
ドラマ『SHOGUN 将軍』で脚光を浴び、公開中の主演映画『Never After Dark/ネバーアフターダーク』で再び世界の舞台に。グローバルに注目を集める穂志もえかさんの意外なる心のうち。
米国制作のドラマ『SHOGUN 将軍』での静かで豊かな表現力と凛とした姿が世界を魅了した穂志もえかさん。この夏は、賀来賢人さんプロデュース、デイヴ・ボイル監督という『忍びの家 House of Ninjas』コンビによるホラー映画『Never After Dark/ネバーアフターダーク』で堂々、主演を務める。世界から熱視線を集める中でも、波に呑まれることなく軽やかに。その澄んだ瞳は、今の環境やこれからをまっすぐに見つめている。
── 2021年にアンアンに登場していただいた時、すでにハリウッドのリモートレッスンを受けていると話されていた記憶があります。海外作品を含む今の活躍はその努力が実を結んだということでしょうか。
穂志もえか(以下、穂志) そんなことを話していたんですね! 確か’21年の春に『SHOGUN』に出演が決まったんですが、その前後にリモートレッスンを受けていた記憶があったんです。じゃあ、やっぱりその前からレッスンしていたんだ…! コロナ禍で仕事も少ないし、ということでレッスンを始めたような。リモートならハリウッドでも受けられるよね? ということで。
── リモートという制約を逆手にとって。面白いですね。
穂志 ですよね。アメリカの映像作品は、動画でのオーディションが主流で、私の場合も日本で撮影した動画を送って役が決まりました。今はスマホ一つあれば世界中どこからでもオーディションに参加できます。確か私にとって初めての動画オーディションだったんですが、「この作品は特別だ…!」と思って受けたとかではまったくなく。その後「決まったからカナダに滞在することになる」と言われてびっくり。それが『SHOGUN』だったんです。
── 海外をそこまで意識していなかったとは意外です。上智大学出身で、もともと国際志向かと…。
穂志 全然! ドイツ文学科だったので留学する同級生は多かったですけど、私はドイツに行ったこともなく(笑)。自分のテリトリーを出ることに臆病な子でした。
── では海外で大作に挑戦することには不安もありましたか。
穂志 当初は『SHOGUN』が大作であることも知らず…。撮影中のサポート体制に予算の潤沢さを感じることはありましたけど、ヒットするかはまた別だと思ってたし。結果として北米で大ヒットして視聴数がすごい勢いで増えてると聞いたときは驚きました!
── 『SHOGUN』配信のタイミングには帰国していたんですか。
穂志 はい。賀来賢人さんから『Never After Dark』のオファーをいただいたのはその直後でした。賀来さんは当時すでに『忍びの家』をヒットさせていて。まだ日本でそこまで知名度のない『SHOGUN』を観てから「その演技が素晴らしいので」とオファーをくださったので、アンテナの高い方なんだなと思ったことを覚えています。
── 今回の作品は、賀来さんとデイヴ・ボイル監督の映像制作会社「SIGNAL181」の第1作となるホラー作品。最初に台本を読んで何を感じましたか。
穂志 台本を読んだ時はファンタジーのような不思議な世界観を感じました。なぜこの映画を作ろうと思ったのかを知りたくなって、デイヴにメールで尋ねたら長文の返信が来て…。ごく個人的な内容なので詳細は控えますが、今回私が演じる霊媒師の主人公・愛里を通して「祈る」ことの危うさ、現実に目を向けることの大切さを投げかけるものにしたいと。大半の人が信仰を持つ国に育ったデイヴだからこそのメッセージというか…。そういう深いテーマがあるなら特殊な世界でも演じられると思って受けました。
── 確かに今、世界ではそれぞれが信じる正義に従った結果、さまざまな分断が起きているような気がします。自分の正しさが誰かを犠牲にしていないか。そんなことを感じました。
穂志 そう受け取ってもらえたらうれしいです。一つの屋敷の中で起こる超常現象を描いているように見えて、霊より人間が一番恐ろしいのかも…と感じてもらえれば。
── 「SIGNAL181」の撮影現場はいかがでしたか?
穂志 まず驚いたのはメンバーが少ないこと。賀来さんとデイヴとあと数人。その全員に「僕たちの映画」という思いがあるのが素敵でした。それに賀来さんが、どうしたらみんながいい状態で仕事できるかという部分もすごく考えていらした。例えば食事はお弁当でなく、あたたかいケータリングとか。
── そのかいあって、すでに海外で賞も獲得されていますね。
穂志 海外でも面白がってもらえたのでうれしかったです。完成してみたら、緊迫感あるシーンも効果音がついて、意外とエンタメっぽく仕上がっているのがいい。
── でも歯を抜くとか五感に訴える怖さは世界共通ですよね?
