上坂あゆ美「一言で言い表せる人間なんていません。誰にも単純な言葉を当てはめたくない」

「下半身から血が出る日にもおにぎりを握り続ける母という人」と詠むのは、歌人の上坂あゆ美さん。短歌やエッセイだけでなくPodcastでも人気な彼女の原動力とは。


2022年、第一歌集『老人ホームで死ぬほどモテたい』で注目を集めて、エッセイの執筆やPodcastなど活躍の場を広げている上坂あゆ美さん。活動が多岐にわたるのは「昔の自分のような10代にアクセスしたい」思いと「知りたい」気持ちがあるからだ。

── デビュー作は歌集としては異例の1万部超えとなりました。鋭い描写で、現実を端的に捉えた迫真の短歌の数々が印象的でした。

歌集に入った歌を作ってた頃は、10代の自分が経験していた家族や学校にまつわる生きづらさを題材にすることが多くて。でも人生を切り売りしすぎると心身が摩耗してしまう。だから最近はフィクションも交ぜながらできないかなと模索しています。

── 短歌だけでなく、様々なメディアにも登場されています。仕事は基本的になんでも受けるスタンスですか?

そうですね。ただ、思想が合わない場合はお断りすることもあります。例えば「アンチエイジング」についてのオファーには「私は老いを肯定したい立場なので」とお断りするとか。あとは…ギャラですかね(笑)。

── それは大事です。

ただ最近は昔の自分みたいにしんどい思いをしている10代にアクセスしたくて活動しているので、学生向けの仕事は都合さえ合えば必ず受けています。

── 上坂さんが僧侶の鵜飼ヨシキさんと共にやっているPodcast『私より先に丁寧に暮らすな』(以下、『よりすな』)でも10代のお悩みにたくさん答えています。なぜ若者と接するようになったんですか?

最初の歌集に10代の頃の死にたさやつらさを書いていたら、当時の呪いがだいぶ解けたんですよね。それまでは呪いをどう解くかだけを考えて生きてきたので、もう書く理由がなくなってしまった。だからかつての自分みたいな若者のために何かできるといいなというのを、私が書き続けるための動機にさせてもらっている感覚です。「10代のために活動している」とだけ言うと、良い人すぎてうさんくさいですよね(笑)。

── そうやって若者に向き合う上坂さんのメッセージが10代に届いている実感はありますか。

2024年に『よりすな』をスタートしてからは、若い人からのレスポンスがかなりあります。「上坂さんのアドバイスに助けられました」とか「ご相談した件、進展しました!」と報告が来ると嬉しいです。本の感想ももちろんありがたいんですが、歌集は少部数発行だから値段も高くて、図書館に並ぶことも少なくて、若い子はなかなかアクセスできません。その点、私たちのPodcastは無料で誰でも聴けるから、いろんな人の声が届くのでいいですね。

── YouTubeやTikTokではなく、なぜ音声コンテンツを選んだんですか。

動画も考えたんですが、家が汚いから映せないんで。原稿書きも音声の収録も台所のコンロの上でやってるくらい。

── 他にも10代を意識した活動はありますか?

最近だと8月末に発表した「生きのびプレイリスト」ですね。夏休みの最終日前後って「またいじめが始まる」とか「受験勉強から逃げたい」などの動機で、青少年の自殺がすごく増えるんです。私も子どもの頃はつらかったけど大人になって楽になった。だからみんなもなんとか生きのびてほしい。そんな思いで企画しました。「10代の頃、これを聴いて生きのびました」というセレクトとメッセージを小説家の朝井リョウさんやミュージシャンで文筆家の和田彩花さんなど27人からいただいて、プレイリストにしています。ぜひ検索して聴いて、シェアしてほしいです。

── 上坂さんはDIY的な活動が多いですが、昔からそうですか?

たしかに小学生のときから、HTMLを打って個人ホームページを立ち上げていましたね。二次創作を載せたり、『HUNTER×HUNTER』のファンサイトを運営したりしていました。コミュニティサイトの「ふみコミュ!」も利用してて、小5でオフ会したこともあります。当時は沼津に住んでたんですけど、横浜の子に会いに行きました。

── すごい行動力!

もちろん親同伴ですけどね。その子とは今も繋がってます。後に私は美術大学に入学したんですが、彼女も別の美大に通ってて。コミュニティサイトで熱心に絵を描いていた私たちがふたりとも美大に行ったのは感慨深かったです。

“本当”にこだわりすぎて自己矛盾が許せなかった

── 絵を描くのが好きで美大でグラフィックデザインを専攻した上坂さんが、短歌やエッセイを書くようになったきっかけは?

美大で「自分は絵じゃないなぁ」と気づいちゃったんです。本当に絵が好きな人って、お金がなくても描きたいという情熱がある。だからキャンバスの1ミリにまでこだわって、どんどん成長するんです。それに比べれば自分の熱量はたかが知れてるから諦めました。短歌は31文字しかないから、こだわれる部分がそもそも少ない。油絵に比べたらお金も時間もかからなくて楽なんです。それに短歌は投稿し始めてすぐ褒められて、やる気も出ましたね。美大時代はほとんど評価されなかったから嬉しかったんです。

── Podcastでの上坂さんの語りは、ときにはリスナーの見解に異議を唱えつつ、アドバイスしますよね。リスナーに寄り添いすぎてなくて距離感が見事です。

私的にはかなり寄り添ってるつもりでした(笑)。でもたしかに昔から「ねぇねぇ、聞いてよ」って言われると「これは愚痴ですか? 相談ですか?」と確認しちゃうんですよね。その点、『よりすな』だと、ゆっくり意図を確認していけるし、数十分から1時間くらい答え続けられるから向いてるのかも。私、目的がわからないことがめっちゃ苦手なんですよ。「今、何の時間ですか?」と思うと、もう耐えられない。だから学校も嫌いだったのかも。

── インタビューはどうですか。「結局、何が聞きたいんだよ!」と思うことはありませんか?

