
お笑いカルテット「ぼる塾」の酒寄希望さんが、本屋さんで気になった本を紹介していく月1連載の第12回をお届けします!
Profile

酒寄希望
さかより・のぞみ 1988年4月16日生まれ。お笑いカルテット「ぼる塾」のメンバーで1児の母。ぼる塾のブレーンとしてネタを書いて舞台に立ちながら、子育てエッセイや作品レビューなど執筆業でも活躍中。著書に『酒寄さんのぼる塾日記』(ヨシモトブックス)など。noteにも投稿中。最近は香港映画にハマり、現在250本以上鑑賞。note
ここだけの話、わたしには、昔から苦手な女の子がいます。その子と出会ったのは子どものころですが、幼いながらに苦手だなと感じました。その子はとても意地悪なんです。平気で人を傷つけるようなことを言うし、それを楽しんでいるところを隠そうともしません。その子とは長い付き合いですが、友達に対する彼女の態度は出会ったときからずっと変わりません。
わたしの知っているかぎり、彼女はいい子だったときが一度もありません。
その子の友達には、「なぜ、あんな子と仲良くしているのだろう?」と、ちょっぴりわたしも意地悪な気持ちになって思ってしまいます。ですが、わたしがいくらそう思っても、彼女に意地悪されている男の子も、彼女にきつく当たられている弟も、普通にその子と一緒にいますし、彼女が周りから仲間外れにされることもありません。
「あんなに意地悪な女の子なのに、どうしてみんな友だちでいられるの?」
それがどうにも不思議でなりませんでした。
そんな彼女と最近、偶然本屋さんで再会してしまいました。最初は見なかったふりをしました。このまま立ち去ろうと思いました。彼女の意地悪に傷つけられないうちに逃げようと考えました。彼女の意地悪は自分がやられずとも、見ているだけで傷つくのです。けれども、妙に彼女のことが気になり、ふと気がつけばその本を手に取っていました。

『PEANUTSの気になるあの子 意地悪なだけじゃないルーシー』(世界文化社)原著・チャールズ・M・シュルツ 訳・谷川俊太郎 文・最果タヒ
「PEANUTSの気になるあの子」はシリーズもので、50年分のコミックからそれぞれのキャラクターの漫画をピックアップし、一冊の本にまとめたものです。その記念すべき第1弾の主役がルーシー! わたしの苦手な意地悪な女の子とは、「PEANUTS」のキャラクターのルーシーです。チャーリー・ブラウンやライナスなどの人気キャラクターを抑えてシリーズ物の最初のひとりになるということは、彼女はわたし以外の多くの人の心に引っかかっている女の子だったのです。それも、意地悪な女の子として!
「タイトルに“意地悪”って入っているくらいだもの。やっぱりみんなにルーシーといえば意地悪な女の子って共通認識があるよね」
この一冊には、多くのルーシーの漫画が収録されています。最初から最後まで、ルーシーはずっと意地悪です。しかし、読み進めていくうちに気づくのですが、タイトル通り、彼女は意地悪なだけではありませんでした。この本は一見意地悪に見えるルーシーを通じて、人間の持つ本当の価値について学んでいきます。
チャーリー・ブラウン「また今日も意地悪な顔をしてるね…」
ルーシー「意地悪でどこが悪いの… 意地悪はわたしの誇りよ… 今日の幼い意地悪娘たちは明日の意地悪ばあさんたちだ!」
普通、意地悪な人は意地悪だと指摘されると否定しますが、ルーシーは自分の意地悪を誇りに思っています。彼女にとって意地悪とは、「大切な自分の一部」なのです。ですから、誰にでも平等に意地悪を発揮し、堂々と意地悪をします。そこに陰湿さは一切ありません。ルーシーの意地悪は、相手を嫌いだからする意地悪ではないのです。いわば、彼女の個性です。

ライナス「姉さんはどうしていつもぼくを批判したがるんだい?」
ルーシー「わたしは他人の欠点を見るコツを知ってるんだと思うわ…」
ライナス「自分自身の欠点はどうなのさ!」
ルーシー「それを見過ごすコツを知ってるの…」
彼女は自分が意地悪をする分、人が自分に対して行う意地悪についても寛容です。彼女は意地悪というものにマイナスイメージがまったくないのです。
わたしの経験上、意地悪な人の方が自分に向けられる悪意には弱く、自分は同じことをやっておきながら相手に嫌なことをされると大騒ぎするイメージがありました(あくまでもわたしの個人的な意見です)。ですが、ルーシーは自分が意地悪をされても堂々としています。彼女の友達は意地悪された分、わたしが思っていたよりもきちんと反撃をしていました。彼女に対してはっきりと「きみは意地悪だ」と言っているし、収録されている漫画の中には彼女に対してかなり辛辣な発言もあります。ですが、ルーシーはそこに対して被害者ぶらずに対等でいます。ルーシーは友達の意地悪な感情も否定しません。PEANUTSのキャラクターにとって、意地悪はその人の一部なのです。意地悪だから友達にならないということも、いい子だから友達だということもありません。その人だから友達なのです。

