元宝塚歌劇団雪組トップスター・彩風咲奈が歩む「道」。「もっと自分の感覚や感情に素直になっていきたい」

抜群のスタイルと丁寧でハートフルな芝居、キレのあるダンスで、多くの観客を虜にしてきた元宝塚歌劇団雪組トップスターの彩風咲奈さん。退団後3作目となる舞台は、2013年に初演され話題を呼んだ『THE ALUCARD SHOW』。謎のグループ”アルカード”を中心とし、芝居と、歌やダンスを盛り込んだショー的要素をミックスさせた、新感覚のステージだ。本作で、国民的人気アーティスト・マリアを演じる彩風さんに、本作の魅力そして、退団から2年を経ての今の想いを聞く。

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    一度は打ちひしがれたマリアが、再び立ち上がる姿をしっかり演じたい

    ── 目前に控える舞台『THE ALUCARD SHOW』ですが、原作・構成・演出の河原雅彦さんが「日本から世界に発信できるハイクオリティな作品を作りたい」という想いから、2013年に初演されたものです。出演をお決めになられるにあたって、どこに魅力を感じました?

    お話を伺ったときに、お芝居だけど、お芝居だけではない、新感覚のエンターテインメントショーだと伺って、まず面白そうだなと思ったのが第一印象でした。ただ、お話を伺っているだけでは、どんな作品かあまり想像がつかなくて。でも、実際に稽古に入ってみると、13年前に作られたとは思えないくらい新しい感覚の作品で、これを当時上演していたんだということにびっくりでした。体感してみないとわからない面白さがあるなと思いました。

    過去の本番映像も見せていただいたのですが、舞台のセットとか照明の使い方とか、本当に素晴らしいですし、音楽とセリフの切り替わりや、場面転換もとてもスマートでカッコいい舞台ですよね。

    ── ヴァンパイアをモチーフに、カリスマ的な魅力を持ったボーカリスト・ブラドと彼が率いる謎のダンサーグループ「アルカード」のパフォーマンスに魅了され、人生を狂わされていく人々が描かれていきます。「アルカード」のクールなカッコよさと迫力のあるパフォーマンスが素晴らしく、見応えのある作品ですよね。今、稽古場での手応えはいかがですか?

    振付が先行しておこなわれていたこともあって、私が稽古に入った段階で、すでにアルカードのパフォーマンスは、ほぼ出来上がっている状態で。みなさんプロフェッショナルの集まりで、拝見したら本当にかっこよくて素晴らしく、そんな中でお稽古させてもらえているのがとても楽しいです。

    私はもともと、わりとじっくり歩みを進めていくタイプではあって、今は台本と向き合いつつ、ブラド役の松下(優也)さんとお芝居をして、アルカードのショーを見て、自分の中から湧き上がってくるものとをミックスさせながら、マリアという役を作っていっている段階です。

    ── 具体的に今、アルカードのみなさんのパフォーマンスや松下さんとお芝居をしてみていかがですか?

    本読みの段階では、拝見していた過去作品の映像にとらわれず、自分が思ったマリア像を表現してみたのですが、河原さんからは、もっと女性として、感情がむき出しになったり、ヒステリックな部分も出してほしいと言っていただきました。

    これまで宝塚歌劇団で男役として学んできたことが染み付いていて今の芝居にも出てしまっているんだと思います。まずはそこを取り払って、違うアプローチを探っていこうと思っている段階です。

    ── ヒステリックな彩風さん、想像がつかないです。

    たぶん男役を追求していく中で、知らず知らずのうちに、感情を抑えて我慢しちゃったり、どこかカッコつけちゃたり、綺麗に振る舞おうとしてしまっていたんだと思います。早くそこを取り除いて、もっと自分の感覚や感情に素直になっていきたいと、もがいている最中です。

    ── マリアという役柄については、どのようにとらえていますか?

    坂田(聡)さん演じるウォルターの、最初は安酒場で酔っ払い相手に歌っていたというセリフもあるように、マリアは最初からトップアーティストだったわけではなく、努力…だけではなくあの手この手も使ったとは思いますが、必死になってのし上がってきた人なんですよね。絶頂期もあったけれど、今はちょっと低迷してきて、なんとかしがみつこうと躍起になっている。最初から天性のものを持っていてスターになった人じゃないからこそ、そこへの執着もあって。それがすごく人間らしいなと思っています。でもそうやって彼女が頑張って掴んだものが、一瞬にしてアルカードたちに攫われていく。大事なものが失われた後のマリアが、一度は打ちひしがれながらも再び立ち上がっていくんですが、そこも這い上がってきた人らしいと思うので、しっかり演じたいと思っています。

    ── 彩風さんご自身は、もちろんご自身の努力の賜物ではありますが、順調にスター街道を歩んでこられた印象がありますが、共感する部分はありますか?

