越智月子さんの『片をつける』のヒロインは、もうすぐ40歳になるシングル女性の夏野阿紗。マンションの隣の部屋に住む〈人間不信の塊のような〉老女・五百井八重とひょんなきっかけで知り合い、〈ゴミ箱をひっくり返したような部屋〉の片づけを手伝うはめになる。最初は、とんだ災難と思っていた阿紗だが、作業が進むにつれ、八重を理解し、自身が目を背けていた問題とも向き合っていくことに…。

年の離れた女性同士の絆と再生。温かな余韻を残す、珠玉作。

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「小説を書くときに、わりと自分や周辺の出来事を入れたりするんですよね。本書でも、カギをなくした風変わりなおばあさんから頼られたり、散らかった隣の部屋へ8階のベランダの柵を越えて入ったりした阿紗のエピソードは、実体験に近いです」

初めは、八重をもっとわかりやすい“いい人”として描いていたそう。

「元シスターですしね。でも、ぶっきらぼうで悪い魔女みたいに変えたら、筆の進みが違った(笑)。人はだいたい社会的に矯正されてしまうものですが、いつまでも変わらず自分を貫く人にある種の敬意があるんです。いつもそういう人物を魅力的に書けたらいいなと思っています」

実は、阿紗自身も最初から片づけ上手だったわけではないし、八重も昔から孤独で偏屈な暮らしをしていたわけではない。少しずつ彼女たちの来歴が明かされ、読者が彼女たちを見る目も変わる。

「案外、ふたりは似たところがあるのかなと思います。ふたりの心の近づき方はレイモンド・カーヴァーの『大聖堂』という短編の〈私〉と盲人にすごく影響を受けていますね」

床の上、引き出しの奥、冷蔵庫の中。粛々と仕分けし、八重に捨てるように促す阿紗。その一方で、片づけの極意を切々と伝え、八重が〈死んでも捨てるな〉というヨレヨレのパンツを残すことは受け入れ、八重が売りかけたシノワズリーのボンボニエールは取っておくよう促す。

「終活でも断捨離でも、要不要だけで考えて、ムダだからと、物だの感情だののすべてを『一切合切捨てなきゃ』というのは違うんじゃないかと。美しくないものは取り除いた方がいいけれど、美しいものを見ているときの豊かさは値千金。大切なものを見極め、捨てられない思い出に気づくことが〈片をつける〉ことかなと思うんですよね」

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『片をつける』 作中作の童話も著者のオリジナル。登場する片づけや掃除についての知識や情報は実践的。ささやかなロマンスもあって、盛りだくさんだ。ポプラ社 1760円

おち・つきこ 作家。1965年、福岡県生まれ。学生時代からライターとして活躍し、2006年に『きょうの私は、どうかしている』でデビュー。インスタアカウントはochitsuki56

※『anan』2021年6月23日号より。写真・中島慶子(本) インタビュー、文・三浦天紗子

(by anan編集部)

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