人気クリエイターの才能が共鳴! 能楽×ロックの新感覚アニメ映画。
――本作以前、お互いのどんな作品をご覧になっていましたか?
湯浅政明:『重版出来!』(松田奈緒子原作)を見て、久々に面白いドラマだと思い調べたら、野木さんが脚本で。ご一緒したいと思っていたら、今回野木さんのお名前が出て、「それはもうやりたいです」と。
野木亜紀子:『四畳半神話大系』『マインド・ゲーム』が衝撃的に面白かったですね。物語やキャラの心情を超えて、湯浅さんの謎のアニメパワーで、すごいものを見させられたという感覚になれたんです。スケジュール的にはかなり厳しかったんですけど、キャラクター原案は松本大洋さんだと。夢のコンビが手掛ける作品に乗っておかないと、死ぬまで後悔しそうだったのでお受けしました。制作の序盤は、湯浅さんもお忙しくて、魂が半分抜けてましたよね(笑)。
湯浅:見抜かれていましたか(笑)。すみません! ぐわっとこの作品に入り込めるようになり、絵コンテを一度描いた段階で、それからは…。
野木:戦いが始まった(笑)。実写の場合、絵コンテはあくまでガイドで、現場で変えたりもできるんですけど、アニメは絵コンテを切った段階ですべて決まっちゃうんですよね。台詞を戻したいから尺をちょっと伸ばすということができないのを知らなくて、今までにない作業の連続でした。
湯浅:何万枚もの絵を大人数で分担作業しているアニメは横並びで一斉に作業しているので、何かをちょっと変えるにも大きなラインごと変更することになるんです。
野木:だからびっくりしちゃって。でも、私は諦めが悪いので(笑)、「この台詞はここにつながるから消しちゃダメだったんです」「もう入れられない」「ならこっちに入れよう」みたいな攻防が何度もありましたよね。
湯浅:最初から完全なものを作れたらいいんですが、なかなか…。
野木:音楽の大友(良英)さんと話して、湯浅さんがやろうとしていることはご本人以外、誰もわかっていなかったんじゃないか説が出ましたよ(笑)。湯浅さんから出ていた、作品のキーとなる“ポップスター”や“フェス”という言葉を、ずっとたとえだと思っていたけれど、湯浅さんにとってはたとえじゃなかった。それがわかった時は衝撃でした。
湯浅:音楽は大友さんに言われて、自分の中で音楽を想定して絵を先に作り、そこに歌をハメてもらうことになったんです。口の動きや展開に合わせて作曲するのは、精密さが求められて大変だったと思います。でも、大友さんのおかげで、すごく良い音楽シーンがたくさんできました。若い二人が情熱を燃やす舞台を劇場の大画面と大音量で楽しんでほしいです。
野木:600年前のいち観客になれる体験はまずないので、臨場感を味わえる劇場で! 各演目の演出は脚本になくて、観客だけでなく脚本家の想像も超えた「湯浅ワールドここにあり」の迫力なので、何度観ても違う楽しみを発見できるはずです。
――犬王と友魚は、既存の枠を壊し、自由な表現によって民衆を虜にしていきますよね。お二人は表現者として、どんなことを大切にしているのでしょう。
野木:湯浅さんは「枠を壊す」という意識すらなく壊している人ですよ。
湯浅:僕はみなさんに寄り添ってますよ(笑)。ただ、みんなが言う「できない」「無理だ」ということをあまり信用してないです。人がそう言っても自分ができると思っていることなら、うまくいかない状況になっても、実現できる方法を考え出すので、大概のことはできるんです。
野木:私は、自分が面白いと思えるかどうかを一番大切にしています。他人軸でいると、何が面白いのかわからなくなっちゃいますから。
湯浅:人から「面白くない」と言われて、気づくことはあるんですか?
野木:その前に、ダメなときは自分で気づいちゃいますね。
湯浅:人の言うことを聞きすぎて、上手くいかなかった経験はない?
野木:そういうのはほぼないかなぁ。35歳を過ぎて脚本家になったこともあって、デビュー当時から偉いプロデューサーのアイデアに「全然面白いと思えない」と言っては、生意気だと陰口叩かれてました(笑)。
湯浅:「面白くない」って言える現場がいいですよね。
野木:つまらないのに、誰も言えないままなあなあで進んでいく…みたいなのが一番気持ち悪い。私自身、言われなくなる怖さがあるんですが、湯浅さんはいかがですか?
湯浅:意見を尊重しすぎて、破綻しそうになったことがあってからは、やっぱり自分を信用するしかないと思っています。
野木:キャリアを積むとね。
湯浅:でも、どんな現場でもできるだけ人の言葉には耳を傾けて、必ず一回考慮しますね。
野木:誰も何も言えない現場なんて、おかしいですもんね。
『犬王』がただのアニメーションではないワケ
1、室町時代の能楽×ロックオペラ。いまだ見ぬ唯一無二の世界観!
現存する世界最古の総合舞台芸術といわれる、室町時代に生まれた能楽。特異な身体を活かした舞を踊る犬王と、ド派手に琵琶をかき鳴らす友魚は、時代の寵児となる。その自由な魂のパフォーマンスで民衆を熱狂させる様は、さながら現代のロックフェスのようで、本作がヴェネチア国際映画祭で“ロックオペラ”と評されたのも納得!
2、キャスティングの妙に溢れた個性爆発の豪華声優陣!
室町時代の“ポップスター”犬王を演じるのは、現代を生きるポップスター・女王蜂のアヴちゃん。劇中歌の作詞も手掛けた。犬王のバディで、琵琶法師の友魚役には森山未來さん。2人のパフォーマーが、犬王と友魚のように互いの才能をぶつけ合う! 他にも、柄本佑さん、津田健次郎さん、松重豊さんと、魅力的な俳優が作品を彩る。
3、稀代のクリエイターが集結し、イマジネーションを具現化!
原作は、古川日出男さんが手掛けた「平家物語」現代語訳のスピンオフ的作品『平家物語 犬王の巻』(河出文庫)。キャラクター原案は松本大洋さん。湯浅監督とは自作漫画のアニメ『ピンポン THE ANIMATION』でもタッグを組んだ。音楽は、朝の連続テレビ小説『あまちゃん』や映画『花束みたいな恋をした』で知られる大友良英さん。
『犬王』 平家の呪いによって盲目になった琵琶法師の少年・友魚と、顔を瓢箪の面で隠された異形の能楽師・犬王。都で出会った二人が、まったく新しい舞と音楽を生み出し、乱世を独自の表現で生き抜く。第78回ヴェネチア国際映画祭オリゾンティ・コンペティション部門に選出されるなど、すでに国際的にも高い評価を受けている。5月28日より全国公開。
ゆあさ・まさあき 1965年3月16日生まれ、福岡県出身。2004年、『マインド・ゲーム』で初監督。’10年、『四畳半神話大系』が話題に。’17年、『夜は短し歩けよ乙女』で日本アカデミー賞最優秀アニメーション作品賞受賞。
のぎ・あきこ 1974年生まれ、東京都出身。2009年、「さよならロビンソンクルーソー」でフジテレビヤングシナリオ大賞を受賞。『逃げるは恥だが役に立つ』『アンナチュラル』『MIU404』などヒットを連発。
※『anan』2022年6月1日号より。写真・岩澤高雄(The VOICE) 取材、文・小泉咲子
(by anan編集部)