それは大丈夫です。言いたくないことは何もないので、なんでも聞いてください。でも逆にメディアの方に対して「取れ高、大丈夫ですか?」と気になります。

── サービス精神が旺盛ですね。

そのせいで、デビューしたての頃は上手いインタビュアーの方に乗せられると、暴走しちゃって、取材後にけっこうヘコんでました。必要以上にキャッチーな言葉で自分の気持ちや考えを包んじゃって、本当のことを言えなかったなって。アンアンでも連載しているゆっきゅんと対談したとき「上坂さんは作家なんだから、場を上手くまとめるのは、あなたの仕事じゃないんだよ」と言われて、本当にそうだなぁと反省しました。ちゃんと自分の言葉を排出するのが私の仕事なんですよね。

── 自身の半生や思いを踏み込んで排出しますよね。なぜそこまで“本当”のことが言えるんですか。

生まれつきの気質で、異常なほど「本当」や「真実」にこだわっちゃうんですよ。歌人の穂村弘さんにも「上坂さんは本当に思ってることしか書かないですよね。みんなは思ってないことも書くのに」と言われて自分がやりすぎなんだと改めて気づきました。「本当」を追求しすぎると、社会の曖昧さや自己矛盾が許せなくなって、どんどん生きづらくなる。人間は多少ごまかしてでもバランスをとって生きていくもの。だから最近の自分のテーマは“自己矛盾の許容”なんです。これまで書いてきた短歌やエッセイも、当時の自分の認知が至ってなくて、あとから「あの表現は本当じゃなかった」と気づくとつらい。本は残り続けるから困ります。「あの頃の自分はまだ視野が狭かったので! あれはまだ本当じゃないです!」って思うんだけど、それも許せる自分になりたいですね。『老人ホームで死ぬほどモテなくてもいい』って本を出して自己矛盾を許容したい(笑)。

── デビューからまだ4年です。それでも変化するものですか。

めちゃくちゃ変わってます。私、物言いが強いから変わらない人に見えるだけで、言うことはブレブレなんですよ。でも世間って一度「強い人」認定すると、そういうキャラだと信じ続けるじゃないですか。そもそも「強い/弱い」ってひとつの言葉で言い表せる人間なんていません。私は誰に対しても単純な言葉を当てはめないでいたいし、自分のことも一言で片付けないでほしいです。

── 「みんなが思ってるような人間じゃない」と知らせるためにも表現し続けることは大事ですね。

そうですね。10代の頃はつらすぎて、感受性のスイッチを切ってて、「いつ死んでもいいな」という気持ちで生きていました。今は「感受性を持ったまま、生にしがみつく」ことが大事だと思っています。現代社会は本当にしんどいので、何かを感じながら生きるだけで十分デモ活動になる。私はたまたまその活動を言葉にする側の人間だっただけです。

── 新刊『会社ではおならをしてはいけません』には、幼少期から10代までの思い出も綴られています。感受性のスイッチを切っていたのに、なぜ記憶がこんなに鮮明なんだろうと不思議でした。

全然覚えてないので、母に取材して書いてます。ハワイの家族旅行も、親戚が死んだときのことも忘れるほど、当時の記憶はなくて。でも子どもの頃に乗ったタクシーの運転手さんの名前が「虹子」だったことは覚えてる。「なんで虹子?」みたいな疑問はすごく残るんですよね。疑問は「知りたい!」というピュアな好奇心だから「嬉しい」「悲しい」といった感情より手前にあって、それがいいのかも。『よりすな』も「おたよりをくれたのは、どんな人間なんだろう」って本気で知りたくなっちゃうから、200回以上配信していても飽きないのかもしれません。

Profile

上坂あゆ美

うえさか・あゆみ 1991年8月2日生まれ、静岡県出身。2022年、会社勤めをしながら第一歌集『老人ホームで死ぬほどモテたい』(書肆侃侃房)でデビュー。'23年からフリーランスとなる。著書にエッセイ集『地球と書いて〈ほし〉って読むな』(文藝春秋)や、共著エッセイ『友達じゃないかもしれない』(中央公論新社)など。新刊は『会社ではおならをしてはいけません』(双葉社)。京都の僧侶・鵜飼ヨシキさんと共にPodcast『私より先に丁寧に暮らすな』を配信中。

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写真・飯田エリカ インタビュー、文・安里和哲

anan 2512号(2026年9月16日発売)より
Check!

No.2512掲載

ボーダレスカルチャー 2026

2026年09月16日発売

ジャンル、国境、世代など、既存の枠組みに囚われず、様々な垣根を越えて輝く人や事象に注目。様々な分野からアプローチした“ボーダレス”なトピックスをお届けします。

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