穂志 いやそれが! サウス・バイ・サウスウエストの映画賞の上映では、賀来さんが歯を抜くシーンで笑いと歓声が起きたんですよ!「はっはっは、がんばれ〜」って手を叩きながら(笑)。そういう反応の違いもありつつ、国や文化を超えて楽しんでもらえているのを肌で感じて。「映画ってこういうもんだよな、これがうれしいから演じているんだよな」ってあらためて感じました。
── 穂志さんご自身のお話も聞かせてください。そもそも俳優を志したのは何歳の頃でしたか。
穂志 中学3年生くらいです。それまでクラシックバレエを続けていたんですけど、家の都合でやめなくてはいけなくなって。でもバレエ一筋の人生だったから燃え尽き症候群に近い状態になりまして…。で、その後ドラマとかを見ているうちに俳優をやってみたいなと思うようになりました。
── そこから俳優になって活動されて今や世界進出。その道のりの中で、どういう分野で演じたいとか夢や目標はあったんですか。
穂志 それが、ないんです。将来を定めてそこから逆算して…みたいな考え方がいま流行ってますが、私は人生を計画してうまくいった経験がなくて。
── それって世界で活躍する人の必須項目ではないんですね。
穂志 私は計画通りに物事をやる能力がないし、バレエの件しかり、どうがんばっても方向転換せざるを得ないことがあるのも知っている。だから本当にここまで流れに身を任せていたというかんじです(笑)。
── 一度は目標設定などを試みたこともあるんですか?
穂志 あります! でも何かに縛られて、自分で意識してコントロールして得られる結果より、偶然や無意識など環境によってもたらされる結果の方が、壮大で面白いことになる気がするんです。実際に今もわけわからんけど、自分が20代前半の頃思い描いていたプランより面白いことになっている(笑)。ハリウッドには興味がなかったし、むしろ邦画に出たい思いが強かったんです。海外では大きな演技をする人の方が向いていると思い込んでいましたし。
── セリフも仕草も大きそうなかんじはしますよね。
穂志 「欧米はすべてが大きい!」という先入観がありました。私は日本で大きな演技を求められてもうまくできない方だったんで『SHOGUN』の撮影前は自分が通用するのか不安でした。でも現場に入ると、みんな私の演技を喜んでくれる。「なにがおもろいねん…?」と思いながら、あらためて海外の作品を観てみるとみなさん細やかな表現に長けている。それは新鮮な驚きでしたし、何よりありのままの私を面白がってくれるのがうれしかったです。
数少ない友と猫。小さな日常が私の幸せ
── キャリアを積み重ねる一方で、穂志さん自身は変わらず自然体でいることに驚きました。オンオフの切り替えなど、心がけていることはありますか。
穂志 自分ではわからないんですけど、確かに昔からの友人には「もえかちゃんの変わらないところが好き」って言ってもらえるんです。どんなに環境が変わってもそれに左右されたり理想化された姿に寄せることなく、自分が快適なスタンスでいることを追求していきたいです。本当に興味ないんですよね、キャリアアップとか、お金を稼ぐとか、タワマンに住むとか。
── 突然のタワマン…!(笑)
穂志 あはは。野心を持たない自分はおかしいのかなと悩んだこともあるんですけど「まあいいか」と自分らしくやっていくことにしたら、むしろそれぞれの信念を持った人たちとの出会いも増えてきて、自分の居心地がよくなってきました。
── 今後、大切にしていきたいものはなんですか。
穂志 数少ない友達と猫ですかね。狭いコミュニティで生きているけど、それが幸せ。誰が勢いがあるとかも、よく知らんし(笑)。世の中の流れと過度に接することなく、自分の安心できる世界を大切にしたい。でもやっぱり意識してるんでしょうね、華やかな世界の中で感覚がバグっちゃわないようにって。私が演じる役って地に足をつけて生きている人が多いですし。なので電車に乗ったり、飲食店でも基本的に個室とかにはしなかったり、日常を自然に生きています。
── では今後、ハリウッドに移住し、ビバリーヒルズで豪邸生活などの可能性はなさそうですか?
穂志 いや、豪邸ではなくていいかな…! 掃除、大変そう(笑)。二拠点生活には興味があるし、思ってもない展開は好きだけど、これからも目標とか人生の逆算はせず風の吹くままに。でも海外のクリエイターとは、継続的に仕事をしていきたいです。違う文化圏や価値観で育った人とのものづくりは、非常に面白い。違う中にも通じ合うものがある心強さ…それを感じる瞬間が好き。そしてまた作品を重ねていく中で、想像もしていない場所に辿り着けるといいですね。
Profile
穂志もえか
ほし・もえか 千葉県出身。2018年公開の『少女邂逅』で映画初主演を果たし、近年の主な映画出演作に『街の上で』('21年)、『窓辺にて』('22年)、『生きててごめんなさい』('23年)、『誰よりもつよく抱きしめて』('25年)などがある。ドラマ『SHOGUN 将軍』で米放送映画批評家協会賞助演女優賞を受賞。出演映画『メモリィズ』が6月12日公開。
information
『Never After Dark/ネバーアフターダーク』
人里離れた洋館で起こる不可解な現象を鎮めるため、除霊に呼ばれた霊媒師・愛里。そこで出逢ったのは死者の魂、そして人々の狂気だった。『Never After Dark/ネバーアフターダーク』は賀来賢人プロデュース、デイヴ・ボイル監督による制作会社「SIGNAL181」第1作。全国公開中。公式サイト
写真・小笠原真紀 スタイリスト・髙山エリ ヘア&メイク・渡嘉敷愛子 インタビュー、文・大澤千穂
anan 2499号(2026年6月10日発売)より


































