お笑いカルテット「ぼる塾」の酒寄希望さんが、本屋さんで気になった本を紹介していく月1連載の第3回をお届けします!


Profile

酒寄希望

さかより・のぞみ 1988年4月16日生まれ。お笑いカルテット「ぼる塾」のメンバーで1児の母。ぼる塾のブレーンとしてネタを書いて舞台に立ちながら、子育てエッセイや作品レビューなど執筆業でも活躍中。著書に『酒寄さんのぼる塾日記』(ヨシモトブックス)など。noteにも投稿中。最近は香港映画にハマり、現在190本以上鑑賞。note

今から嘘のような本当のことを言うので、とりあえず信じてください。

わたしは昔、壇蜜さんに似ていると言われたことがあります。

嘘じゃないです! 本当です! わたしが自分で言ったわけではなく、人から言われたのです!

勿論、みなさんが知っている壇蜜さんです。タレントであり、女優であり、モデルでもある大人気の壇蜜さんです。わたしの相方の田辺さんも女優の貫地谷しほりさんに似ていると一回だけ言われたことがあり、

「わたし達は壇蜜さんと貫地谷しほりさんに似ていると言われたこの言葉を生涯の支えにして暮らしていこう」

と、お互いに誓いあったのです。みなさんも、何気なく言った言葉が誰かの一生を支える可能性があることを覚えておいてください。

話を戻します。わたしにとって「壇蜜さんに似ている」は「魔法少女になって」と言われるぐらい衝撃的な言葉だったので、「一体わたしのどこが美しい壇蜜さんに似ているのか?」と、そのときから壇蜜さんを注意深くチェックするようになりました。結果から言うと、わたしは全然似ていませんでした。しかし、壇蜜さんを深く知ることで彼女のことが大好きになりました。

壇蜜さんは美しいだけではなくて演技も素晴らしく、番組でのコメントは聡明、書かれる文章も面白く、とても魅力的な女性でした。

『壇蜜』(1)著・清野とおる(講談社)

今回一目ぼれした本は、『壇蜜』。壇蜜さんの夫である、漫画家の清野とおるさんが描く夫婦の日常エッセイ漫画です。二人の結婚を知った当時、清野さんの作品を以前から愛読していたわたしは、「好きな人と好きな人が結婚して嬉しい」という、非常にシンプルな喜びを抱きました。

このときはまさか清野さんの漫画で壇蜜さんを知ることができる日がくるとは夢にも思っていませんでした。『東京都北区赤羽』を代表とする、独自の世界観がとても魅力的な清野さんが描く夫婦の日常って何!? 清野さんの漫画はドキュメンタリーでありながら常に異世界なのです。

わたしは本屋さんでこの漫画を見つけた瞬間に店内パトロールを終了し、レジへと走りました。この時点で宝物の一冊になる予感がしました。

「壇蜜さんすごい!!」

第一話から仰天しました。二人の出会いが描かれているのですが、プロポーズは壇蜜さんからだったのです。番組の共演というかたちで初めて会ったばかりの清野さんに、

壇蜜「わたしと結婚しましょう」

あまりにも突然すぎる!

この壇蜜さんのプロポーズもすごいのですが、言われた清野さんのリアクションもとても面白いです。壇蜜さんからの突然のプロポーズに対し、「恐怖体験。…これは絶対に『罠』だ」と、ものすごい警戒心を抱くのです。ロケ終わりにダッシュで逃げようとまでします。

「このふたりがどうやって夫婦になるの!? 早く続きを!」

この時点でもうふたりの関係に夢中になりました。今まで見たことがない恋愛の始まり方です。その後、少しずつ仲良くなったふたりは結婚するのですが、この少しずつの部分も奇妙キテレツです。

壇蜜「今、浮間公園にいます。よければ清野さんもいらっしゃいませんか?」

赤羽ロケ以来の壇蜜さんの突然のお誘いが浮間公園。わたしは申し訳ないですが浮間公園の存在を知らなかったのですが、清野さん曰く、

清野「なんで壇蜜が北区と板橋区の境の浮間公園に!?」

浮間公園は地元以外の人がふらっと訪れるような場所ではないらしく、壇蜜さんは誰よりも浮いていたそうです。そして、壇蜜さんが浮間公園にいた理由も、「ふと気づいたら浮間公園に来ていた」という、理由を聞いたあとのほうが謎が深まる解答なのです。

読んでいると壇蜜さんの行動からは清野さんのことがとても好きなことが伝わるのに、ただその行動は全く予測不可能です。「え、何でこんなことを?」と、慌てて前のページに戻って確認するのですが、わたしが見逃してしまったわけではなく、壇蜜さんの行動が想定外なだけだったなんてことがいっぱいあります。

「壇蜜さん…何なの…ミステリアスすぎる。でも、ものすごく可愛い」

初めて見るタイプの自分から動く女性です。一生懸命妄想したとしてもたどり着けないヒロインを壇蜜さんは現実でやってのけるのです。そんな壇蜜さんの行動を清野さんは冷静に観察しながらも、確実に惹かれていく姿もグッときます。

