愛らしい自然の姿を表現した「箱庭」
一番最初に現れるのは、平子さんが「箱庭」と名付けたエリア。手のひらサイズのものをはじめ、カラフルで愛らしい、小型の立体物がずらりと並ぶ。
ここでは人間よりも小さいサイズの作品を揃えています。植物の用途、人間との関係性にはバリエーションがありますが、家の中に飾ったり、庭に植えるというのも在り方の一つですよね。人が愛好する、可愛らしさのあるラインナップになっています。
壁に貼られたドローイングも可愛くて気になります。立体物を作る時に描いているのですか?
これはもっとラフなもので、頭にぱっと浮かんだイマジネーションを描き留めた、作品になる前のアイデアです。決めたゴールだけを見ていると、どうしてもアイデアの広がりがなくなっていくので、そうならないためにも必要な作業ですね。
可愛らしさと怖さが同居する作品たち「The Colony」
「箱庭」を出て進むと、人間と同じくらいのサイズの集団立体が登場する。
迫力がありますね。自分が集団の中に紛れ込んでしまったような感覚になるというか。さっきまで、自分の手の中に収まるサイズだったものが、扱えないサイズとして現れるので、ドキッとしました。
さらに奥には、人間と思しき体に植物の頭がついた不思議な存在が猫を抱いて座る部屋「The Cedar」があり、一歩足を踏み入れると、独特の存在感に圧倒される。
さきほどの小さいサイズのものとは感じ方が変わってくると思います。可愛らしさがあるんだけど、同時にどこか怖い。
何か問いかけられているような感じがします。ちなみに、どの洋服の柄も素敵ですが、意識されていることはありますか?
色みに関しては人間っぽいものにするか、植物っぽいものにするか、どちらを使おうかといつも考えています。色みを楽しんだり、色を見てきれいなどと思うのは人間だけで、ほかの生き物たちには必要ないらしいんです。それがすごく面白いなと思って、あえてビビッドな色を使ったりもしています。
人が管理できる自然と、できない自然
次の部屋「Paintings」には、3つの大きな絵が飾られている。頭が植物になった不思議な存在が、草原のような場所に佇んでいたり、人工物に囲まれていたりと興味深いシチュエーションが描かれており、想像を掻き立てられる。
平子さんの作品は、自然のなかに誰かや人工物がある場合と、人が暮らす場所のなかに植物が存在している場合に分かれている気がします。
自然というのは一方向だけでは決められないものだと思っていて。人間のコントロールが及ばない自然もあれば、管理できる自然もある。場所によって自然が多い場合もあるし、人工物が多い場合もあるんですよね。でも、今回の展覧会は、自然のモチーフが多い気はしていて、それは、日比谷という街自体に自然が少ないことが影響しているように思います。日比谷公園があるけれど、それも人がつくったものなので。
人が管理している“自然”ですもんね。今回の日比谷はすごく快適に過ごせる街だからこそ、反対のものを目指したところもあるのでしょうか。
そうですね、少し意識しました。最初の部屋は結構、人工物が多めに見えると思うんですけど、自分が愛くるしい対象として見られるもの、自分がコントロールできそうなものというのは、人工物なんですよね。そして、自分のコントロールが及ばないのが自然。だから、最初は可愛らしい作品で油断をさせておいて…という(笑)。
ちゃんと油断しました(笑)。猫のモチーフがいろいろな場所に登場しますが、お好きなんですか?
好きでもありますし、猫や犬、鳥などもともと野生の動物が一緒に暮らすという状況は人間ありきのものだと思うんですよね。そして、猫と犬でいうと、猫のほうが都会にいなくて野生的なのかなと勝手に考えていて。犬はよく散歩している人を見ますから。
人間と自然の関係性をフラットに見るモビール群
最後に登場する空間「The no land」には、この展覧会で初公開となるモビールのシリーズを展示。約3.5mのモビールが吊るされる空間は圧巻のひとこと。
すごい! なぜモビールを吊るそうと思ったのですか?
人間と植物の共通点は、大地に依存しているということだと気付いたんです。そこで、地面を取り払って宙に浮かせることで、人間と植物、自然の関係性をフラットなものにしてみようと思って試してみました。対等な関係になることで考えられること、見えてくることもあると思うんです。
作品のなかを歩けるのが、ぜいたくですね。没入感がとんでもないし、展示というより体験できる空間だなと思いました。
まさに、みなさんにそう感じてもらいたいと思っていたので、よかったです。日比谷で展覧会の準備や作業をしていると、街で忙しく働いている人たちを目にすることが多く、彼らがすごく元気だなと感じたんです。そういう方たちが展示を見に来てくださったら、きっといろいろな感情が湧くだろうな…と思えたし、“対人間”の展覧会になるだろうなと感じました。
どの展示も圧倒的でした。そして、平子さんのお話を実際に聞いたことで、また違う角度から作品を鑑賞でき、すごく楽しかったです。
みなさんが少しでも何かを考える機会になったら嬉しいですし、作品について「これはこうだったんじゃない?」みたいに、いろいろ話してもらえたらいいなと思います。
「HUMAN AND NATURE」
会期:2026年9月5日(土)~10月18日(日)
会場:東京ミッドタウン日比谷 6階 ホール
住所:東京都千代田区有楽町1-1-2
休館日:無休
料金(オンラインチケット):大人 2000円 / 大学生・専門学生 1500円 / 中高生 1000円 / 小学生以下 無料
平子雄一
1982年、岡山県生まれ。2006年にイギリスのウィンブルドン・カレッジ・オブ・アートの絵画専攻を卒業。植物や自然と人間の共存について、また、その関係性の中で浮上する曖昧さや疑問をテーマに制作を行う。韓国、台湾、イギリス、アメリカなど、国外でも精力的に作品を発表している。