    あります。やっぱりどんどん新しい人が入ってくる世界で、みんながフレッシュで素敵に見えるし、自分にないものを持っていると思うと、私の魅力ってなんだろうって考えてしまって、すごく悩んだ時期がありました。今思えば、そうやって考える時間があったからこそ、強化していかなくてはいけない弱い部分にも気づけたし、逆に強みも見つけられたんですけれど。当時は、隣の芝生は青く見えて、自分はどうなっていくんだろうと怖がっていましたから、マリアの葛藤も理解できる部分があります。

    ── ブラドの迫力の歌とアルカードたちのダンスのカッコ良さを観ると、魅了されてしまう大衆の気持ちも理解できます。

    本当にカッコいいですよね。アルカードのみなさんは、ダンサーはダンサーでも、それぞれ得意分野が違う方が集まっている印象があります。それぞれの踊りに個性を感じながらも、松下さんのブラドを中心にビシッと揃っているのがカッコいいです。

    ── 彩風さん自身も踊れる方だけに、自分もそっちに入りたい、とはなりませんか?

    いえいえ(笑)、とんでもない。私は劇団にいたので、どうしてもいただいた振付をこなしていけるように練習するっていう感じでした。でも、アルカードのみなさんは、音楽が鳴ったら自然と体が動いて、それがダンスになっていくような感じがします。振付以上のものが、自分の中から湧き上がっていて、それがとてもカッコいい。稽古場で見ているだけで気分が高揚します。

    ── 男性キャストが多い稽古場ですが、雰囲気はいかがですか?

    アルカードのみなさんは、私たちより早くからダンスの稽古をされているのもあって、すでにとても仲が良さそうです。あと、若い20代のキャストも多いからか、彼らは本当によく食べています(笑)。年齢的に少し上の松下さんと平間(壮一)さんが、チームを引っ張ってくださっている印象です。ダンスのことや、表現に関して、先頭を切って意見を言ったり、アドバイスしていたりする姿を見ながら、素敵なカンパニーだなと思っています。

    自分としては、今、本当にのびのびとやらせていただいています。坂田さんも、サラ役の野口(かおる)さんも、すばらしいキャリアをお持ちの経験豊富な方々で、一緒にお芝居することで刺激を受ける部分も多いので、私も怖がらずにもっと自分を解放していけたらと思っています。

    宝塚歌劇団在団中、ストイックであることを自分に課していたと思います

    ── 宝塚歌劇団を退団されて約2年。これが3作目の舞台となります。在団中は、共演者も演出家も、よくご存知の方々ばかりの中で作品を作っていたと思います。今、新たな世界に身を置いて、気づきや驚きはありますか?

    一番新鮮なのは、宝塚にいた時は、お芝居をしていても、この人はこんな声で、こんな感情でお芝居をしてくるだろうなと、台本をいただいた段階である程度想像ができるんです。でも外の世界ではみなさん初めましてで、どういうお芝居をされるかわからないので、本読みの時に、驚かされることがとても多いです。

    在団中は、稽古の最初の段階からある程度役を作り込んで稽古に臨んでいたのですが、作り込みすぎると後から調整が難しいので、今は、あまりガチガチに決め込まずに臨むようにしています。

    ── 先ほど彩風さんが現れたときに、とても柔らかい空気を纏っていらっしゃるのが印象的でした。

    それはよく言われます。今思えば、歌劇団にいた時は、ピシピシというかピリピリというか…気持ち的に、自分に課しているものが大きかった気がします。ここまでやっておかなくてはいけないとか、ここまで到達していなくてはいけない、みたいな責任感を勝手に背負っていたんですよね。

    ── 在団中は、とてもストイックな方というイメージがありました。

    それも勝手に自分に課していた部分で。朝も稽古が始まる2時間半前には入っているとか、終わってからも、2時間は自主稽古しないと帰れないとか。それが果たしてよかったのかどうかわからないけれど…あの時は、そうしないといられなかったんですよね。通し稽古前には、必ず自分が出る場面を頭から全部ひとりで踊っておかないと…とか。

    今は、稽古でベストを尽くすために、その前には全力ではなく体を温める程度にしておく。翌日の稽古で集中力を切らさずしっかり動けるように、ここで帰って一回リフレッシュする。一回台本から離れてまた新しい気持ちで読んでみる。そういったことに意識を向けるようになりました。

    ── 退団されてこれが3作目。出演を決めるご自身なりの想いみたいなものはありますか?

    今年、ありがたいことにミュージカル『天使にラブソングを〜シスター・アクト〜』、『HiGH & LOW THE 戦国 外伝』とこれが3作目です。これまで男役としては18年…宝塚音楽学校時代を入れると20年やってきましたけれど、女性を演じることに関しては、まだまだだなと実感しているところです。だからこそ、今はひとつのイメージにとらわれることなく、いろいろなタイプの役に挑戦してみたいですし、そこで自分の引き出しを増やしていきたいと思っています。

    男役時代の私のファンの方の中には、もしかしたら、こういうものは見たくなかったと感じるものもあるかもしれません。でも、私は今の自分に必要だと思うもの、挑戦したいと思えるものをやっていきたいと考えています。最初こそ抵抗があったけれど、観てみたら素敵じゃないかと思ってもらえるような俳優になれたらなと思います。

    ── 役を演じるという部分では同じですが、どこが男役とは違うと感じていますか?

