
ベーシスト、作曲家、シンガーソングライターと多才に活躍するキタニタツヤさん。最新曲「遺書」やこれまでのキャリアを振り返り、創作に対する姿勢に迫りました。
TVアニメ『呪術廻戦 懐玉・玉折』の「青のすみか」、『日本三國』の「火種」など、多くのアニメ主題歌のヒット曲を持つキタニタツヤさん。新曲「遺書」は放送中のTVアニメ『これ描いて死ね』のOPテーマ。漫画が大好きな高校生、安海相(ヤスミ・アイ/ヤスミン)が漫画をつくることに情熱を注ぐ青春譚は、良い曲を作るために情熱を注ぎ続けるシンガーソングライターのキタニタツヤさんのマインドとシンクロする。これまでにないトロピカルで高揚感抜群な音像に乗せて、創作活動の根幹を描いた新機軸だ。新曲に加えて、これまでの歩みやパーソナリティにも迫りました。
── 『これ描いて死ね』のどんなところに惹かれましたか?
キタニタツヤ(以下、キタニ) 何かを作って人に見せる人のあるあるというか、その人たちがぶつかる壁や喜びが巧みに描かれているのですごく共感しました。共感しない人でも、例えば「漫画を描いている人はこんなことを考えているのか」ということだったり、新しい想像力の引き出しが増えるような読み応えがある漫画だと思います。俺にとってはものを作る上でたびたび振り返るような背骨の一本のような作品です。
── その中でも特に共感した部分はどこでしたか?
キタニ 主人公のヤスミンが創作活動を始める時、コミティアという自主制作漫画誌展示即売会に行って、「漫画って、自分で描けるのか」と思って描き始めるんです。俺もプロでない人が作ったものを勝手にネットに上げている音源を聴いて「俺も自由に音楽作っていいんだ」と思ったのが曲作りのきっかけでした。それまではデビューしてお金を出してもらってCDを作ることしか発表の手立てがないと思っていたけど、全くそんなことはなくて。パソコンで作ってネットにアップすれば全世界の人が聴けるような時代ですから。
── ヤスミンは商業漫画というより、自分が納得する漫画を描くことに重きを置いています。それについてはどう思いましたか?
キタニ 商業的に成功するかどうかについてヤスミンは「どっちでもいい」という言い方をしていますが、このセリフに自分はとても救われました。読み返す度に「俺も最初はそうだったし忘れてはならない」と思わせてくれる。自分の曲が多くの人に聴かれて、自分の言葉がたくさんの人に届くことを目標にしてやっているので、自分の好きなものだけを作ることが自分にとっての100%の正義ではないのですが、50%の正義ではあって。自分が音楽を始めた根っこの部分を忘れると元も子もないというか、手段と目的が逆転しちゃうような状態になってしまう。ヤスミンたちは逆にそれしかないけれど、そういった創作への向き合い方を見ると背筋が伸びますよね。
── OPテーマを作る上で制作サイドから何かリクエストはありましたか?
キタニ 赤城(博昭)監督がどういうふうにアニメを表現したいかということは共有していただいて、「楽曲がその力になればいいな」って感じたんですが、楽曲に対してのリクエストはあまりなかったです。だから、創作には喜びと苦しみがつきまとうけれど、なぜそれをやるのかっていう純然たる初期衝動の部分を意識しましたね。伊豆大島をモデルにした島が舞台になっている作品ですが、自然の美しさを丁寧に描くということを監督が言っていて。企画書に「まずこれを描く!!」みたいなことが書いてあって熱さを感じましたし、「このラーメン屋は絶対うまいだろ」という確信があって、その熱にあてられたところもありました。俺は機械的なグルーヴも好きですが、今回の曲はそうではなくて。人間が生み出すズレから生まれるような気持ちいいグルーヴを大事にしました。島の海の風景を思い起こさせる音にしたいと思って南米の音楽をいっぱい聴きましたね。
── スティールパン(トリニダード・トバゴで生まれた、ドラム缶を加工して作った打楽器)が入っていますよね。
キタニ そういう方向性だったらスティールパンだろうと思って人生で初めて使いました。アコーディオンも入っているので陽気に聞こえますよね。ボサノバの初歩の初歩である「イパネマの娘」のギターをめっちゃ練習するところから始めて。柔らかい音のするガットギターを初めてまともに弾きました。
── サウンドメイクでは初めてのトライがかなり多いんですね。
キタニ ほぼ全部が初めてのトライでした。「これもやろう、あれもやろう」って、思いついた端から詰め込んでいって、交通整理は後ですればいいと思っていて、音作りの面ではあまり苦労はしなかったですね。いつもは楽器を足すか足さないか結構考えるタイプなのですが、とりあえず全部詰め込んでみたのですごく楽しかったですし、衝動的な作り方ができたかもしれません。不慣れなアプローチだったので自分の中では挑戦だった気がします。『これ描いて死ね』で描かれている初期衝動に影響を受けたんでしょうね。制作中、読み返す度に泣いていました(笑)。
── 創作のことだけじゃなく、生きること自体が存在証明だという想いを感じました。
キタニ 生きている中で起こることすべてが、自分が作るもののベースになっているということをこの曲で言いたかったんですよね。「生活をちゃんとすることで良いものができるんだぞ」というか。メシを食うことも寝ることも綺麗な景色を見ることも、どうでもいいこと含めて全部サボるなよっていうことですよね。創作をしない人にとってはあまり関係のないことだと思うので、そんなに共感を得られないかもという懸念はありました。さらに、『これ描いて死ね』の曲を書くとなると、暑苦しい自分の想いを暑苦しく書くことから逃れられない気がしたので、せめて音楽だけは明るく楽しく可愛くしようと思ってこういう音色になったところもあります。
── 創作への情熱と、アニメOPとしてのバランスを考える、と。
キタニ 原作を読んでいた時は、可愛い女の子が出てくる、のほほんとした日常を描く作品としては全く読んでいなかったんですが、いざアニメ化されるとなると、確かに可愛い女の子が4人出てくるような類いのアニメでもあるので、そういう作品が好きな人にもこの曲は届くことになる。そういった視聴者にも広く受け入れられる曲作りは意識しました。俺はそもそもアーティスト志望ではなく、作曲家志望で今の業界に入ったんですよね。『ラブライブ!』の曲を書ける作家になりたかったんです。結局書けなかったんですけど(笑)。でも可愛い女の子のキャラクターが出てくるアニメの歌を書きたい気持ちがあったので、明るく楽しい音楽を作りました。
── キタニさんはちゃんとした生活を送れているのでしょうか?
