料理家・長谷川あかり「たくさんの料理家さんのレシピに励まされ、私は今、ここにいます」

SNS、テレビ、雑誌、広告。彼女のレシピを見ない日はないほど大人気の長谷川あかりさん。あの誰が作ってもおいしいレシピはどうやって出来上がるのか。その秘密、教えてください。


誰でも作りやすく、なおかつおいしいレシピが大人気の長谷川あかりさん。巷に溢れる“あかりファン”はもちろん、料理をそれほどしない人でも、一度はSNSなどで長谷川さんのレシピや、そのバズりっぷりを目にしたことがあるはずです。

── レシピ本を出したり、ムックを作ったり、最近だとテレビのバラエティでもお見かけします。めちゃくちゃお忙しそうですが、大変ではないですか?

本当に、本当に、そんなことないんです! なんか私昔から、早取りというか、どこか生き急いでいるようなところがあり(笑)、忙しいことに関してはそんなにストレスにはならないし、自分が好きな、料理や食に関することでたくさんお声かけいただくことは、嬉しさでしかないんですよ。だから全然、健やかです。

── 子役をやられていたそうですが、どういった経緯で料理に興味を持つことに?

4歳のときにダンスを習い始め、その流れでオーディションに合格し、子供番組に出演するようになりました。もともと自分に自信があるほうではなく、褒められたり、仕事をいただけて、やっと自分に存在価値があると思える、というタイプだったので、高校に上がりオーディションになかなか合格できなくなったあたりで、ちょっと鬱っぽくなってしまったんです。その時期に、たまたま父についていった地元の『ブックオフ』でレシピ本や生活情報誌を手にする機会があって。それを読んでいたら、当時ほとんど食欲がなかった私に、久しぶりに“お腹がすいた”という感覚がよみがえってきた。そこから、自分が“作ってみたい”と思えるレシピを探し、作って食べる、ということが始まりました。“これを作りたい、食べてみたい”と思わせてくれたレシピたちが、私を救ってくれたと思っています、これは大げさではなく。

── 長谷川さんは、「料理が好きというより、レシピが好き」と言いますよね。

基本的には、それ通りに作れば料理が出来上がるのがレシピです。当時、“何者かにならなければ”と思い苦しんでいた私を、“料理を作れる人”にしてくれたのがレシピでした。その成功体験のおかげで、今、私は私であれる、という気持ちもあるんです。またレシピは、料理の作り方の裏に、それを考案した料理家の先生の哲学や意図、思想があるのがおもしろくて、私は作ることを通してそこを知りたいし、それを読み取れると「作ってよかった!」と幸せな気持ちになる。味以上の何かをもらえた気がするんですよね。なので、おいしさはもちろんですが、考え方に共感できる料理家が見つかると、確実にQOLは上がります。そして、1人の料理家のレシピがギュッとまとまっているレシピ本というのは、共感できる料理家を探すのに便利ですし、見つかったあとは、人生の伴走をしてくれる大切な一冊になるんですよ。

── 1つのレシピを入り口に好きな料理家を見つけることができると、生活が、人生が変わる。

そう。お気に入りの服を着るって嬉しいし、それで街に出るとちょっと誇らしい気持ちになったりするじゃないですか。例えば「私は今日マメ クロゴウチの服を着ている!」と思って堂々と歩ける、みたいな。それと同じ力が料理家のレシピにもあると思っていて、「私、今日、ウー・ウェン先生のレシピ作るんだから!」と思えるって、すごいことだと思うんです。私自身が、今まで数々の料理家さんのレシピからもらってきたのは、まさにそういうパワー。だから私のレシピも、誰かの、能動的でポジティブな選択肢になれたらとても嬉しいです。

ぱっと見てときめきがある、そんなレシピを作りたい

── 長谷川さんのレシピは、簡単で再現性が高く、その上でとてもおいしいと人気ですが、そもそもレシピって、どうやって考えるものなんですか?

私自身がものすごくミーハーな人間なので、レシピだったら「これおいしそう!」とか「こんな味、素敵〜」とか、ごはん屋さんのメニューだったら「食べたい〜!」とか、ぱっと見でときめかせてくれる、高揚感があるものが好きなんですね。だから、そういう気持ちにさせるようなものを作りたい、という、壮大な思いは常にあります。ただ、ここが大事なところなんですが、残念ながら、私の調理技術は家庭料理の域を出ないので、味の理想は高いけれど、工程は現実的なことしかできないんです。この味を再現したいけれど、難しいことはできないし、高い材料も買えない。そこをどうやって繋げていくか…みたいな感じですね。

── なるほど。実際、あれこれ試作をしながら考えるんですか?

いえ、思考している時間のほうが長いですね。昔からいろんなことをぐるぐる考えるのは好きで、“これとこれは合わないけれど、間にこれを入れたらしっくりくるかも…?”みたいなことを、ずーっと頭の中でやったりしているタイプでした。味に対してもそういうところがあって…。

── 考えを重ねる中で、だんだん繋がっていくんですか?

