
『名探偵コナン ハイウェイの堕天使(だてんし)』
1996年のTVシリーズのスタートより、劇場版も含め、キャラクターデザインと総作画監督を務めてきた、須藤昌朋さん。青山剛昌先生の原作をいかに魅力的なアニメの絵にするか、その秘密についてたっぷりお話しいただきました。
Profile
須藤昌朋
すどう・まさとも アニメーター、キャラクターデザイナー。『あしたのジョー2』の動画、『AKIRA』の原画、『とっとこハム太郎』のキャラクターデザイン、総作画監督などを担当。
── コナンの作品に参加することになった経緯から伺えますか?
当時のプロデューサーに、「今度こういう作品が始まるんだけど、ちょっと絵を描いてみてくれないか?」と、コナンのマンガの8巻を渡されたのが最初です。確か、コナンと蘭と小五郎の3人をキャラ表みたいに描いてくれと言われて…どうやらそれがオーディションだったようで、こだま兼嗣監督が僕の絵がいいと言ってくださったらしく、それで通ったと聞きました。当時僕はSPの『ルパン三世』が終わった頃で、それほど苦労なく描いた記憶があります。ちなみに、僕は原作を読んだことはまだありませんでした。
── 須藤さんにとって、初めてキャラクターデザインを担当したTVシリーズだったそうですね。
そうなんです。最初から2クール放送されることは決まっていたんですが、当時『金田一少年の事件簿』という推理系アニメがすでに流行っていたので、なかなか難しいかなぁ…と考えなかったわけではありません。ただ出来上がった1話と2話を見た知り合いからは「面白いね」と言われましたね。
── 翌’97年には劇場版も公開され、一時期TVアニメを離れた時期もありましたが、その後、劇場版含め、ずっとこの作品に関わってこられたと思います。『名探偵コナン』の仕事において、大切にしていることはありますか?
一番大事なのは、青山さんの絵にいかに似せるか、ということです。アニメキャラクターデザインの仕事で重要なのはそこなんです。僕らが若かった頃は、原作とアニメの絵がまったく違う作品が普通に存在していたんですが、今はそれだと支持が得られません。さらに作画監督としては、原画担当スタッフが描く原画を、いかに青山さんの絵に似せるように統一するか、というところですね。上がってきた原画を僕がチェックするわけですが、気になるところがある場合、全部修正になってしまうこともある、という感じです。
── 先ほど(アニメ制作を担当している)トムスの制作の方に聞いたのですが、作画スタッフにとっては須藤さんが描いた線を模写することがとても勉強になる、とのことでした。なかには須藤さんの修正線が入った紙をコピーして、資料として保存している人もいるそうですね。
ええ、そうなんですか? そんな話初めて聞きました(笑)。あ、でもそういえば僕も、仕事内容は違えど、『あしたのジョー2』や『AKIRA』をやっていたとき、同じことをしてましたね(笑)。
── 素人質問で恐縮ですが、似せるためには何が必要なんですか?
それはもう単純に模写力です。以前は原作をよく見て研究しましたが、最近は絵を描く前に、青山さんの絵を一回なぞると“青山さんの線”が頭の中に入るので、すごく描きやすくなる。4〜5年くらい前からかな、今はそれでやっています。
青山さんの絵は目が特徴的。難しいのは、髪のバランス
── 青山先生の絵の特徴、みたいなものはありますか?
ありますね。まず目が特徴的。それから服のシワ。よく見ると、服のシワとそこから生まれるシルエットが、他のマンガと全然違うんですよ。前から思っていたのですが、12作目の『戦慄の楽譜』あたりから、そこもちゃんと見せるようにしました。ただ、シワを意識しながら絵を描き、それを動かすのはなかなか難しい(笑)。
あと長く描いているからこそ思うのですが、青山さんの絵がだんだんかわいい絵になってきている気がします。人から聞いた話なんですが、キャラクターに愛情が注がれれば注がれるほど、絵がかわいくなってくる、と。まあ30年も続くとそりゃ絵も変わりますよね。今作『ハイウェイの堕天使』の萩原千速は、かわいくなっているわけではありませんが、ちょっとした変化が早かったかな。
── 描きやすいキャラ、逆に描くのが難しいキャラ、というのはあったりしますか?
一般的には、イケメンとか美女のほうが描きやすいと思いますよ。作画担当の人を見ていると、逆にゴツい男や太った男のほうが、難しいのかもしれない。イケメンや美女は好きでたくさん描くでしょうけど、横溝重悟みたいな男は進んで描かないだろうから、描き慣れていないんでしょうね。でも僕は重悟、好きですよ。だってボウズ頭だし(笑)。
というのは髪って本当に大事で、いくら顔がきれいに描けても髪のボリュームが変だと印象がガラッと変わるし、さらに動画になると揺れ方も統一しなきゃならない。だから松田陣平とか黒羽快斗は難しい。
── となると、ビシッとリーゼントが決まっている小五郎は、そんなに難しくないキャラですか?
いや、小五郎はなぜか難しいんです(笑)。小五郎に関しては作画の人たちが結構みんな悩んでいる。面白いですよね。
── 長くこの作品に関わっていらっしゃる中で、須藤さんにとって『名探偵コナン』を作ることの一番のやり甲斐というか、楽しさとは、なんでしょうか?
とても自由にやらせてくださる現場なんです。元々僕が目指していた〝線を太くする〞ということも、10年ほど前に試したときに自然に受け入れてくれましたし、原作者である青山さんも、作画に関してはほとんど何もおっしゃらない。そういう場所で好きに絵が描けるということこそが、やり甲斐だと思っています。
── 今後コナンでやってみたいことはありますか?
ハーモニーという表現方法がありまして、通常のベタ塗りとは違って、美術担当の人が水彩画のような繊細なタッチの色塗りを施して仕上げる、劇画みたいな雰囲気の絵があるんですが、それを使い、動かしてみたいですね…って、いや、“他の作品ではもうやっているんじゃないか、須藤何言ってんだ?”と言われるから、これはやめておきましょう(笑)。
── と言いつつ(笑)、どんなシーンに使いたいですか?
クライマックスの、緊迫した場面に使ってみたいです。例えばコナンがサッカーボールを蹴るシーンとか。でも作業に時間がかかるから、絶対OKもらえないだろうな。ただでさえコナンはスケジュールが厳しいので(笑)。でも、CGが当たり前の時代だから、自分が思っているより簡単なのかな。
── では最後に今作の見どころを。
とにかく千速です! 千速がカッコいいのでまずはそこを。あと後半はずっと走ってばかりなので、ぜひその疾走感を楽しんでいただけたら嬉しいです。
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『名探偵コナンハイウェイの堕天使(だてんし)』
最新鋭の白バイ〈エンジェル〉に乗った神奈川県警の萩原千速が追うのは、黒い謎のバイク〈ルシファー〉。横浜を舞台に繰り広げられるバイクチェイスミステリー。疾走するバイクと次々に起こる爆破から目が離せない! ゲスト声優に、横浜流星と畑芽育が。原作/青山剛昌 監督/蓮井隆弘 脚本/大倉崇裕 主題歌/MISIA「ラストダンスあなたと」
©2026 青山剛昌/名探偵コナン製作委員会
anan 2492号(2026年4月15日発売)より

















