
お笑いカルテット「ぼる塾」の酒寄希望さんが、本屋さんで気になった本を紹介していく月1連載の第13回をお届けします!
Profile

酒寄希望
さかより・のぞみ 1988年4月16日生まれ。お笑いカルテット「ぼる塾」のメンバーで1児の母。ぼる塾のブレーンとしてネタを書いて舞台に立ちながら、子育てエッセイや作品レビューなど執筆業でも活躍中。著書に『酒寄さんのぼる塾日記』(ヨシモトブックス)など。noteにも投稿中。最近は香港映画にハマり、現在250本以上鑑賞。note
この文章を書いている現在、わたしは妊娠中です。本屋さんに行くと、絵本コーナーに立ち寄ることが多くなりました。生まれてくる赤ん坊の為にどんな絵本を読んであげようかと考えるのも楽しいですし、絵本コーナーはなんだかいるだけでほっとするのです。さまざまな絵本に囲まれていると、どうしてかはわかりませんが、「大丈夫だよー!」と、絵本が囁いてくれているようで、心が穏やかになります。
絵本は小さな子ども向けだと思っている方も多いと思いますが、絵本は子どもだけでなく、大人にとっても優しい存在です。今回紹介する本は、そんな絵本コーナーで見つけた一冊です。
「ポケットのないカンガルー?」
カンガルーといえば、お腹のポケット。おそらく、カンガルーと聞くと全員が最初に思い浮かべるのは、お母さんカンガルーが子どもをお腹のポケットに入れて運ぶところではないでしょうか? カンガルーとは、ポケットのある動物として有名な生き物です。
その大切なポケットがないカンガルー。タイトルが気になって、わたしは本棚から絵本を取り出しました。本全体が鮮やかな黄色になっており、表紙には、タイトルの通りポケットのないお母さんカンガルー、その子どものカンガルー、人間のお兄さんがとても可愛らしい絵柄で描かれていました。カンガルーと一緒にいるお兄さんには、少し見覚えがありました。わたしの知っている人にどこか似ているように思えたのです。
「このお兄さん、黄色い帽子のおじさんに似ているんだ!」
表紙のお兄さんは、『おさるのジョージ』に登場する黄色い帽子をかぶった優しいおじさんに似ていたのです。それもそのはず、こちらの絵本は『ひとまねこざる』シリーズで大人気のH.A.レイがエミイ・ペインの書いたストーリーに惚れこんで絵筆をふるったものなのだそうです。
「なんてあたたかくて素敵な絵だろう。この絵本読みたい!」

『ポケットのないカンガルー』(偕成社)作・エミイ・ペイン 絵・H. A. レイ 訳・西内ミナミ
タイトルのとおり、この絵本に登場するお母さんカンガルーのケイティには、お腹にポケットがありません。ですから、彼女は小さなぼうやのフレディをどこにも連れて行くことができません。ほかのお母さんカンガルー達が子どもをポケットに入れてぴゅんぴゅん走って行くところを見て、大きな涙を流します。愛らしくて可愛い絵柄ですが、涙を流す親子カンガルーの姿を見ると、始まりからいきなり胸が締め付けられそうになります。
しかし、彼女はずっと泣いているだけではありませんでした。
―ほかの どうぶつの おかあさんは、 どうやって 子どもを はこんでいるのかしら。 ポケットなんか ないのに―
カンガルー以外のお母さんには、ポケットはありません。しかし、ポケットが無くても子どもを運ぶことができています。彼女はぼうやのフレディの為に、いろんな動物のお母さんに子どもの運び方を聞きに行くことにします。ポケットのないカンガルーのお母さんケイティは、とても前向きに自分にポケットがないことへと立ち向かっていきます。
(このケイティの姿は、すごく励まされる。わたしは息子が小さかったころ、ほかのお母さんと比べてできない自分にすごく悲観的になってしまったから)

ワニのお母さんにおんぶという方法を教わり、サルのお母さんに抱っこという方法を教わり、ライオンのお母さんから子どもは自分で歩かせることを教わり、とりのお母さんからは巣から突き落として飛ぶ稽古をする方法を教わります。しかし、どの方法もカンガルーの親子にはうまくいきませんでした。
けれども、ケイティは諦めません。とりからフクロウに辿り着き、物知りなフクロウにこう尋ねるのです。
「わたしは、おかあさんカンガルーです。でも、わたしには おなかに ポケットが ないんですっ! どうしたら、いいんでしょう!」
「なあんじゃ、それなら、ポケットを かえば いいじゃろ。」
フクロウはケイティにポケットを買うというアドバイスをくれます。これを聞いた彼女は大喜び! すぐにカンガルーの親子は町にポケットを買いに行こうとするのですが、この町へと向かうシーンは、ケイティの嬉しさが溢れて溢れて止まらないといった感じで、読んでいるこちらも彼女のように飛び跳ねたくなるほどです。
ポケットが、 町に あるなんて しらなかったわ。ちっとも、ほい。
ぴょーん、ぴゅん ぴゅん!
ぼけーっと してるわけにゃ いかないわ。
いそいで 町へ ひとっとび。
ぴょーん、ぴゅんぴゅん!
(そうそう! お母さんだって嬉しかったら思いっきりはしゃぐよね! 子ども以上にはしゃぐことだってあるよね!)