ルーシー「いい、あなたにはイラッとすることがあるの! でも認めざるをえないけど、あなたをギュッと抱きしめたくなることもある…(スヌーピーに抱擁)」
スヌーピー(それがぼくってものさ…イラッとしてギュッ!)
ルーシーは決していい子ではありませんが、筋の通った気持ちのいい女の子です。わたしはルーシーと正反対でどちらかというと人の顔色をうかがってばかりで、嫌われたくない思いからへりくだり過ぎてしまうことがあります。その卑屈な態度から、嫌われたくなくてやっている行為のはずが、逆に相手を不快にさせてしまっている可能性がありました。そんなわたしよりもルーシーのほうが一緒にいて苦しくないと思います。彼女は裏表がなく、不機嫌を楽しむすべも知っています。
ルーシー「わたし、機嫌を直したくないのよ!!」
まさにルーシーらしい発言。この本を読んでいると、機嫌良く生きなくても、不機嫌を楽しむ方法はあるのだと彼女に教えてもらえます。また、ルーシーは報われなくても気にしません。彼女はシュローダーという男の子に片思いをしているのですが、どんなに無視されても平気です。彼と一緒にいるだけで幸せといった感じで、まさに無償の愛です。
ルーシー「あなたがわたしよりもピアノを愛してるってわかってるわ それでもわたしは生きていけるのよ 誰にもわかんないでしょ? いつかは変わるかもしれない 『ネクスト・バッターズ・サークル』にいるだけでわたしはしあわせ」
一方的な片思いであっても、ついつい見返りを求めたくなってしまいますが、彼女の恋を見ていると、こんなにも好きな人に出会えたことが、一番大切な喜びであることを思い出させてくれます。
ライナス「世界は1年に1週、太陽のまわりを回ってるってここに書いてある…」
ルーシー「世界は太陽のまわりを回ってるんですって? それ確か? わたしのまわりを回ってるんだと思ってたわ!」
あれだけ苦手だったルーシーなのに、気がつけば彼女を見ていると元気が出てきます。彼女の言葉は意地悪な女の子の枠などを超えて、自分自身を好きになる魔法の言葉のように感じられるのです。ルーシーは素敵じゃなくてもいい子じゃなくても自分を好きでいいんだとわたしに言ってくれているような気持ちになりました。
ルーシー「誰にも好きになってもらえないことって気になる、チャーリー・ブラウン?」
チャーリー「もちろん、気になるさ!きみだったら、誰にも好きになってもらえなくても気にならないの?」
ルーシー「ならないと思うわ…誰かがわたしを好きかきらいかなんてどうでもいいもの… だからこそ、わたし人気があるのよ!」
読み終わったあと、すっかりルーシーのファンになっていました。表紙のルーシーに、「あんたって単純な女の子ね。でも、それがあんたよね」と、言われたような気がしました。
こちらにも、一目ぼれ!

『ぼっち旅 〜人見知りマンガ家のときめき絶景スケッチ〜』(フレックスコミックス)著・鳶田ハジメ
今まで一度も経験がないけれど、いつかやってみたいことのひとつにひとり旅があります。けれども、ひとり旅だとすべて自分でやらねばならず、「交流とかも大変そう…」と、ひとり旅の醍醐味である現地の人との交流などが怖くてずっと尻込みしていました。
そんなときに出合えたのがこの一冊。副題が「人見知りマンガ家のときめき絶景スケッチ」である通り、人見知りの鳶田さんが色んなところにひとりで出かけて行くのですが、その自由さと適度ないい加減さと、人見知りでありながらも旅先で出会った人たちと程よい距離で関わっていく姿が読んでいて非常に心地よいです。
第1話が、ヤシガニを見に行くために沖縄の西表島に行くなど、鳶田さんの選ぶひとり旅の場所はわたしでは思いつかないところが多く、福井の東尋坊や北海道の網走など行ってみたい国内旅行先が増えました。そして何よりも絵がとっても上手! 鳶田さんの描く旅先の風景やおいしいものは写真とは異なる魅力を感じさせます。かかったお値段を書いてくれているところも参考にできるのでとてもありがたいです。
また、最終話は鳶田さんがなぜひとり旅をすきになったのか描かれた少しテイストの変わったエッセイ漫画となっており、こちらは夢を追いかけた経験や、日常生活がうまくいかなかったことがある人には心打たれる内容だと思います。わたしも芸人を挫折しかけたことがあるので、この最終話は感慨深かったです。何度も読み返したくなる旅行記だと思います。

『おでかけアンソロジー ふたり旅 一緒だと、もっと楽しい』(大和書房)著・阿川佐和子ほか
ひとり旅が気になったら、ふたり旅も気になります! 誰かと巡るふたり旅もいいよねってことでこちらの本も購入しました。人気作家36人の綴る「さまざまな形のふたり旅」の物語が収録されています。旅エッセイは元々好きなのですが、本当に作家さんによって全然その内容が違います! 母娘、夫婦、祖母と孫、従弟、友人同士などなど、色んなふたり旅があるのだなと読んでいてワクワクしました。
その中でも変わっていて面白かったのが、三浦しをんさんの書かれたタクシー運転手さんとのふたり旅! 確かにタクシー運転手さんとだってふたり旅です! 一族の歴史を語るタクシー運転手さんのお話しは読んでいてとても面白く、また、わたしが以前偶然旅先で出会ったタクシー運転手さんのことを思い出しました。場所は京都。その方は大変な愛妻家で、奥様とのラブラブエピソードを移動中にずっと教えてもらいました。奥様の為に作るごはんのことなど、あのとき聞いた話をいまだに忘れられません。この本を読んでいると、自分の経験したふたり旅と重ねて読むことができます。
ほかにも、女芸人の大先輩であるいとうあさこさんが書かれた大久保佳代子さんとの、キャンプに行くはずが都内で豪華一泊旅行をしたお話しもとても面白かったです! 椿山荘にいつか泊まってみたいという憧れが生まれました! また、太宰治の『春夫と旅行できなかつた話』は、タイトル通り旅行できなかった話なのですが、とても心に残る強烈な一本でした。








































