呪われていないよね、大丈夫だよね!? |酒寄さんの一目ぼれ読書記録・第8回

お笑いカルテット「ぼる塾」の酒寄希望さんが、本屋さんで気になった本を紹介していく月1連載の第8回をお届けします!


Profile

酒寄希望

さかより・のぞみ 1988年4月16日生まれ。お笑いカルテット「ぼる塾」のメンバーで1児の母。ぼる塾のブレーンとしてネタを書いて舞台に立ちながら、子育てエッセイや作品レビューなど執筆業でも活躍中。著書に『酒寄さんのぼる塾日記』(ヨシモトブックス)など。noteにも投稿中。最近は香港映画にハマり、現在250本以上鑑賞。note

今までこの連載では、いろんな角度から本に一目ぼれをしてきましたが、今回は読んでいる皆さんにとってもあるあるなのではないかという一目ぼれをしました!

それは、コラボカバーです!

『ゆうずどの結末』著・滝川さり(角川ホラー文庫)期間限定特別カバー

私は、文庫本などが漫画や芸能人の表紙デザインになって再登場している姿を見ると、無性に欲しくなります。まだ読んだことがない本はもちろん、持っている本でもコラボカバーになった姿を見ると欲しくなり、ついつい買ってしまいます。太宰治の『人間失格』なんてコラボカバーになるたびに惹かれて3冊くらい買った気がします。頭ではもう持っているとわかっていても、どうしてもときめきを止められないのがコラボカバーの魅力。そして、今回の本との出会いが、私の大大大好きな作品とのコラボカバーだったのです!

「都市伝説解体センターの本がいっぱい並んでいる!!」

ある日、たまたま立ち寄った新宿の本屋でその特設コーナーを見つけた私は大興奮しました。都市伝説解体センターとは、都市伝説をテーマにしたミステリーアドベンチャーゲームで、「日本ゲーム大賞2025」優秀賞を受賞するほどの大人気ゲームです。私はこのゲームの大ファンなのです。

「なんと! 【都市伝説解体センター×角川文庫・角川ホラー文庫】ですって! 人気タイトル3冊と期間限定特別カバーでコラボ! こんなの買うしかないよ!」

『巷説(こうせつ)百物語』『ここにひとつの□がある』『ゆうずどの結末』の3冊が特別コラボカバーになっており、どれもまだ読んだことのない本でした。私はホラー映画やホラーゲームは好きでよく嗜んでいるのですが、ホラー小説はあまり読んだことがなく、ほぼ未開拓のジャンルでした。

「全部欲しいけどじっくり読むために今日は1冊にしよう。1冊なら…絶対にこの本!」

私は内容も調べずに即決購入しました。滝川さりさんの本を読むのも初めてです。けれどもすぐに決めた理由は、ジャスミンがいちばん好きなキャラクターだったからです! これぞコラボカバーならではの一目ぼれ!

「いったいどんな本なんだろう」

逆にもう一切内容がわからず読むのも面白いと思い、私はあえてあらすじを確認せずに読み始めました。

「これは…ヤバい! 呪い系だ!」

『ゆうずどの結末』は、読むと呪われて死ぬ本の話でした。私は、見た者を1週間後に呪い殺すビデオテープの『リング』や、20歳までにこの言葉を忘れないと呪われる『ムラサキカガミ』など、条件で発動する系の呪いがめちゃくちゃ怖いのです。ですから、『ゆうずどの結末』が自分のいちばん苦手なタイプのホラーであることに震え上がりました。

「怖い! でも、せっかく読み始めたからには最後まで読みたい!」

この作品は、「ゆうずど」という呪いの本が必ず登場する短編小説集です。それぞれの章の主人公が本の呪いにかかり、その運命になんとか抵抗しようと試み、恐怖体験をしていきます。「ゆうずど」の呪いにはいくつかの共通点があります。

・「ゆうずど」は読んだら呪われる(少しでも読んだら呪われる)
・呪われたら死ぬ
・呪われるとバケモノが見えるようになる
・「ゆうずど」は捨てても手もとに返ってくる
・しかし、読んでも呪われない人が稀にいる(呪いを逃れる方法がある?)
・「ゆうずど」は角川ホラー文庫

同じ本の呪いの話ですが、章によって怖さが全く別物になるのがこの作品のすごいところです。第1章からとても怖いのに、第2章はさらに怖くなり、第3章はさらにさらに…と、オムニバス小説にも関わらず、怖さが蓄積していくのです。前回の章で信じていたことが次の章では…と、読者にフェアでありながらもがらりと展開が変わるなど、滝川さりさんは言葉の工夫がとても上手だと思いました。まさに、読めば読むほど怖くなる。さらに、普通に読むだけでも怖いのにこの作品はもっと凄まじい恐怖が待っていました。

