上田誠「人間とシステムのぶつかるところに、なにか面白いものが生まれる」

映画『リバー、流れないでよ』など、近年、舞台のみならず映像作品にも活躍の場を広げる。劇団・ヨーロッパ企画の代表であり作・演出家の上田誠さんの、ユニークな発想の源とは。


タイムリープや超能力、ロボットが跋扈(ばっこ)する近未来など、SFやRPG的な世界を題材に、緻密に組み上げられたギミックを駆使しつつも、小市民たちの壮大…とは程遠い他愛ないやり取りをコミカルに描き出す劇作家の上田誠さん。その発想力の源にあるものとは?

── 代表を務めるヨーロッパ企画の次回公演『世界の終わりかけとスリーコード』は、井ノ原快彦さん主演でフォークソングをテーマにした物語が展開されるそうですが。今、なぜフォークソングを?

井ノ原さんとは、以前に舞台をご一緒してから親しくさせていただいているのですが、お互いにフォークソング好きという共通点があって。10年以上前から、いつかフォークソングを題材にした作品をと話していたのが、今回時を経てようやく実現した形です。

── 二人は世代的にはフォークブームの少し後かと思うのですが?

小学生の頃に「たま」というバンドのファンクラブに入るくらいハマっていて。そこから、たまと共演していた友部正人さんも聴いていました。たぶん、自分でギターを弾くから、それで興味を持ったのもあると思います。

── 井ノ原さんという存在から喚起されるものもありました?

前回舞台でご一緒したのが15年前で、その時は、場を回していくツッコミ的な役どころをやっていただきました。今、50代になった井ノ原さんて、ツッコむよりも後輩の方にツッコまれることが多くなっている気がするんですよね。そういう年齢の重ね方が面白いなと思っていて、今回はもう少し自由に遊んでもらえるよう、藤谷(理子)さんがツッコミ役を担うコンビにしました。よく出番は短いのに破壊力のあるキャラクターっていますよね。そういう人がメインでも面白いと思って、色濃い役を演じてもらっています。

── プロットを拝見したら、意外にもRPGのような感じで…。

そうですね。かつてのフォークソングって、ヒップホップのように街ごとのトライブみたいなものがあった気がするんです。中央線界隈のフォークもあれば、ゆずの聖地の横浜とか、フォークをアンプラグドととらえれば、沖縄の三線(さんしん)もあったり。地政学的な面がある気がして、今回はフォーク地政学を描くのが作劇的な目的です。

── バトルもあるんですか?

しますよ(笑)。各地にレペゼンみたいな奴がいます。曲数も結構…20曲くらいありますし。

── お二人がフォーク好きなのはわかったのですが、フォークである理由ってなんですか?

最近、デジタルやAIでも作曲できるようになって、正確な音楽というか…ある種製品化された音楽が増えてきている感じがしています。そういう中で、フォークには機械の手が介在しない。同じギターで同じチューニングでも、その人の歌声と弾き方で人間そのものが出るのが面白いなぁって。

フィクションの先でしか得られない面白さがある

── 今回もですが、岸田國士戯曲賞を受賞した『来てけつかるべき新世界』も、近未来を描きながら舞台である大阪・新世界は、今となんら変わらず混沌としていて。毎回、未来的世界とアナログとのバランスが絶妙ですよね。

これを言っていいかわからないけれど、“近未来”ってつけると、今の時代には難しいテーマもちょっとポップに包まれるんです。たとえば、ドラマ『時をかけるな、恋人たち』で、先生と生徒の恋愛を描いたのですが、それが現代の生徒と未来の先生というだけで見え方が少し違ってくる。取り扱い方によっては、こちらが意図していない政治とか思想みたいな文脈で綴じられてしまいそうな題材も、近未来にすれば、いい距離感で切り込んだり茶化したり…つまりフィクションにすることができる。大阪の新世界もです。

── 映画化もされた『サマータイムマシン・ブルース』は、大学の部室にタイムマシンが現れるという物語ですが、移動できるのはわずか1日だったり、登場人物もポンコツが多かったり…。

僕の作品の場合、SFは補助線というか定規を当てるみたいな感じなんです。物語世界のフレームを厳格にすることによって、中にダラッと過ごす人がいたり、不合理な行動をする奴が出てきたりという、人間のアナログさが際立つんですよね。それはヨーロッパ企画の作品の立ち上げ方のせいもあるかもしれません。僕が書いた枠組みの中でエチュード(即興芝居)をやってもらうと、絶対にその枠組みからはみ出ようとするメンバーがいるし、そこも作品に盛り込むようにしています。アナログとデジタル、人間とシステムのぶつかるところに、なにか面白いものが生まれる、という感覚をずっと持っている気がします。

── 移動し続けるメカに乗って展開されるお話だとか、巨大な文房具を探検する小さい宇宙人だとか、毎回設定がユニークですが、そういうシチュエーションをつねに考えられているんですか?

演劇で、リアリティの世界を描く方もいらっしゃいますけれど、自分が作っていたのは最初からSFシチュエーションコメディでした。結局、作り込まれたA面のフィクションの世界が好きなんです。今はB面…ドキュメンタリー的な裏話が喜ばれる時代。僕も嫌いじゃないですが、ハイファンタジーはエッセイに比べて読むのに想像力が必要で大変なぶん、フィクションの先でしか得られない面白さがあると思っています。

── アイデアソースというと?

