本人のワードローブからチョイスされたのは、透けるブラウス、ジャンプスーツ、大判ストール、デニム、スリップドレス、バレエシューズなどなど。大切な場所に着ていく服やコーディネートをじっくり考えるように、44のアイテムを選んでいることが愛情のこもった文章から伝わってくる。さらにそこからは、独特のファッション哲学だけでなく、生きるうえで大切にしていることも見えてくる。やっぱり服は外側を飾るだけでなく、内面を映し出すものなのだと思わせてくれるのだ。
石田さんは気になるアイテムに出合うと、デザイナーがどんな人で、どんなことを大事にしているのかという点に興味を持つ。そして自分がなぜ惹かれるのか、その理由を読み解いていく。こうしてワードローブに収まったモノたちと石田さんの間には、相思相愛の幸せな関係が存在する。たとえば25歳のときに、パリで圧倒されながらオーダーした、エルメスのケリーバッグ。当時の自分には不釣り合いだと感じ、クローゼットで愛でるだけで時が過ぎていたが、ようやく本格デビューをさせようと思っていること。キャミソールのような肌に一番近い服こそ、納得したものを着ることで、健全な自信と自己肯定感が育つように思えること。あるいは、お気に入りの服が急に似合わなくなってきたことに気づき、自分の体に活を入れ、女性であることを楽しむために、ときには体のラインが出るドレスを着ること。
あとがきの言葉が印象的だ。「今日、身につけている服たちによって今日の自分は作られ、今日の気分は作られる。それが積もり積もって、私自身が作り上げられていく」。背伸びして着る服がときに自分を高めてくれたり、身につけるだけで癒されたり。着る人と服の理想的なあり方を教えてくれる。
『LILY’S CLOSET』 ワードローブとともに、それぞれのアイテムに対する思いを綴ったフォトエッセイ。お手本にしたいエッセンスが詰まってます! マガジンハウス 1800円
※『anan』2020年8月26日号より。写真・中島慶子 文・兵藤育子
(by anan編集部)