そして、とうとう町に辿りついたカンガルーの親子は、ポケットを探し始めます。そのとき、目の前からポケットだらけの男の人がやってくるのです。大きいポケットも小さいポケットも中くらいのポケットもすべてを持った、体中がポケットだらけの人です。そう、表紙でカンガルーの親子と一緒にいた男の人です。
ポケットだらけの男の人とカンガルーの親子の出会いからは、この絵本全体にずっと流れていた優しさとあたたかさが最大限に発揮されており、子どもへの母の愛と、カンガルーの親子に関わる周りの人の愛が思いきり伝わってきて、子どもが読んだら嬉しくなるのはもちろん、読むと大人の心が強く救われます。わたしが絵本コーナーにいると感じる「大丈夫だよー!」という気持ちに似た思いに包まれるのです。
ケイティは、とっても しあわせ。というのはね、ケイティは、
物語の始まりで泣いていたケイティが、最後はとってもしあわせになれたのはいったいどうしてか。『ポケットのないカンガルー』は、子どもを持つ母だけではなく、かつて子どもだった大人にとっても、今、生きる上で必要な優しさに包まれている絵本です。「絵本は子どもの読むものだから」と思わず、ぜひ一度絵本コーナーに足を運んで、この一冊を手に取って欲しいです。ケイティのような明るいお母さんになりたいのはもちろん、いつかわたしも誰かのポケットだらけの男の人になりたいです。
こちらにも、一目ぼれ!

『べつに怒ってない』(ちくま文庫)著・武田砂鉄
例えばエッセイを読んでいて、その考えがまったく自分にない発想だった場合、「すごい!どうやったら思いつくのだろう!」と、その著者の頭の中に感動します。しかし、この本の内容は、わたしも常日ごろからちらっと頭の片隅で考えていることばかりです。しかも、それはとても些細なことばかり。
例えば、「ドラッグストアに行くと必ず買い忘れが発生する問題」や、「『実はあの時』という言葉のもつ攻撃性」「十五時に電話しますって言われた場合、何時からスタンバイすれば良いのか」「嫌いな言葉は『で?』」などなど、小さなことだけど気になることについてのエッセイがこれでもかと大量につめられています。その数はなんと120本以上! 読んでいて共感の嵐なのはもちろん、「すごい! くだらないと思っていたことなのに、きちんと考えたらこんなに面白い考えに到着するの?!」と、驚きの連続を与えてくれます。
著者の武田さんは考えすぎのプロと呼ばれるほど、小さなことから大きなことまでひたすら本の中で考えに続けています。とりあげるテーマのチョイスが絶妙で、「小学校の体育館にあるマットの耳」についてのエッセイは生まれて初めて読みました。中には、「それは少し考えすぎなのではないか?」と思うエッセイもあり、考えすぎるとそこまでたどり着けるのかと非常に面白いです。タイトルである、「べつに怒ってない」というワードに今まで生きてきて思うところがあった人は、本だけど握手したくなるエッセイ集です!

『あつあつを召し上がれ』(新潮社)著・小川糸
なんて素敵なタイトル! 「召し上がれ」ではなく、「あつあつを召し上がれ」! この、「あつあつ」という言葉がついているとより、言ってくれた人の愛情を深く感じられるように思えます。食べることがだいすきなぼる塾のメンバーもわたしによく、「あつあつを食べて!」と、言ってくれます。この本は、食卓をめぐる7つの物語の短編集です。
登場人物たちはそれぞれ人生のターニングポイントに立っており、全体的にどのお話しもどこか寂しくて、どこか悲しい雰囲気があります。長年付き合った恋人との別れや、父親を亡くした母と娘など、別れのお話しが多いです。中には幸せなお話しもあるのですが、その幸福の中にも切なさがあるのです。その中で、場違いなほどとびきりおいしい物が毎回登場します。富士山のかき氷、中華街でいちばん汚い店のぶたばら飯、能登の松茸のフライなど、小川さんの書かれる食べ物はどれもこれもこちらのお腹が鳴ってしまうほどにおいしそうです。冷えた悲しみの中で、料理だけはとびきりあつあつです(それが、かき氷のような冷たい食べ物であったとしても)。
それぞれのシチュエーションに場違いな食べ物のおいしさに、最初は戸惑いました。しかし、読み進めるうちに、料理のあたたかさが登場人物たちの心も体もあたためていくことがわかりました。まさに、あつあつを召し上がれの精神です。わたしは中でも「さよなら松茸」というお話のおいしさと切なさのちぐはぐさがあたたかくてすきでした。







































