吸血鬼少女と、監視役のQ。奇妙な関係から生まれる大冒険。
「最初、高校生の少女を主人公に、という企画の依頼があったんです。でも僕は中高と男子校で、女の子が教室にいる時間を1秒も経験していない。高校生の少女が何を考えているかなんてわからないから、最初は書けないと言ったんです。でも考えるうちに、吸血鬼という設定にして、人間を理解しきれない別の種族の問題にしたら、そのままスライドできるな、と。それでプロットを考えたんですが、その企画自体が白紙に。そこへ新潮社の人が“うちで連載しませんか”と言ってくれました。つまり今回は珍しく、完全に人からお題をもらったんです。結果的に、いいものが書けました」
細かく設定された吸血鬼界のルールもかなりユニーク。
「吸血鬼に関する情報は、小学校の時に妹と一緒に読んだ『ときめきトゥナイト』で止まっているんです。それで改めて吸血鬼ものをいろいろ観たら、最近のものは“血の渇き”の描写が生々しい。誰かが出血して血がぽたっと落ちるシーンがスローになって、吸血鬼がそれを見てゴクリとする、とか。そこから血の渇きから解放されるルールを作るうち、監視役としてトゲトゲのQというキャラクターが浮かびました。第1章は、主人公とQがどう距離を縮めていくのかが勝負でした」
第一印象は最悪、でも少しずつ互いを理解していく弓子とQ。しかし誕生日前にとんでもない事態が…。そこから弓子は決死の行動を起こす。
大冒険のなか、脱力させるのは弓子の親友・ヨッちゃん。片想いの相手にいきなり「郵便番号おしえてください!」と尋ねるなど、どこかズレていて、そこが魅力。よくこんな言動を思いつけるなと思ったら…。
「あれ、実話です。同じ学校のM君がいつも同じ電車になる女の子に告白するというので、その日うちの学校の奴らがみんなその車両に集まったんです。そしたらM君が照れて“電話番号教えて”と言えずに“郵便番号教えて”と言いまして(笑)。今回、はっちゃけた部分は、ストーリー展開に一切責任を負わないヨッちゃんに任せました」
大いに笑わせつつも、最後はなんとも胸熱な展開に。可愛くて切なくて痛快な吸血鬼青春小説だ。
万城目 学『あの子とQ』 17歳の誕生日までの10日間、トゲトゲの物体Qに監視されることとなった吸血鬼の弓子。親友ヨッちゃんの恋を応援するなか、大事故が…。新潮社 1760円
まきめ・まなぶ 2006年に『鴨川ホルモー』でボイルドエッグズ新人賞を受賞してデビュー。著書に『鹿男あをによし』『プリンセス・トヨトミ』『ヒトコブラクダ層ぜっと』など。
※『anan』2022年10月12日号より。写真・土佐麻理子(万城目さん) 中島慶子(本) インタビュー、文・瀧井朝世
(by anan編集部)