僕、ファンタジー図鑑とかSF図鑑とかの本をめちゃくちゃ持っていて、フィクションの種はたくさんあるんです。そこに何を掛け合わせたら面白くなるかをつねに考えています。今、目を向けているのはSNSとかスマホのような、昔はなかったもの。たとえばスマホを使うゾンビとかって、現代ならではの感覚ですよね。

演者として瞬発力で面白い言葉を放つ人に憧れます

── そもそも演劇を始められたのは? なぜ演劇だったんですか?

正直、いまだに自分でもあんまりわかってないんです(笑)。中学・高校と音楽をやったり、ゲームを作ったり、お笑いが好きだったりしたんですが、高校の時にクラスの劇を任されたのが楽しくて、向いているかもと思ったのがきっかけといえばきっかけかな。

── 上田さんの作風や趣味を考えると、バラエティ番組やゲームのシナリオみたいな方向に行く可能性もあったのでは、と思って。

それで言うと、すべての道は演劇に通じています。演劇なら、舞台上でバラエティのようなことをやっても音楽をやってもいいし、アートを持ち込んだってよくて。要は、扱える領域が広いんです。最近わかってきたのは、何人もの出演者がいる2時間の演劇は、コントロールしなければいけない要素がすごく多いということ。お笑いをすごくリスペクトしていますけれど、漫才やコントに比べて、演劇はもっと複雑で難しい十種競技って感じ。でもだからこそやり甲斐があるのかもしれません。

── ただ、演劇は映像に比べて拡散力が限られますよね。

たまたま演劇から始めましたけれど恩義もあるし、だんだんうまくなってきて得意技にもなっているので、続けていく以外の手はないと思っています。でもこの間、『君は映画』という映画で監督をさせてもらったら、こっちはこっちで果てしない。もし最初に映画から入っていたら、映画をやってたんじゃないかなと思うくらいには、深さと面白さがありました。

── こんなこと言うのは失礼かもしれませんが、演劇って、内省的だったり難解な作品が評価されがちな世界だと思います。でも、上田さんが岸田國士戯曲賞を受賞して、少し変わってきた気がして。

それで言うと、岸田賞をいただいてからは、そこの欲みたいなものがきれいさっぱりなくなりました。劇団を始めた時から、自分たちの意識はエンターテインメントでしたけれど、どうしても批評性や芸術性が評価軸になることが多く、エンタメも大事なのにと思っていた時期もありました。でも、続けていくうち、お客さんがついてくれ、いろんな人が出てくれるようになりましたし、面白いものを作れている実感があるので、今は全然気にならないです。

── ヨーロッパ企画は旗揚げから28年ですが、劇団を続ける理由、劇団だからできることってどんなことだと思っていますか?

エモーショナルな方向で劇団を語ることもできるけれど、僕はわりと会社に近いと思っています。たとえば、アンアンも創刊から50年以上ですが、中の人が入れ替わりながらも、ここまで積み上げてきた知見だったりノウハウだったり、文化みたいなものは受け継がれていると思います。それは劇団も同じで、28年積み重ねたからこそできることがあって。それこそフォークソングを舞台に乗せて演劇にする、なんて今じゃなきゃやれなかったと思います。

── ご実家は京都のお菓子メーカーでしたが、それがご自身や創作に影響を与えたと思います?

手仕事を見て育ったのは、大きいと思います。お客さんの喜ぶ顔と自分たちの生活の糧を得ることがめちゃくちゃ直接的なので、今も稽古場でものを作っている感覚が嬉しかったりします。あと、災害が起こってもうちには備蓄があるという安心感はありました。

── 今はどんなことに興味が?

どうやろう…かつてはいろいろ調べるのが楽しかったんですが、今は、劇団運営の仕方とかフォークソングの演劇を作るやり方とか、本には載っていないことが増えてきています。でも、そこで自分なりのノウハウを作っていくのは楽しいです。…という中、ついつい観ちゃうのはお笑いです。千鳥さんのようなドキュメンタリーっぽい面白さ。勝てないなと思うのは、平場でのコメントが巧みな人。麒麟の川島さんや、蓮見翔さんのような。脚本というフィールドなら自分も戦えるし得意なんですが、演者として瞬発力で放つものの力に毎回惚れ惚れしています。

Profile

上田誠

うえだ・まこと 1979年生まれ、京都府出身。劇団・ヨーロッパ企画の代表で、作・演出を担当。2017年には『来てけつかるべき新世界』で岸田國士戯曲賞を受賞。近年は、映像作品も数多く手がけ、'23年の映画『リバー、流れないでよ』では日本映画批評家大賞脚本賞受賞。今年公開の『君は映画』で長編映画監督デビューを果たした。

information

上田誠さんが作・演出を手がける舞台、ヨーロッパ企画特別興行『世界の終わりかけとスリーコード』は、10月13日(火)~25日(日)、東京・サンシャイン劇場にて上演。大阪、宮城、福岡公演もあり。井ノ原快彦さんを主演に迎え、文明が崩壊した近未来、廃墟となった東京の街をギターとともに旅する2人組と、彼らの前に立ちはだかるフォークトライブの刺客たちとのバトルの行方を描く。

https://www.europe-kikaku.com/

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写真・小笠原真紀 インタビュー、文・望月リサ

anan 2514号(2026年10月7日発売)より
Check!

No.2514掲載

上質なご自愛。

2026年10月07日発売

たまには自分をいたわり、ゆったりとした時間を過ごしたいもの。忙しない日常で疲れた心と体をリセットするための、ちょっと上質なご自愛のアイデアを集めました。

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