清野「この漫画は壇蜜との『恋愛記』や『結婚記』ではなく壇蜜への『潜入取材』である」

まさにその通りです。壇蜜さんと清野さんの夫婦生活は『東京都北区赤羽』を読んでいるときのような異世界を感じます。

壇蜜さんの住んでいるマンション(お二人は別々に住んでおり、清野さんが壇蜜さんの家に通っています)では次々に怪奇現象が起こり、明らかに何かヤバいものが憑りついていそうだったりと、この漫画は夫婦の日常でありながらオカルト要素が満載です。かと思えばグルメ漫画としても魅力的で、「銀座アスター」と「富士そば」にものすごく行きたくなります。壇蜜さん流の富士そばの食べ方は強烈ですが真似したくなります。

他にも、壇蜜さんは猫や蛇などペットをたくさん飼っており、生き物がとてもすきなことが伝わってきます。壇蜜さんには友達がいないことを知ります。お互いの家族への挨拶から、壇蜜さんがとても優しくて丁寧な人であることがわかります。

清野さんの目線から見る壇蜜さんはとても素敵です。こんな素敵な女性が「わたしと結婚しましょう」と言った清野さんもとても素敵です。面白くて怖くて冷静なのに愛が溢れたこの作品は、まさにふたりにしかできない世界です。読み終わった後、出会った瞬間プロポーズした壇蜜さんに納得しました。

こちらにも、一目ぼれ!

『テニスの王子様 テニスの白石部長』著・許斐 剛 (集英社)

本屋さんで見つけたときに思わず声が出ました。こちらはテニスの王子様の白石部長がメインの話だけを集めた白石ファン歓喜の本です。全ページ白石部長です。

説明が遅くなりましたが、わたしはテニスの王子様の白石部長が大好きです。四天宝寺中学校テニス部部長の白石蔵ノ介。大学時代に彼にハマりました。彼の身長や血液型も言えます。178cmのB型です。

テニスの王子さまはテニスでありながら分身や五感を奪うなど特殊能力が飛び交う中、白石くんは顔がイケメンでありながら基本に忠実なテニスをしていました。テニスの王子さまでは逆に珍しい普通のテニスをしていたのです。白石くんは自分のテニスはつまらないけど、基本に忠実であることがパーフェクトテニスであるととき、その考え方にわたしは心底惚れこみました。正統派イケメンキャラを好きにならないわたしが初めて好きになったイケメンキャラです。

日々の暮らしに追われて新テニスの王子さまを読めていなかったのですが、この作品には新テニスの王子様の話も収録されており、その後の白石くんの頑張りも知ることができました。新テニスの王子さまでは、基本に忠実にやってきた白石くんだからこその悩みが発生していたり、その悩みを抱えながらのダブルスの試合で何故か白石くん以外がモデルのポージング対決をしていたりと、やっぱりテニスの王子様って面白いなと再認識しました。白石くんが益々好きになりました。

わたしの中での王子さまと言えるのはたぶん一生白石くんだけです。

『ブータン、世界でいちばん幸せな女の子』著・阿川 佐和子(文藝春秋)

以前、個人的に気になってなぜブータンが「世界一幸せな国」と呼ばれているのかを調べたことがありました。ですからこの本のタイトルにとても惹かれました。表紙には笑顔で手を振る愛らしい女の子。そして著者は阿川佐和子さん。きっとこの本を読んだら温かくて幸せな気持ちになるだろうと思い購入しました。

しかし、読んでびっくり。この本はわたしが想像していた女の友情と大きく違っていたのです。女の友情は年齢や環境で変わる。その部分を美化せずに、かといって貶めることもなく、本当に友情というものがもつ複雑さを阿川さんは丁寧に描いてくれています。この物語はブータンというあだ名をもつ女の子と、彼女に関わる色んな女性が登場します。中学時代のそこまで仲良くなかった同級生。職場で出会った女性達。そして、ブータンの娘とブータンの娘のお友達。ブータンはみんなに大きな影響力を与え、それと同時にブータンも彼女達からたくさんの影響を受けています。ブータンはページを開く前に予想した幸せな女の子とは全く違います。成長していくブータンにはいつも困難が待ち構えています。単純ないいお話ではありません。だからこそ、彼女は自信を持っていちばん幸せな女の子になれたのです。

わたしはとくに、ブータンがリハビリトレーナー時代に出会った82歳の福澤瑠璃子さんとの「黄昏のストレンジャーという物語」がすきです。ふたりの出会いは人生においては遅かったけど、生涯を捧げる友情を見ました。

酒寄さんの一目ぼれ読書記録・連載バックナンバー

第1回『そりゃあもう いいひだったよ』

第2回『アンソロジー カレーライス!!大盛り』

写真・中島慶子(本) 文・酒寄希望

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