
誠実で穏やかな佇まいの中にも、激しく燃える炎の存在を感じさせてくれる俳優、三浦友和さん。20代には二枚目俳優として活躍。歳を重ね、渋みも深みも持ち合わせる、その人柄に触れる。
穏やかな表情で取材現場に現れた三浦友和さん。撮影中にはカメラマンからの指示に合わせて動きながらも、時おり「ここは、こうしたほうがいいんじゃないかな?」と自ら提案する場面も。柔らかさと風格、謙虚さと率直さ。そんな何気ない瞬間に、映画撮影の現場における、三浦さんのスタンスを垣間見たような気がした。
── 映画『白鳥とコウモリ』は、東野圭吾さんの小説の映画化です。過去にもドラマ『流星の絆』で東野作品に出演されていますね。
東野さんの作品は、誰がどんな想いでここにいるのかが登場人物ひとりひとりとても丁寧に描かれていて、悪人が出てきても、その人物を理解できるんです。
── まさに今作でも、善良な弁護士(中村芝翫:なかむら・しかん)の刺殺事件の容疑者・倉木達郎を演じています。
いち映画ファンとして、「こんな奴いない」って人間は演じたくないですよね。今回、原作に描かれていない役の人物像をまとめたA4で3枚くらいの資料を、監督が事前にくださったんです。僕らも原作や台本から役の人物像を想像しますが、今回は監督の想いに近づけるようにと演じました。
── 今作でとくに印象的だったことはありますか?
あるシーンで井川遥さんがものすごく泣いてくださっていたのを試写で観て、とてもありがたいなと思いました。それは作品としても、倉木という役としても。だって撮影では一度もご一緒するシーンがなかったんです。そういう人間に対してあれだけの想いで演じてくださったわけで、ありがたいお仕事だったと思っています。
── ありがたい、なんですね。
主演のふたりが素晴らしいんですよ。松村(北斗)くんは以前『夜明けのすべて』という映画で拝見して、とてもいい俳優がいるんだなと思っていたのですが、今回の今田(美桜)さんにも驚かされました。そのふたりがやっているなら、みなさんが面白いと思ってくださるでしょうから、それは嬉しいですよ。
── 松村さんが、三浦さんに『夜明けのすべて』を褒められて嬉しかったと話していました。若い俳優さんにもそんなふうに声をかけられる方なんだなと思いました。
本当によかったですから。最近の若い俳優さんは、我々の若い頃より全然スキルがあって素晴らしいです。我々の仕事は、年齢もキャリアも関係なく全員が同じ土俵。長くやれば良くなるものでもないですから、長くやっているからといって威張れるものはなく、逆に刺激を受けるばかりです。
── 三浦さんが、素敵だなとか、いい俳優だなと思われるのは?
映画のいち観客として思うのは、佇まいがいい俳優さん。技術の問題ではなく、ものすごく引きの絵にポツンといて、セリフがなくても何かを感じさせてくれるような人。それを今回、松村さんと今田さんにも感じました。
── その佇まいというのは、何から出てくるものなんでしょうか。
僕もわからないけれど、ただまっすぐ育ってきたわけでなく、青春時代だったり仕事を始めてからだったり、身近な人間関係だったりに悩んだり迷ったり、時に屈折したり、いろいろ経験して乗り越えてきた人なのかなと思います。
20代での経験が今の基礎になっている
── もともと映画好きでいらっしゃったんですか?
この仕事を始めるまでは年に1〜2本観る程度でした。でもこの世界に入ってちゃんと真面目にやらなければと思った時に、勉強のために観るようになりました。
── それはどういうきっかけで?
初めて出演した映画『伊豆の踊子』です。試写会で初めて、お客さんの姿を目にしたんですよね。それまで自分がやっていることに自信がなかったのですが、カメラの向こうに人がいるのを実感して、真面目にやらなきゃと。
── お芝居が面白くなったのは?
本格的に思わせてくれたのは、相米(慎二)さんとの出会い。それまでああいう低予算ものをやったことがなく、みんなで作っていると初めて感じた現場でした。それまではいち俳優として参加する意識で、あとは監督やスタッフが編集でなんとかするものだと思っていたけれど、そうじゃないんだと気づかせてもらいました。
── デビュー当時は、二枚目の役柄が多かったですよね。
最初の頃はずっと文芸もので、今思えば素晴らしい作品に出してもらったと思えるけれど、当時は清く正しく美しくの純文学の世界が時代にそぐわない感じがしていたし、リメイクものばかりで、なぜこればかりなんだろうと不満に思うこともありました。でも、30代40代になると、その良さがわかってくるんですよね。これは大林(宣彦)監督が言ってたんだけど、「やっぱり(『伊豆の踊子』『潮騒』の監督の)西河(克己)さんが撮っていた、あの時代の作品には格調があるよね。今の人には出せないかもしれない」って。そう言われて、本当にそうだなと思いました。日本映画の基礎を築いた方々に囲まれて、一緒に仕事させていただいていたんだと思うと、すごくありがたいです。
── 当時の経験は、今、糧になっていると感じられますか?
