
お笑いカルテット「ぼる塾」の酒寄希望さんが、本屋さんで気になった本を紹介していく月1連載がスタート! ぼる塾のメンバーを、優しくユニークな視点で捉えたエッセイも大人気の酒寄さんは、本に向ける視線もまたあたたかでした。
Profile

酒寄希望
さかより・のぞみ 1988年4月16日生まれ。お笑いカルテット「ぼる塾」のメンバーで1児の母。ぼる塾のブレーンとしてネタを書いて舞台に立ちながら、子育てエッセイや作品レビューなど執筆業でも活躍中。著書に『酒寄さんのぼる塾日記』(ヨシモトブックス)など。noteにも投稿中。最近は香港映画にハマり、半年間で160本以上鑑賞。
みなさんこんにちは。ぼる塾の酒寄です。お笑い芸人をしています。今回から、新連載を始めさせていただくことになりました。よろしくお願いいたします。
この連載を簡単に説明させていただくと、わたしの“一目ぼれ”読書記録です。タイトルが素敵だったり、装丁に魅力を感じたり、とにかく第一印象で「この本が好き!」と感じた本を読んで、出会いから感想までを書く。人間の恋愛に関しては奥手ですが、本に関してはどんどん一目ぼれをします。読みたいと思った本を本屋さんに買いに行くのも好きですが、その場で運命の本に出会うときめきはたまりません! 惚れっぽいわたしですが、一目ぼれした本は読むとますます好きになります。見た目だけではなく、中身も素晴らしい本ばかりなので、ぜひみなさんに紹介させてください! この連載は新しいタイプの“ノロケ”です!
記念すべき第一回の本はこちら!〈『そりゃあもう いいひだったよ』です。〉

『そりゃあもう いいひだったよ』著・荒井良二(小学館)
本屋さんの絵本コーナーでこの本に出会ったとき、とても驚きました。
「田辺さんだ!」
わたしは一日の終わりに、芸人の相方である田辺さんによく「今日は楽しいことあった?」と聞きます。
すると田辺さんは、
「今日はロケで美味しい物を食べたよ!」
「今日は可愛いシールを見つけていっぱい買ったよ!」
「今日は部屋を掃除したら50万円出てきたよ!」
その日にあった楽しいことを必ず教えてくれます。
たまに、
「今日はタクシーが道に迷って変な場所に連れて行かれたよ!」
と、果たしてそれは楽しいことなのか疑問に思うことも混じっています。
「それって楽しいことなの?」と聞き返すと、
「そのときはマジで最悪って思ったけどさ、でも、『酒寄さんに話せるネタができた!』って思ったから楽しいことだと思う!」
そう田辺さんは明るく答えてくれます。そして、楽しいことを教えてくれた後に、決まったように言うのです。
「今日も、そりゃあいい日だったよ~」

ハッと我に返り絵本を手に取ると、表紙では、帽子をかぶった、恐らくクマであろう可愛い子が、元気よく左手をあげています。「お~い!」と呼んでいるようです。
「この子が『そりゃあもう いいひだったよ』って言ったのかな? 田辺さんみたいな子だな」
田辺さんみたいな子だったらとても楽しそう。絵本のクマの子を家に連れて帰ることにしました。
「今日は楽しいことあった?」
絵本を開くとき、思わず田辺さんに聞くようにクマの子に質問をしていました。
この絵本は、ぬいぐるみのクマが初めて手紙をもらって大喜びしているところから始まります。田辺さんみたいなクマの子は、ぬいぐるみのクマだったのです。ぬいぐるみのクマくんは、ほんもののクマから、「月がまるくなったらあそびにきてください」と、ご招待を受けます。そして、ほんもののクマに会いに、クマくんは出かけて行きます。
「一体どんなことが起こるんだろう」
クマくんは旅の途中、いろんな人に出会い、いろんなことが起こります。その度にクマくんは、とっても嬉しそうに教えてくれます。
ですから読んでいると、
「良かったね。それは嬉しいね」
と、自然とクマくんに返事をします。クマくんは、幸せを見つけることがとっても上手で、小さな幸せに対しても、「そりゃあもう! そりゃあもう!」と、飛び跳ねるように喜びます。クマくんが嬉しいと、なんだかこっちも嬉しくなります。タイトルにある、「そりゃあもう いいひだったよ」という言葉も本文に何度か登場するのですが、まさにクマくんがその言葉を言うのにぴったりのタイミングで、わたしまで、
「そりゃあもう いいひだったね~」
と、一緒にはしゃぎたくなりました。新井良二さんの描かれるイラストも優しくて温かいお話にぴったりで、読んでいると、なんだか心が救われます。誰かから嬉しかったことを共有してもらう喜びをひしひしと感じました。
「クマくん、とってもいい日だったね」

