【web限定】和山やま『ファミレス行こ。』ロングインタビュー! 聡実と狂児の“その後”を描いた続編が完結

大人気作品『カラオケ行こ!』の続編『ファミレス行こ。』完結記念! 作者・和山やま先生のロングインタビューをananのweb限定でお送りします。


2019年8月に「コミティア」で発表した『夢中さ、きみに。』は即日完売。再版されたものの長らく入手困難になっていた同作品集を加筆修正し、描き下ろしなども加えて単行本化されたのが2020年のこと。同書が話題となり、一気にマンガ界のスターダムに駆け上がった和山やまさん。以来、マンガ愛好者のみならずプロのマンガ家からも注目を集めています。

中でも、中学生男子の岡聡実とヤクザの若頭補佐・成田狂児の交流という一風変わったボーイ・ミーツ・ボーイ作品『カラオケ行こ!』は、実写映画化を始め、さまざまなメディアミックスが展開された注目作。そんな聡実と狂児が再び活躍する『ファミレス行こ。』が、ついに完結となりました。続編誕生のきっかけや、創作で腐心したポイントなどを、和山さんに語っていただきます。

©和山やま/KADOKAWA

聡実と狂児の先の読めない関係性にハラハラ

合唱部の部長を務める中学生男子の岡聡実(おかさとみ)は、ある日、大阪の街でヤクザの成田狂児(なりたきょうじ)に拉致されてしまう。狂児が強引な手を使った動機は、組員全員参加のカラオケ大会で「最下位になりたくない」ためだ。なぜなら、最下位には罰ゲームとして組長から珍奇な刺青を入れられてしまうから。それだけはごめんだとばかり、狂児は聡実をカラオケボックスに連れてきて歌のレッスンをしてほしいと頼む。聡実は戸惑いつつも、引き受けることにするのだが……。『カラオケ行こ!』は、そんなストーリー。

その続編である『ファミレス行こ。』の下巻が2年半ぶりに刊行され、「『カラオケ行こ!』から読み返している」という声が続々と。聡実や狂児に再び会えるのもうれしいが、『ファミレス~』では登場人物がぐんと増え、聡実の揺れる気持ちや狂児のバックグラウンドなども詳細に見えてくる。

「最初はキャラクターも構想も本作とはまったく別のネームを担当さんと作っていたんです。ファミレスを舞台とした点は同じですが、思ったよりも難航してしまい、再度話し合った結果、『聡実のバイト生活in東京』にしようと舵を切りました。『カラオケ~』の続きを見たいという声もお手紙で届いてましたし、当初の構想であるファミレスと群像劇の要素は残したまま、聡実の東京物語を始めることにしました。聡実が出るなら狂児も必然的に出ますし、『じゃあ今後のふたりの関係は?』『あの刺青は結局?』『聡実の将来はどうなる?』と、聡実への親心を芽生えさせながら描いていったのが本作になります」

時は巡り、中学生だった聡実は上京して大学1年生になっている。ある不可抗力のプチ事件(これは実際に読んで、顛末を確かめてほしい。聡実くん、大学生になっても真面目です)に背中を押され、O田区K田にあるファミレスでバイトを始めることに。狂児とはどうなっているかと言えば、月に一度くらい食事をしながら他愛のない話をするよくわからない関係が続いている。

だが、上巻のラストでは、聡実が不意に狂児を背後からハグする展開も! 聡実には確かに考えすぎる癖があるが、聡実から見れば狂児は何を考えているのかよくわからない謎めいた大人だ。本音を捉えきれないまま、ますますどう振る舞うべきかに混乱する。果たして、下巻でふたりはどうなっていくのだろうか。

「担当さん方との打ち合わせでは、ストーリーの展開よりも『聡実ならこのときどうするか』『ここで狂児は何を考えてるのか』といった彼らの心情について重点的に話し合うことのほうが多かったです。それでもキャラクターと私は違う人間なので、『そうかもしれない』と推し量ることしかできない場合もあり、わからないまま描くこともありました。聡実の考えすぎる性格は、おそらく私も一緒に考えすぎているせい。狂児が掴みどころがないのは、私自身が掴めてないからかもしれません」

