です。ものすごく厳しい監督で(笑)、演技指導されているうちに、頭ではわかっているのに、心では自分が猿桜(一ノ瀬さんの役名)なのか、一ノ瀬ワタルなのかがわからなくなって…。以来、その状況になるのが、役を理解するうえでの手がかりになっています。

── そこまで潜ると、撮影中は日常との切り替えが大変そうですね。

一ノ瀬 切り替えとか、考えたことがないかも。「本番」って声がかかると、パッと変われる役者さんもいるじゃないですか。でも、自分は、それができるかわからないんです。だから、助走はめちゃくちゃ長くとっておきたい。そうすると日常との境目がなくなるというか。台本も、一冊まるごと暗記してから現場に行きたいんです。今回は、愛知県の海辺の街でオールロケだったんですけど、景色を楽しむ余裕もなく、撮影以外はずっとホテルに閉じこもっていましたから。

── 完成した映画を観て、どんな感想を持ちましたか?

一ノ瀬 試写で1回観ましたが、自分の作品は3回ぐらい観ないと、落ち着いて観られなくて(笑)。まだちょっとわからないけど、いい作品になっていると信じたいです。この映画は、過去の過ちとどう向き合うかなど、何が正解なのかを問いかけるような作品です。観てくださった方が、どんな感想を持つのかも気になります。

猿桜を完結させたい。自分のなかで終わっていないから

── 一ノ瀬さんは、俳優になる前は、キックボクシングの選手だったそうですね。

一ノ瀬 中学生の時に、K-1(打撃系格闘技)を見たのがきっかけでした。めちゃくちゃ憧れちゃって、「俺もあれになりたい!」って思ったんです。10代の頃からジムに所属して、本格的にトレーニングをしていました。

── キックボクシングをやめてしまったのは、なぜでしょう?

一ノ瀬 キックボクシングの原動力はヒーロー願望のようなもので、悪者を倒してみんなを喜ばせてやる! みたいに思っていたんです。でも、少しずつ強くなっていざ試合をやるとなった時に、対戦相手に会ったらすごくいい人で。しかも、その試合は自分が勝ったんですけど、負けた相手の方が泣いてしまって…。あれ、なんか思っていた感じと違うぞと。勝っても全然嬉しくないし、罪悪感のほうが大きいという。そこからだんだん違和感を抱くようになりました。

── そんななか、俳優の仕事と出合って興味を持つように?

一ノ瀬 はい。自分は「真樹ジムオキナワ」っていうところに所属していたんですけど、真樹ジムの六本木本部には三池崇史監督が所属されていて。ある時、監督が『クローズZERO Ⅱ』(2009年公開)を撮っているって聞いたんです。前作の『クローズZERO』の大ファンだったから、撮影の様子をどうしても見たくて、「エキストラで出させてください!」とジムに頼み込みました。それで参加させてもらったら、めちゃくちゃ楽しくて! その後、別のジムに移籍し、キックボクサーだけでは食えなかったので、エキストラのバイトを始めました。

── エキストラのアルバイトから、本格的に俳優業へ?

一ノ瀬 エキストラが楽しくて、仕事がめちゃくちゃ回り始めたんです。その頃は「スーパーエキストラ」って言われていましたから(笑)。そのうち現場で「役者にならない?」って声をかけていただくようになって、役者に転身したっていう感じですね。エキストラの頃から悪役ばかりだったんですけど、悪役に全振りすることで主役を引き立てられて、いい作品づくりに貢献できる。映画やドラマは、そんなふうにみんなで協力しながら作っていくものだと思うんです。誰も傷つけずに済むところが、自分には合っている気がします。

── 最近は俳優業に加え、桐谷健太さんとポッドキャスト『きりのせラジオ』もやられています。先輩である桐谷さんととても仲がよさそうですが、人と打ち解けるのは得意なタイプですか?

一ノ瀬 いや、全然です。とくに芸能界の友だちは数少ないと思います。相手と一線を越えるのが怖いのかな? 桐谷さんは、あちらから越えてきてくれたんですよね。自分がまだエキストラとしてドラマに参加していた時、ごはんに誘ってくれて。桐谷さんにも「ワタルはいいやつなのに、なんでそんなに人付き合いが苦手なんやろう」って聞かれたことがあるんですけど…。なんか自己分析みたいになっちゃって、この話をすると長くなるのでやめておきます(笑)。

── オフの日は、どんなふうに過ごしているのでしょう。何かハマっていることなどありますか?

一ノ瀬 ハマっているのは、ゲームとウサギです。ウサギは、びっくりするぐらいかわいいです!

── 一ノ瀬さんスタッフのインスタグラムにも登場しますが、ウサギを飼われているんですよね?

一ノ瀬 そうなんです。ウサギの話も長くなりますけど、してもいいですか?(笑)飼い始めたのは『獣になれない私たち』(2018年放送)っていうドラマに出演したことがきっかけです。黒木華さんが演じていた朱里という役から、ウサギを預かるというシーンがあったんですけど、その子がタレントウサギではなくて。撮影後はスタッフさんが飼われるのかな、ぐらいの感じだったんです。でも、これも何かのご縁だと思い、自分がいただいてもいいですか? とお願いして飼うことになりました。名前はドラマでの役名のまま「たっちん」です。飼ってみたら、もうめちゃくちゃかわいくて♡ 「たっちんが月に旅立ったら、俺はこの世界で生きていけない」と思うほどになり、たっちんが3歳になった時に、お嫁さんをいただきました。いまは2羽の間に子どもが生まれて、みんなで8羽。たっちん、ビッグダディ状態です。

── それは賑やか! 最後に、今後の目標も聞かせてください。

一ノ瀬 役者として一番やりたいのは、『サンクチュアリ -聖域-』の続編で猿桜を完結させること。自分のなかでは、まだ終わっていませんから。プライベートでは、大久野島っていうウサギがいっぱいいる島に行ってみたい。これは夢なんですけど、あの島でウサギの面倒を見ながら生涯を終えられたら幸せだなと。なんなら獣医の免許も取って。それでウサギたちが「私たちを救ってくれた一ノ瀬ワタル」みたいな像を、草でもいいので作ってくれたら嬉しいです(笑)。

Profile

一ノ瀬ワタル

いちのせ・わたる 1985年7月30日生まれ、佐賀県出身。俳優。キックボクサーとして活動しているなか、エキストラの仕事と出合い、俳優に転身。『HiGH&LOW』シリーズ(2015年~)や、映画『ヴィレッジ』('23年)などに出演。初主演作のNetflixオリジナルドラマ『サンクチュアリ -聖域-』('23年)が世界的にヒット。

information

『四月の余白』

主演映画『四月の余白』は、6月26日、新宿ピカデリーほか全国公開。西健吾(一ノ瀬ワタル)は、元半グレ、元受刑者という経験を教訓に、全寮制の更生施設「みらいの里」を運営。家庭や学校で手に負えない子どもたちを預かる。西は「人は変われる」と信じて子どもたちの更生を支えるが、自らの過去により、その信念が揺るがされ…。

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写真・小笠原真紀 スタイリスト・皆川bon美絵 ヘア&メイク・星野加奈子 インタビュー、文・保手濱奈美

anan 2501号(2026年6月24日発売)より
Check!

No.2501掲載

魅せるカラダ 2026

2026年06月24日発売

いま鍛えるべき、絞るべきは上半身!? 美人度を底上げする「直角肩」「美シルエット」をつくるための最新メソッドのほか、骨格別のファッションでの魅せ方など、いまの時代ならではのボディメイク法を紹介。

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