    これは私が感じていることですけれど、宝塚の男役って非現実的で、だからこそ素敵だと思うんです。たとえばキラキラしている衣装を着ている男性ってなかなかいませんし、王子様のような人も現実にはほとんどいないわけです。現実世界のリアルな男性像を描くのであれば、リアルな男性が演じればよく、男役という非現実的な存在だからこそ演じられる男性像というものがあると思っています。もちろん、本物のお芝居を目指してきましたが、負の感情もむき出しの生々しい表現は意識的に避けて、どこか夢々しいところを目指してきたんです。今はもっとリアルな感情を出していくことが求められていて、そこが大きく違います。どうしてもやっぱり、綺麗に見せようとしてしまうんです。無意識に立ち姿とか表情も。そこが今の課題です。

    ── 退団し、俳優としての道を歩き始めた今、ご自身の思い描く“彩風咲奈像”とはどんなものですか?

    周りから、柔らかい雰囲気になったとはよく言われるんですが、そこ以外はあまり変わってないんじゃないかと思います。ファンの方からもそう言われますし。舞台で男役を演じるときは作っていましたけれど、普段はあまり作り込んでいるタイプではなかったので。歌劇団という囲いがなくなったことで、より、“そこにいる人”になった感じです(笑)。

    ── 目指す俳優像はありますか?

    今共演しているからというのではなく、俳優として松下さんのことを尊敬しています。じつは今年の頭に、『クワイエットルームへようこそ The Musical』を観たのですが、てっちゃん(焼畑鉄雄)という役がすごく好きだったんです。最初、あの役を松下さんが演じていることに気づかなくて、わかった時に、これまで抱いていたイメージと違いすぎてびっくりしました。今回のブラドのようなカリスマ性のある絶対的スターを演じられる存在感もありますし、この前の『BOOP! The Musical』で演じられたハートフルな男の子の役もぴったりだし、『キンキーブーツ』のローラのような役も演じられる。踊っても歌ってもカッコいいですし、松下さんのように、作品ごとにガラッと変化できるような俳優になりたいなと思っています。

    ── 挑戦してみたい役というと?

    具体的には思いつかないですけれど、今度、初めて母親役に挑戦させていただきますし、人間じゃない役もあるので、その先も幅広くやっていきたいです。ただ、いわゆるヒロイン的なかわいらしい役は、いろんな面で自分じゃないのかなとは思うんですけどね。それこそ、せっかく男役をやっていましたから、自分の強みをいかしていけるようなジェンダーにとらわれない役も、演じられたらいいですね。

    Profile

    彩風咲奈

    あやかぜ・さきな 1990年2月13日生まれ、愛媛県出身。2007年に宝塚歌劇団に入団。星組公演『さくら』『シークレット・ハンター』で初舞台を踏み、その後、雪組に配属。舞台で目を惹く華と、長い手足を生かした躍動感あふれるダンスで早くから注目され、’10年の『ソルフェリーノの夜明け』を皮切りに、5作にわたり新人公演初主演を果たす。’14年の『パルムの僧院』でバウホール公演初主演。その後、『CAPTAIN NEMO』『ハリウッド・ゴシップ』などでも主演を務め、’21年に『CITY HUNTER』『Fire Fever!』で雪組トップスターに就任。’24年10月に『ベルサイユのばら -フェルゼン編-』で退団。’26年3月開幕のミュージカル『天使にラブソングを〜シスター・アクト〜』で退団後初の舞台に出演。7月開幕の『HiGH & LOW THE 戦国 外伝』に続き、本作が3作目に。12月にはミュージカル『ジョン&ジェン』、来年春には舞台『四畳半の大宇宙』への出演が控える。

    https://sakinaayakaze.com/

    information

    『THE ALUCARD SHOW』

    10/6(火)~22(木) 東京・日本青年館ホール

    原作・構成・演出/河原雅彦 振付原案/MIKIKO (ELEVENPLAY) 振付/SHINGO OKAMOTO、SAYA (ELEVENPLAY) 脚本/竹内佑 音楽/篤志  出演/松下優也、平間壮一、SANTA、滝澤諒、赤名竜乃介、山野光、瀧澤翼、坂田聡、野口かおる、彩風咲奈ほか

    全席指定 S席12,500円ほか

    チケットスペース 03-3234-9999(東京公演のみ、10:00〜15:00 ※休業日は除く)

    https://alucardshow2026.com/

    大阪公演あり。

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    写真・小笠原真紀  スタイリスト・ 村田友哉(SMB International.) ヘア&メイク・栗原里美 取材、文・望月リサ

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