例えばこの間、「冷やした軽い赤ワインに合うご飯ものを提案する」という仕事があり、最初は難題! !と思ったんですが(笑)、とりあえずいったん赤ワインを飲み、赤ワインだから赤い食材…と思って、赤い食材をいろいろ考えてみたんです。で、ご飯にのせるなら、マグロかカツオかなぁと。ただカツオは赤ワインだと臭みが出そうだから、マグロ…でもマグロも臭みあるよなぁ…そういえば中華料理で赤ワインのペアリングで、ごま油を強めにまとわせた赤身のお刺し身を食べたな…ということはマグロにごま油で臭みが気にならなくなるかな…あと夏で赤といえばミョウガがかわいいからのせたいな…味はどうしよう、ごま油には豆板醤か…、みたいに考えていきます(笑)。で、でもなんかちょっとまろやかにしないと赤ワインに合わないかも…あ、おもしろそうだからヨーグルト?

── え、そこでまさかの白、しかもヨーグルト?!

そのとき家にあったんです(笑)。あと「発酵ソース」みたいな、ちょっとキャッチーな名前もいいな、と思って。ミーハーなので(笑)。で、ヨーグルトとか味噌とか入れてみるか…、なんか成立しそうって思ったら、ざっくり塩分濃度を計算し、材料と分量を出す。「めっちゃ素敵なレシピ〜! なんか楽しそう、こんなレシピあったら作りたい〜♡」って気持ちが盛り上がったら、終了。

── 盛り上がりが大事(笑)。

そうです(笑)。料理って、なんだかんだいっても作りたくない、めんどうくさいものじゃないですか。だからこそレシピは、やる気を起こさせ、気持ちを盛り上げてくれないとダメなんですよ。そして、そのあと試作をします。

── レシピを読んだ人が作れるかどうか、再現性に関してはどんなふうに考えていますか?

さきほども言ったように、私自身の技術はそれほど高くないので、かけられる手間には限度があります。なので、これはかける意味がある手間なのか、こんなにやっても味の違いはこれだけか、みたいなことを、手を動かしながら折り合いをつけていきます。ただ、レシピっていい意味でファンタジーであってほしい思いもあって。

── ファンタジー?

めちゃくちゃ高いハイブランドのドレスが出ているモード誌を読むのって楽しいし、おしゃれのモチベーションは上がりますよね。レシピも同じで、作れなくても読んで楽しい、ファンタジーレシピも好きなんです。ただ、いろんなレシピがある中で私が作りたいのは、ファンタジーと現実の間にあるレシピなんだと思います。

料理が持つ可能性を広げる、そのためにもっと学びたい

── 今回初のエッセイ『タコ セロリ アボカド』を上梓されたのは、新しい挑戦だったと思いますが、この先にやってみたいことはありますか?

最近、もう一回大学に行き、大学院にも行ってみたいと思っていて。なので、そのために英語を勉強しなければ…な感じです。

── 何を学びに?

まだちょっと漠然としているんですが、おそらく今後、人間が料理をしない時代が来ると思うんです。実際アメリカではタクシーが無人運転になっている地域もあり、そうなると、運転する意味とは? となりますよね。料理も同じで、自分で作ることの価値が問われることになる。私は、高校時代に、料理という行為を通してメンタルケアの効果を得た経験があるので、料理の持つ作業療法的な価値を高めたいと思っているんです。特に日本料理は、食材の切り方そのものが、火の入り方、食感、季節感や盛り付けをも左右する重要な調理技術として発達し、それが家庭料理のレベルにまで広く浸透しています。食材を切るという作業自体はもちろん、薬味を刻んでのせて生まれる香りの効果だったり、こういうことで救われる人って、世界中にたくさんいるんじゃないかと思っていて。私が高校生だった15年前よりも、たぶんもっと、メンタルの揺らぎを感じている人は多いと思うので。

── 高校時代にレシピ本と出合えたからこそ、30代で大学院を目指す道が見えた。本当に、レシピは人生を変えますね。

私が年を取ったとき、レシピを見て料理をしたり、料理自体を楽しいと思っている人が、今より多かったらいいなって思います。人の物差しではなく、自分の物差しで好きなものを作って食べる。そういう人が増えてくれることが、私の幸せです。そして、おいしいものを食べるために、みんな健康でいてくれよって思います(笑)。

Profile

長谷川あかり

はせがわ・あかり 1996年1月5日生まれ、埼玉県出身。10歳より子役として活躍し2018年に芸能界を引退。短大・大学で学び管理栄養士の資格を取得。在学中にスープ作家・有賀薫氏のアシスタントを務めた。その後SNSへのレシピ投稿で注目を集め、現在は雑誌やWeb、広告などで活躍。弊誌の連載「長谷川あかりの『頼りにしてます!』」も人気。

information

幼い頃の食習慣や高校時代のレシピ本との出合い、夫と営む家庭における料理の話などを書きおろした初のエッセイ集『タコセロリ アボカド』(文藝春秋)が発売中。また、YouTubeやXなどでレシピを発信。友人の編集者と運営するポッドキャスト『長谷川あかりのシャニカマでごめんなさい』も大人気!

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写真・馬場わかな インタビュー、文・河野友紀

anan 2510号(2026年9月2日発売)より
Check!

No.2510掲載

自律神経ケア。

2026年09月02日発売

連日の猛暑にゲリラ豪雨や台風など気候の変化も相まって、夏疲れで限界寸前なカラダをリセットするためには、不調の源である自律神経の乱れを整えることがマスト。自律神経を調整するツボ押しやレシピなど、今日から始められるメソッドを様々な視点から紹介します。

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