多彩な登場人物たちによる、「関係性の波状攻撃」

©和山やま/KADOKAWA

本作では登場人物がぐんと増え、『カラオケ~』より構成の複雑さが増している。聡実のバイト先の先輩でマンガオタクの森田さんや、深夜にアシスタント連れで仕事しに来るコワモテのマンガ家・北条麗子先生、なぜか狂児の周りを嗅ぎ回るヤクザネタを得意とするライター・岡田、北条先生の担当編集の鈴木さんなど、聡実の平凡な日常をかき回す存在があちこちで波風を立てていく。しかも、彼ら彼女らの意外なつながりは、のちのちわかってくる。関係性発覚の波状攻撃に、ニヤニヤ笑いが止まらない。

「ラストだけは大まかに決めつつも、そこに至るまでの流れと、その流れに乗ったときの各キャラクターの心情は、回を重ねながらそのつど組み立てていきました。こだわりというほどではありませんが、それぞれの心理や行動の背景を描くときにはとにかく想像してみる。実際、プロットやネームの段階では見えづらかった聡実の気持ちが、作画の段階になって表情を描くときに初めて『これか』と見えたりすることもあったので、今回のやり方はライブ感があったのかなと個人的には思います。ただ『カラオケ~』と違って本作では、さまざまな方のご協力のもと、実在する地域や学校やお店を出しました。喫茶店、焼肉店などモデルがあります。そのせいか、そこで生活し動き回る登場人物たちに対しても“フィクションの中のキャラクター”というよりは“実在し得る人間”として見てしまったようなところがあって。だからこそ、彼らの気持ちを探るのはより難しく感じました」

描いてみて、和山さんが特に楽しかったのは第12話だったという。

「狂児が聡実のアパートにお邪魔するシーンですね。狂児が聡実の部屋に立ち入るなんてことは絶対にないと思っていましたが、だからこそ新鮮で楽しかったです。読み返したときに、聡実に向かって〈俺とどうなりたいの?〉と聞く狂児に『……急に怖っ』と笑ってしまいました」

物言いはキツくても正直で熱意ある編集者は貴重

©和山やま/KADOKAWA

ちなみに本作は、マンガ家という仕事の矜持と苦労も多く描かれる。締切のキツさや編集者・鈴木の容赦ないダメ出しに心折れそうな北条先生は、アシスタントのマコトくんに毒を吐いて憂さ晴らしするのだが、鈴木さんのような飴とムチの達人のような編集者は、和山さんにはどんなふうに映るのだろう。

「いきなり『迫力を出すために猫を100匹描け』みたいな無茶な提案をされたりすれば私も同じようにぶーたれるかもしれません(笑)。ただ、何としても作家を逃がさないぞという鈴木の執念は嫌いではないです。連絡もマメにして、褒めるところは褒めて、直してほしいところは正直に伝えてくれる鈴木は、私としては貴重な存在だと思います」

最後に、和山さんの抱負を語ってもらった。

「今後はキャラクターの表現の幅をもっと広げられたらなと思います。大好きなジャンルであるホラーにも挑戦したいですし、クルマのマンガも描いてみたい。2026年はインプットしまくって、次回作もみなさんに楽しんでもらえるようにがんばります」

Profile

和山やま

わやま・やま 1995年、沖縄県生まれ。2016年、商業デビュー。19年にコミティアに出品した『夢中さ、きみに。』が商業化され、一躍注目の存在に。

information

『ファミレス行こ。』下

映画『カラオケ行こ!』に感化されたという番外編も収録。聡実が「世界たこ焼き博覧会」でフードファイトしていた後輩・和田くんと和解するストーリー。KADOKAWA 858円

写真・中島慶子 インタビュー、文・三浦天紗子

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