それは、

「……待って、私が今読んでいるこの本自体が『ゆうずど』じゃないよね?」

読めば読むほど、作品に登場する呪いの本の内容と、私が今読み進めている本の内容が似通っているのです。そういえば、「ゆうずど」は角川ホラー文庫で、手に持っているこの本も角川ホラー文庫。

「嫌だ!!この本自体は呪われていないよね!?大丈夫だよね!?」

私も本の呪いにかかっているかもしれない。この体験は非常に強烈でした。本から離れたい。けれども、途中で読むのを止めるにはあまりにも作品が面白過ぎる。そして、ネタばれになるので詳しい内容は伏せますが、もしも私が呪われているとしたら、どうしても最後まで読みたくなるような仕掛けがこの本にはほどこされているのです。

「わっ!! びっくりした!!」

私は特に第 3章の「藤野翔太」の物語に驚かされました。本気で体が跳ね上がりました。少年たちの青春物語と呪いの掛け合わせかと思っていたらそれ以上のしかけが待っていました。

『ゆうずどの結末』は、最後の最後までぬかりない恐怖が待ち構えています。もはや体験型アトラクションと言ってもよいかもしれません。それくらい私自身がこの呪いの当事者になれます。読み終わった今、私は果たして本当に呪われていないのか心配です。

こちらにも、一目ぼれ!

『スナック キズツキ』著・益田ミリ (マガジンハウス)

私は傷つきやすいほうだと思います。大人になって多少はマシになりましたが、豆腐メンタルです。

この作品は、傷ついた者だけがたどりつける都会の路地裏のスナックが舞台になっています。スナックなのにアルコールは置いていません。いろんな人が傷ついて、たまたまこのスナックにたどり着きます。そこでのんびりと待ち構えているママが毎回おいしいノンアルコール飲料とちょっと愉快な力技で傷つきを癒してくれるのです。

ココアを作りながらしりとりをしたり、りんごジュースを飲んでアバの「ダンシング・クイーン」を一緒に踊り狂ったり。そのときにママがくれるものは安易な励ましではなく、ほんの少しのきっかけです。

お客さんはそのきっかけに応えるように自分の気持ちを言語化し、モヤモヤを晴らして最後に爽やかな顔で帰っていきます。ママとお客さんのやりとりは読んでいるこちらの気持ちも明るくしてくれます。正解はないけど、自分の中で折り合いはつけられる。とても大事なことだと思います。

そして、この作品の面白いところのひとつが、傷ついた人たちも自分が気づかないうちに他の誰かを傷つけているということです。電車で足を広げて迷惑だったおじさんが、次の話で傷ついた人になっています。全員がお互い様なのです。自分だけじゃないという視点も傷つきには必要だと思いました。

私はずっとお客さんを助ける側だったママが女子高生のメイちゃんと雨宿りをして救われる回がとくに好きです。

『かなしきデブ猫ちゃん』文・早見和真 絵・かのうかりん(愛媛新聞社)

表紙に描かれた目つきの悪い巨大な猫。そしてインパクトのすごいタイトル! このご時世にデブという言葉のパワーはよくない方向に強いものを感じます。

「おそらく、この表紙の猫ちゃんが酷い目にあってしまうのでは?」

今出会ったばかりのデブ猫ちゃんの行く末が心配になり、思わず購入しました。こちらは絵本ですが、文字数がたっぷり入っているので読み応え抜群です!  小説と絵本、どちらのいいところも詰まったようなスタイルなのです。

この物語は、家を飛び出したデブ猫ちゃんが、愛媛県内を東へ西へと大冒険をします。家を飛び出した理由はとても切ないのですが、途中で登場する猫の坊ちゃんや赤シャツ、そしてデブ猫ちゃんが冒険の途中で探し続けるマドンナとの恋物語など非常にドキドキワクワクします! 愛媛県のガイドブックのようになっており、デブ猫ちゃんの訪れた場所に私も行ってみたくなりました。

デブ猫ちゃんが男の子の自転車のかごの中で目覚めた〈しまなみ海道〉、優しいおじいさんと出会う〈佐田岬〉、みんなで温泉に入る〈道後温泉〉など、ほかにもたくさんの愛媛県の名所が素晴らしいイラストとともに載っています。

この作品は、私が予想していたような悲しい物語ではありません。悲しいこともありますが、それ以上の愛が待っています。読み終わったあと、「デブ猫ちゃん」という響きに、読む前とは違うとても深い愛情を感じるようになりました。猫好きにはたまらない1冊です!

酒寄さんの一目ぼれ読書記録・連載バックナンバー

第1回『そりゃあもう いいひだったよ』

第2回『アンソロジー カレーライス!!大盛り』

第3回『壇蜜』

第4回『パリのすてきなおじさん』

第5回『炒飯狙撃手』

第6回『感情的にならない本』

第7回『答えは風のなか』

写真・中島慶子(本) 文・酒寄希望

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