読み終わったあと、本当に幸せな気持ちになる絵本です。可愛いクマくんは、きっとたくさんの子供も大人も幸せにしていると思います。そして、いつも聞き役を楽しんでいたわたしも、今日一日の自分の楽しかった出来事を思い出して、「そりゃあもう いいひだったよ」と、誰かに話したくなりました。楽しいという感情を大事にしたいと切に思う作品です。
「嬉しかったことを教えてくれるクマくんの声が、脳内で田辺さんの声で再生されたな~」
タイトルでビビッときたように、やはりこのクマくんと田辺さんは似ています。田辺さんがクマくんをご招待したら、きっと良いお友達になれると思います。クマくんにいろんな楽しかったことを教えてもらいましたが、田辺さんにも、「今日は楽しいことあった?」と聞いてみました。
すると、
「今日、締め切りの文章があったことすっかり忘れていて21時に気づいたの! すごくない!? 今やっている!」
クマくんと田辺さんから楽しいこといっぱい聞けたわたしも、そりゃあもう いいひだったよ。
こちらにも、一目ぼれ!

『眠れない夜のために』著・千早 茜 イラスト・西 淑 (平凡社)
わたしは元々、著者の千早茜さんのファンですが、この一冊は見た瞬間にガツンとやられました。タイトルを見た瞬間に、「この本を読まなくてはいけない!」と、一目ぼれしました。
「眠れない夜」ではなく、「眠れない夜のために」。わたしはしばしば眠れない夜に悩まされているので、縋るように手に取りました。こちらは10編のお話しが収録された短編集です。様々な眠れない夜が展開されます。眠れない夜を「苦痛」としか表現できないわたしはこんなにも美しく、恐ろしく、穏やかな世界が広がっていることに驚きました。
【第九夜 寝息】を読んだときは、このお話に会いたかったと心から思いました。寝つきの悪い夫が、毎日妻の寝顔を見ていたことで、相手が老いていくことを知る老夫婦のお話。寝顔を見るという行為が、眠れない夜にこれほどまでの愛をもたらすのかと感動しました。老いることに気づく。けれども夫は、「不思議なことに君の寝顔は少女のようだ」と、妻に思う。ひとりでずっと起きている夫は、横に眠る妻をひたすら愛し続けるのです。千早さんは、眠れない夜の着地点を知っている方だと思います。
眠れない夜の救いは、明るすぎてもダメで、でも登場人物たちはそれぞれの形で報われています。それが心地よい。西 淑さんのイラストもお話しにぴったりで夜がくれた宝物のようです。まさに、眠れない夜のための本です。
〈一方の『いつか中華屋でチャーハンを』は、〉グルメ漫画エッセイなのですが、一目見ていろんなことに驚きました。まず、タイトル! 「中華屋でチャーハンってそんなに食べられない物だっけ!?」。
中華屋といえば定番のチャーハンを何故こんなにも切望しているのか不思議に思いました。自由に行動できない令嬢が作者なのかもと一瞬だけ思いました(違います)。
そして、大きな帯かと思ったら、表紙にそのまま書かれている推薦文! 大好きな漫画家・谷口菜津子さんが帯を書いているのかと思ったら表紙に推薦文! 斬新です!

『いつか中華屋でチャーハンを』著・増田 薫(スタンド・ブックス)
そして中身の漫画がとても面白かったです。何故、このタイトルなのかは読んですぐにわかりました。日本各地の知らなかった中華料理やそのルーツなどを著者個人のできる限界まで調べてくれていて、探求心がすごい! 気づけば読んでいるこちらも中華屋の魅力に引きずり込まれています。
わたしはとくに神戸の中華料理屋で「シチュー」と呼ばれている料理を食べに行く回が大好きです。もちろんあの有名なシチューではありません。とある中華料理がシチューと呼ばれているのです。
その料理がどうしてシチューと呼ばれるのか解明していくところにドキドキし、さらに登場する様々な神戸のシチューに「神戸のシチュー食べたい!」と、叫びたくなります。写真ではなく、絵で描かれた中華料理がとても美味しそうで、読んだあとのご飯は中華で決まりです!