
お笑いカルテット「ぼる塾」の酒寄希望さんが、本屋さんで気になった本を紹介していく月1連載の第5回をお届けします!
Profile

酒寄希望
さかより・のぞみ 1988年4月16日生まれ。お笑いカルテット「ぼる塾」のメンバーで1児の母。ぼる塾のブレーンとしてネタを書いて舞台に立ちながら、子育てエッセイや作品レビューなど執筆業でも活躍中。著書に『酒寄さんのぼる塾日記』(ヨシモトブックス)など。noteにも投稿中。最近は香港映画にハマり、現在190本以上鑑賞。note
神田神保町といえば本の街。街の至る所に本屋さんがあります。わたしはこの街で本屋さんのハシゴをするのがとてもすきです。
中でもわたしにとって特別な本屋さんがあります。それは、東方書店さんです。こちらは中国・香港・台湾に関する本の専門書店です。わたしは、香港映画『トワイライト・ウォリアーズ 決戦!九龍城砦』にハマったことをきっかけに、作品に関連する書籍を購入するため通うようになり、気がつけばお店そのもののファンになっていました。トワウォきっかけでしたが、お店で気になった本も購入して読むようになりました。
その日もわたしは東方書店さんに来ていました。その場で気になった本を買おうと思ったのです。専門書店での探索は、普通の書店とはまた違うワクワクがあります。
「炒飯狙撃手? 不思議なタイトルだな」
文庫の表紙には使い込んだ中華鍋。そして鍋の中には弾丸が2つ。どうやら、炒飯店で働く一流スナイパーの物語のようでした。その時点でもう気になります。
さらに、この本には運命を感じました。わたしは東方書店さんに来る直前まで相方のはるちゃんとおり、そのときはるちゃんから神保町の美味しい炒飯の店を教えてもらっていたのです。炒飯から炒飯。なんてお腹が空く偶然。
「これは炒飯が結びつけた運命だ」

『炒飯狙撃手』著・張 國立 翻訳・玉田 誠(ハーパーBOOKS)
この小説は、台湾発の戦略スリラーです。主人公は2人。炒飯の名手にして一流のスナイパーと、定年退職12日前の刑事。台湾のスリラーは今回初めてだったので、
「思ったより難しい小説かもしれない…読めなかったらどうしよう」
これは全くの杞憂でした。
「面白すぎる! このあと、どうなるの!」
ページをめくる手が止まらない。この物語はヨーロッパと台湾、それぞれの主人公視点で進んでいきます。
まず、ヨーロッパをかけまわるのは炒飯狙撃手。イタリアの小さな炒飯店で腕を振るう台湾の潜伏工作員の小艾(がい)です。ある日、彼は命令を受けてローマで標的の東洋人を射殺します。しかし、自分のアジトに戻ったところを何者かに襲撃され、逆に命を狙われる身になってしまうのです。
この、狩る側から狩られる側になったときのドキドキたるや! 小艾はどんな仕事もこなす天才スナイパーなのですが、追手もまさかの天才スナイパー。普通の銃撃戦ではないスナイパー同士の戦いを見られます。ドナウ川をはさんで屋根の上で行われる特殊な戦いはとんでもなく面白いです。そして、スコープ越しに見た敵の姿に彼は驚くのです。
小艾「大胖(はん)!」
なんと、彼を狙っていたのは狙撃兵訓練隊時代の同期であり、かつての親友でした。小艾はなんとか大胖を倒すことに成功するのですが、新たな追手が彼の命を狙ってきます。
なぜかつての親友が自分の命を狙ったのか?
自分を殺そうとしている黒幕は誰なのか?
彼は昔の仲間たちに助けられながらヨーロッパ中を逃げ回り、事件の真相を追います。大事なことなのでお伝えしますが、小艾は本文に記載されているくらいのハンサムです。

もうひとりの主人公である老伍(ご)は定年退職12日前の刑事であり、主に台湾から事件に迫ります。台湾で起きたいくつかの事件を追っていくうち、これらの事件は全てローマで起きた東洋人射殺事件に繋がっているのではないかという考えに辿り着くのです。
彼にはとにかく定年退職というタイムリミットがあります。一日、一日と減っていく日数の中でちょっととぼけた上司と天才ハッカーの息子とともに事件解決のヒントを手に入れていきます。愉快なことに天才ハッカーが刑事の息子として登場するのです! お父さんは、「今回は手伝ってもらうけど、ハッカーもほどほどに…」くらいのテンション!
小艾パートはとにかくドキドキハラハラの連続ですが、老伍のパートは事件に迫りつつも日常パートも担当しています。孫の為に頻繁に家に食事を作りに来る父親(おじいちゃん)に怒る嫁に悩んでいたり、事件に真面目に取り組みながらも周りの人に振り回される、老伍のキャラが緊張の中で緩和になります。しかし、知り過ぎてしまった刑事はいつしか命を狙われる立場になり…。