キタニ ここ2〜3年で「ちゃんとしよう」って思い始めました(笑)。まだまだなんですけど。前は平気で朝まで作業しちゃって昼夜逆転していたので、2時までには寝ようと。タバコをやめて、夜寝て朝起きて三食食べると脳の働きが全く違うんですよね。メシ作っている時間って無駄だなってぶっちゃけ思うこともあるんですが、食わない方が結局無駄な時間が増えるんです。俺は大学生の時に部費5000円を払って軽音楽部に入ったんですが、カッコつけて一度も行かなかったんです。俺はライブハウスで、オリジナルでバンドやるからよっていう。あいつらと飲み会に行ってスノボに行って、という一見無駄な時間を過ごすことで、そこでしか得られない何かがあったはずなのにみすみす逃してしまいました(笑)。生活のすべてが音楽になるんですよね。
目指すは国民的な存在に。可愛い曲も作りたい

── バンド活動とボカロPとしての活動を経て、大学在学中に今の事務所に所属したんですよね。
キタニ 原点はASIAN KUNG-FU GENERATIONをはじめとするバンドなのですが、売れるわけないと思っていたし、売れたいとも思っていなかった。ただただ好きでやっていました。自分が歌って自分が演奏する音楽で生活できるとは思っていなかったのも作曲家になりたかった理由のひとつです。音楽でメシは食いたいけど、自分の好きなものだけをやってもそれは叶わないので趣味としてのライフワークにしておいて、作家として技能を磨こうと思って大学在学中に、作曲家事務所に履歴書を送っていました。それで入った事務所からアーティスト契約にしようって言われて今こうなっているんですけど(笑)。作家だとしても世に名を轟かせることはなんとなく考えていました。俺の作った曲をたくさんの人がいっぱい聴いてはしゃいでほしいし、すべての人が知っている人になりたい。当時のアニメソングの作家でいうと、Tom-H@ckさん。そういう人にきっとなれるであろうし、ならねばという感覚がありました。
── メジャーデビューから約6年経ちましたが、今のビジョンというと?
キタニ 『アンアン』の表紙になりたいです(笑)。国民的な存在になりたいってずっと思っていますね。田舎のスナックでおっちゃんがカラオケで俺の曲を歌ってくれたり、公園とかで俺の曲が流れたら子どもたちが喜んでくれたり。そういうところまで届いてほしいです。
── 今チャレンジしてみたいことはありますか?
キタニ 長く曲を作っていると、自分がやっていないことは視界の外にあるので、なかなか自分では気づけないんです。依頼されると自分と関係ない部分の文脈が付加されてこれまで自分がやってきていないことが表れる。“島”がキーワードの「遺書」もそういうところがありました。「遺書」で少し叶えられたんですが、もっと可愛い曲を作りたいですね。俺はどんどん可愛くなくなっていくので、もっと若い頃に作っておけばよかったんですけど(笑)。
Profile
キタニタツヤ
1996年生まれ、東京都出身。シンガーソングライター。大学在学中の2014年頃からネット上に楽曲を公開、ボカロPの活動を始める。'17年以降はキタニタツヤ名義でのソロ活動を開始。'23年、TVアニメ『呪術廻戦 懐玉・玉折』のOPテーマ「青のすみか」がヒット、第74回NHK紅白歌合戦に初出場。シンガーソングライターとしての活動のほか、サポートベースや楽曲提供を行う。
information
TVアニメ『これ描いて死ね』OPテーマ「遺書」が配信中。東京の離島で暮らす女子高生たちの、漫画に懸ける情熱を描いた本作の重要なモチーフである“島”をテーマに書き下ろした。スティールパンを導入するなど、新たなトライに満ちた楽曲。『これ描いて死ね』は日本テレビ系フラアニにて毎週金曜23時30分から全国30局ネットで放送中。※放送時間は変更になる場合があります。
anan 2505号(2026年7月22日発売)より

































