真相がわかったあとも読者の胸中で物語が続く。涙を誘うミステリー。芦沢 央さんによる『夜の道標(どうひょう)』をご紹介します。
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神奈川県警の巡査部長・平良正太郎は、2年前に起きた殺人事件をいまも追っていた。知的障害や情緒障害を持つ子や不登校の子などの学習支援をする塾の経営者・戸川勝弘が殺され、目撃情報からすぐに、元塾生の阿久津弦が容疑者として浮上。ところが阿久津の足取りは途絶えたままだ。その彼と、惣菜屋で働く長尾豊子やバスケットボールに熱中する小学生の仲村桜介、桜介と同い年の練習仲間でバスケの才能にあふれた橋本波留らが関わり、予想し得ない方向へ事態が動いていく。

忘れがたい余韻を残すミステリー『夜の道標』の出発点は、匿う人と匿われる人の関係性を考えてみることだった、と芦沢央さん。

「匿う豊子と匿われる阿久津。けれど、もし匿われている側が、ずっと隠れていなきゃとか、別の誰かと関わってはダメだとか、考えていないとしたら。もうひとり誰かが加わって状況が変化したら。その力関係はどうなっていくのだろうと」

実は、波留の母親は出奔。父親は半ば息子をネグレクトしており、夏休みは食事に事欠く状態だ。しかも、波留は父親から当たり屋を強要されていて、犯罪の一端を担う少年は周囲の大人にも相談できない苦境に立っている。そんな波留と阿久津との接点が物語のギアを上げる。

「これまでも長編は書いたことがありますが、本作はいろいろ初めてずくめでした。たとえば、男が半地下の窓から少年に食べものを渡すシーンや少年と殺人犯が車でどこかへ向かっている様子など、書き始める前にたくさん映像が浮かんだこと。それらを絵コンテにして床に並べ、心理や背景などを探りながら展開を組み立てていったこと。自分が物語を作っているというより、既にある物語を掘り出していくような感覚も初めてでした」

作家としてさらに高みに到達したと称賛される完成度。

「ホワイダニット(なぜやったのか)をめぐる物語ですが、真相に辿り着くことよりも、その先にある光景を見つめることを目指した作品です」

動機がわかったときに起きる大きな反転。その後のクライマックスが呼び起こす余韻。やるせなさと切なさ、あえて赤裸々には書き込まなかったという“登場人物の声なき声”が読者に突きつけてくるものとは。それが本書の本当のテーマだ。

『夜の道標』 殺人事件の真相には、1996年という年が大きな意味を持つ。新聞連載を加筆修正して出版した、芦沢さんの作家生活10周年記念作品。中央公論新社 1815円

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あしざわ・よう 1984年、東京都生まれ。2012年、「罪の余白」で野性時代フロンティア文学賞を受賞し、デビュー。『火のないところに煙は』で静岡書店大賞受賞。『神の悪手』など著書多数。写真:藤岡雅樹

※『anan』2022年9月21日号より。写真・中島慶子 インタビュー、文・三浦天紗子

(by anan編集部)

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