
自ら“現代劇の女方”を標榜し、活躍する俳優の篠井英介さん。その篠井さんが中学生のときに出合い、憧れ続けてきた役が『欲望という名の電車』のヒロイン、ブランチ。
19年の時を経て、自身の原点であり目標でもある役に再び挑む
アメリカ演劇の不朽の名作といわれるこの作品は、上流階級出身で没落しながらも上品ぶった振る舞いを続ける主人公・ブランチが、貧しく粗野な暮らしをする妹夫婦の元に身を寄せ、妹の夫・スタンリーと対立し合った先の末路を描いたもの。
「悲劇的でシリアスな作品ですから、観ていて楽しいというお話ではないとは思うんです。でも、人間の暗部が暴かれていく展開に、子供心に見ちゃいけないものを見てしまった感覚と同時に、嘘偽りのない世の中の真実性みたいなものを突きつけられた気がしたし、最後に何か昇華されるようなカタルシスもある。残酷でありながらも叙情性があって、残虐だけどロマンティックで、理屈抜きで魅了されてしまったんです」
それ以降、この役を最終目標に定め、女方の道を歩んできた。
「現代劇の女方とは、歌舞伎の女形の素養を身につけた上でドレスやワンピースのような洋装を着こなし、削ぎ落としたシンプルな動きで、女性の役者さんに交じって女性の役を演じられることだと自分の中で定義しています。近年は、演出の意図として男性が女性役を演じたりしますが、それとは少し違うんですよね」
その篠井さんが夢を叶え、初めてブランチを演じたのは2001年のこと。そこから2003年、2007年と再演し、今回19年ぶりとなる。
「ここ何年か、ハードな舞台が続いたのですが、それをなんとかやりきることができ、これならもう1回ぐらいブランチをやれるんじゃないかと思ってしまって。それで事務所の社長をそそのかしました(笑)」
そう冗談めかして話すが、再演を望んでいたのは本人ばかりではない。抑えた演技の中に悲しみや闇、あやうさを感じさせる篠井さんのブランチは演劇界でも高く評価され、伝説のように語られてきた。
「女性が演じる場合、どうしても役に生身の女性の情報が重なってきてしまうけれど、僕が女性を演じることで、ピュアに役だけが浮き彫りになるのかもしれません」
今回、キャスティングも脚本も演出家も一新しての再演となる。
「一応、自分の中で演技プランはありますけれど、戯曲の翻訳が違いますから、同じ心情ではあっても言い回しが全然違いますし、キャストも違いますからね。お芝居は相手役と作るもので、自分はこうやりたいと思っていても、変わってくるかもしれない。でも、それが演劇の面白さで、全然違うエモーションが引き出され、まったく新しいブランチが生まれてくる可能性もあります。科学の実験みたいなもので、僕自身にもわからないから楽しみなんですよ」
Profile
篠井英介
ささい・えいすけ 1958年12月15日生まれ、石川県出身。日本舞踊の素養を武器に、学生時代から現代演劇の女方として活動。数々のドラマや映画でも活躍。近作に映画『おーい、応為』。
information

吉住モータースpresents『欲望という名の電車』
ステラ(松岡)とポーランド移民のスタンリー(田中)の夫婦が暮らす家に、突然、ステラの姉のブランチ(篠井)が訪ねてくる。上品ぶったブランチと粗野なスタンリーは折り合いが悪く…。3月12日(木)~22日(日) 池袋・東京芸術劇場 シアターイースト 作/テネシー・ウィリアムズ 翻訳・演出/G2 出演/篠井英介、田中哲司、松岡依都美、坂本慶介、宍戸美和公、森下創、ぎたろー、平井珠生、松雪大知、吉田能 一般8800円 U-24チケット3800円 吉住モータース TEL. 03-5827-0632(平日11:00~18:00) 東京追加公演、大阪公演あり。https://yokubou2026.com
anan 2487号(2026年3月11日発売)より