ありますよ。当時は否定していた、清く正しく美しくという二枚目像に対して、やらされている感じがずっとありましたが、誰でもできるわけじゃないんだということとか。あの当時の経験が、今…30代、40代、50代と、ずっとこの仕事で生きてこられている基礎になっていると思っています。
── だからなのか、三浦さんが悪い役や怖い役をやられると、ギャップでより印象に残ります。
そういうことだと思います。あの人が!? っていう意外性というのかな。荷が重いですが、そういう役をやった時に「よかったですよ」と言われると嬉しいの。それもあの時があったからだね。
── 映画『葛城事件』での、家族を抑圧し精神的に支配していく父親役など、自分の中にはないものを引き出すのですよね?
いや、自分の中にあるものだから面白いんだと思いますよ。
── そうなんですか?
そうじゃないですか。自分は清廉潔白な人間だと完璧に信じている人っていないんじゃないかな。人って、弱い部分も悪魔的な部分も、醜い部分もあって、それを理性でコントロールして生きていると思うんです。僕らの仕事は、そういう自分の嫌な部分を自覚して掘り下げていくこと。『葛城事件』も、環境次第で自分もああなっていたかもしれないと思えるから演じられたと思います。
── そう思うと俳優の仕事は苦しそうです。自分の嫌な部分って、みんななるべく見ないふりをして生きていると思いますが、そこと向き合わなければいけないわけで。
そうかもしれないけれど、さらけ出す気持ちがないと、この仕事はできないと思う。形だけやっていても、ね。たとえば、誰だって心の中で誹謗中傷することはあると思うんです。実際にそれを書き込むか書き込まないかの差であって。でもその一線は、ものすごく脆くて、環境とかそういうものですぐに崩れてしまうんですよね。
── インスタで、いろんな映画をよく紹介されていますね。趣味でご覧になる時はどういうものを?
確実にエンターテインメントですよ。メジャーで評判になっているようなものが多いです。『スパイダーマン』とか。ただ、ハリウッドで人間ドラマがあまり作られなくなって、洋画で観たいと思うものが本当に少なくなりました。

息子にすすめられてインスタを始めました
── インスタを始めたのは?
息子にすすめられたんですよ。自分がやっていることとか、自分の好きなものは出していったほうがいいんじゃないかと言われて。
── 息子さんのアドバイスもお聞きになるんですね。息子さんおふたりとも芸能界に入られましたけれど、それこそ大変さを知るだけに反対されなかったのかな、と。
僕も妻も、自分が好きなことをやってきましたから、反対する資格がないというのはあります。ただ、最低10年は続ける覚悟を持ちなさい、とは言いました。1〜2年で見切りをつけられたんじゃ、ふざけんじゃないよって思うから。難しい世界ではあるけれど、それでもやりたいならまあいいかなと。作詞家の阿木耀子さんが、ペン先に神様が降りてくる瞬間があると言っていたんです。もちろん本人がちゃんと頑張っていることが前提だけれど、自分の力だけじゃない何かが降りてくるタイミングってあると思うんです。息子たちも、そういう瞬間に出合えるといいなと思っています。
── お休みの日はどんなことを?
ずっと趣味も何もなく生きてきたのが、40歳頃に陶芸を始めたんです。作っている間、集中しているから余計なことを考えずに没頭できるのが面白いです。
── ピンとくるものが?
人に誘われたのがきっかけなのですが、せっかちだから、これはいいなと思ってすぐにろくろとか、電気窯とか買ってきちゃって。ただ、僕が作るのは日常使いには向いてないお皿ばっかりなんですけれど(笑)。
── もし俳優になっていなかったら、何をしたかったですか?
もしお金持ちの家に生まれていたら、ミュージシャンを目指していたかもしれないなと思うことはあります。僕らはビートルズ世代ど真ん中なので。バンドに憧れてやりたかったけれど、楽器なんて買ってもらえなかったし。
── 俳優として、これからやってみたい役はありますか?
具体的にはないです。これまでも、自分では思いもしない役のオファーをいただいてきましたし。こんな役をやらせてみたい、と思っていただけることが嬉しいです。
Profile
三浦友和
みうら・ともかず 1952年1月28日生まれ、山梨県出身。20歳で俳優デビューし、映画『伊豆の踊子』『潮騒』などで人気を博す。'85年の映画『台風クラブ』などで役の幅を広げ、2016年の映画『葛城事件』では、数々の映画賞を受賞。'12年に紫綬褒章、'23年に旭日小綬章を受章。W主演する映画『ぼけ日和』は来年公開予定。
information
映画『白鳥とコウモリ』は東野圭吾原作の同名小説の映画化で、善良な弁護士の刺殺事件を軸に描かれるミステリー。事件の容疑者として逮捕された倉木達郎(三浦)の息子・和真(松村北斗)と、被害者である白石健介(中村芝翫)の娘・美令(今田美桜)の出会いから、少しずつ事件の全容が明らかになって── 。全国公開中。
anan 2511号(2026年9月9日発売)より






