さらに、この『炒飯狙撃手』の大きな魅力のひとつは台湾ローカルグルメです!!
物語のいたる所においしい物が登場し、その描写に食欲が半端なく刺激されます。隠れ家で作る特大のサンドイッチ、記憶に残る砂糖をまぶした饅頭、喫茶店の牛肉のブルゴーニュ風定食、ローマのタピオカミルクティー、聞き込み先で食べるニラ餃子、ほかにもたくさん!
「栄養サンドイッチは揚げパンで作られる台湾グルメなのか…中華おやきは羊肉にフェンネルがまざっているのか。美味しそう! おじいさんがつくったフウセイ豆腐ってなんだ?」
気づけば台湾グルメに詳しくなっています。ですが、数あるグルメの中でもいちばんは炒飯! 小艾のつくる炒飯の魅力はたまりません!
“うまい炒飯をつくるために、わざわざ大学に行くことはない。
まずは卵だ。そして白飯は一晩寝かせること。葱は少しだけ焦がすことだ。
そして強火で炒める。”(本文より)
小艾が店で出している人気メニュー「サラミ炒飯」は絶対に真似しようと思います。
『炒飯狙撃手』は、映画化が似合う作品です! 頭にシーンがはっきりと思い浮かぶのです。巨大な陰謀、過酷な過去、かつての仲間、犯人と刑事の友情など、ワクワク要素がぎっしりつまっています。真相に辿り着いたときの驚きと爽快感! 遠く離れていたふたりの主人公が交わるときはとても感動します。そして、読み終わったあとにものすごくお腹が減ります。とりあえず炒飯! 炒飯をください!
※ちなみに、海外文学で心配になる名前を覚えられない問題ですが、カバーにおもな登場人物とそれぞれの肩書があるので、読んでいる途中に混乱してもここに戻れば全く問題ありません! 名前の問題で読みづらいと思ったことは一切ありませんでした。
こちらにも、一目ぼれ!

『深夜特急1―香港・マカオ―』 著・沢木耕太郎(新潮文庫)
とても有名なタイトルですので、昔から作品の存在は知っていました。しかし、実際に読んだことはなく、旅人のバイブル的な本というイメージだけをもっていました。今回、東方書店さんの棚で発見。わたしはそこで初めてきちんとこの本のタイトルを確認しました。
そう! 『深夜特急1―香港・マカオ―』! 著者の沢木耕太郎さんの1年以上にわたるユーラシア放浪の旅のスタートは、わたしが今いちばん気になっている場所、香港だったのです!
これは読まないといけないと即、購入。読み始めてすぐにこの本がなぜ人気があるのかわかりました。とにかく描写が素晴らしく、その場所に行ってみたいと強く思うようになります。著者の目の付けどころが実に面白いのです。旅をどうとらえているかで同じ場所を旅しても変わってくるように、沢木さんの旅は、途中で起こるいいことも悪いこともすべてがその国でのかけがえのない出来事であると伝わってきます。ですから、読者はすぐにでも同じ場所に行ってみたくなるのです。
香港を目的にして読み始めましたが、マカオ編の「大小」というサイコロ博奕(ばくち)にハマってしまいどんどんのめり込んでいく姿は恐怖でありながら魅了されてしまいました。これからの長い旅の為に香港でちびちび節約していたお金をじゃぶじゃぶ使ってしまうところは最後どうなってしまうのか非常にドキドキします。「怖いよー」と読みながらも、ちょっと自分も「大小」をやってみたくなるのです。
読み終わった今、無性に旅に出たいです!

『都市伝説解体センター Parallel File 1』 著・いしかわ えみ 原作・『都市伝説解体センター』(墓場文庫) 協力・集英社ゲームズ(ヤングジャンプコミックス)
「日本ゲーム大賞2025」優秀賞を受賞した大人気ゲームのコミカライズ版です。わたしは原作ゲームの大大大ファンで思わず手に取りました。このゲームはネタバレ厳禁ゲームであり、SNSで調べてもネタバレが全く出てこないという実に面白い作品なのです!
主人公の福来あざみは生まれつき「変なモノが視える」体質に悩んでおり、「都市伝説解体センター」に相談をしに訪れます。しかし、そこでちょっとしたアクシデントが発生し、あざみ自身がここで働くことになってしまいます。
この作品のテーマはズバリ都市伝説! 第1話で登場する都市伝説は「ベッドの下の男」。あまり都市伝説に詳しくない方でもこの名前は知っているのではないでしょうか?
依頼を受け、調査を進めながら証拠を集めて、仮説を組み立てて都市伝説を究明していくというストーリーはこの作品でしか味わえない面白さがあります。絵柄がとても可愛らしいのと、謎を解明していくスタイルから都市伝説を扱う作品ですが怖さはあまり感じないのでホラーが苦手な人でも楽しめると思います。
わたしはゲームクリア後に読みましたが、コミカライズ版ならではのちょっとした変更などもあり、ゲームとの違いを比較しながら楽しみました。ゲーム未プレイの方がこの1巻を読んだら自分でゲームをプレイしてみたくなる魅力があります。第1巻は原作のゲームのシナリオにほぼ忠実でしたが、これからも進んでいくうちに漫画オリジナルの要素も出てくるのかなと楽しみです。






















