ルッキズムは、自分にも社会にもいいことはない。
――お二人が考える、ルッキズムの弊害とはなんでしょうか?
犬山:そもそも、生まれ持った見た目で差別される、ということ自体が、あってはいけないことだと思います。外見のせいで扱いが違ったり、就職試験で差別をされたりとか…。
長田:人間にとって目から入る情報ってすごく大きいし、それに左右されてしまうのもある意味当然だとは思う。私は花が好きなんだけど、花屋でどうやって選んでいるかっていうと、結局のところは見た目の好みなんだよね。花を見て“きれいだな”と感じることを否定する必要はないと思うのね。でも、人に置き換えた場合、人格や能力を見るべき場で差別的に扱ったり、見た目至上主義に陥ったり、ディスったりするのは、違うんじゃないかと。
犬山:うんうん。
長田:見た目なんていっときの印象にすぎないし、そこを入り口に、相手の内面を知ったり、関係を構築する中で、印象なんてどんどん変わるし、もっと好きになれたりするじゃない? 見た目にとどまってああだこうだ言ってる人って、もったいないし、人間としての成熟度が足りないと思う…。
犬山:あと、ルッキズムを自分に発動しちゃった場合の弊害としては、自分にダメ出しをし、外見を否定し続けていると、自らを大切に思えなくなってくるよね。
長田:うん。自分の意思を尊重できなくなって、身動きがとれなくなる。例えば“この洋服は私が着たらイタいに違いない”とか、“この見た目ではそれをする資格はない”、あるいは“私なんて愛されるはずがない”と思ったり…。見た目の気後れが一歩踏み出すときのためらいに繋がる。
犬山:自分が本当にやりたいと思うことや表現したいことが見えなくなるし、できなくなっちゃう。実際、コンプレックスにがんじがらめになっていたときの私は、そうだったから…。
長田:犬山さん、全然そんなふうに見えなかったから、めっちゃ意外!
犬山:そうかなぁ。
長田:今は自分の見た目が好き?
犬山:うん、好き。私の大切な顔だわって、慈しめるようになってきた(と、両手で顔をそっと包み込んで、にっこり)。
長田:最高だね! どんなきっかけで、見た目と仲良くなれたの?
犬山:いちばん大きいのは子どもが生まれたことかな。子どもが思春期になったときに、私みたいにコンプレックスを抱えたり、必要以上に悩んだりしてほしくないなって思って、ルッキズムに左右されていた自分を変えようと思ったの。まずは他者に対してルッキズムを発動するのをやめることから始めたかな。それによって、人のいいところが前より見つけ上手になって、好きな人たちのことがもっと好きになった。さらには道行く人がみんなきれいに見えるようになった(笑)。
長田:みんなそれぞれ、きれいだもんね。私、“全員美人原理主義者”だし。
犬山:そのあとかな、徐々に自分への外見主義が弱まって、自虐をしなくなった。そうしたらすごく心が楽になったよ。長田さんの本にも、その後押しをしてもらった感じがする。改めて聞くけれど、『美容は自尊心の筋トレ』を書いたのはどんなきっかけがあったの?
長田:子ども時代に、美容部員として働いていた母が家に持ち帰った美容のセラピー効果の本を読んで、メイクやスキンケアが癒しや励ましになる、ということは知っていて。それで美容ライターになってから、自信なさげだったり、イライラした感じの人が、スキンケアで自分に手をかけたり、気分が上がる色のリップを塗ったりするだけで、表情や目の輝きだけじゃなく、人生に対して前向きに変わる現場に、何度も立ち会って。美容には、自尊心を育てる素晴らしい力があるんだって、ずっと信じてきたの。
犬山:ホントそうだよね。
長田:でも美容には、いまの姿を否定して“もっと美しく正しくなりましょう、もっと若くなりましょう、もっとモテましょう”みたいな面もある。自分を大切に扱って、見た目とリラックスして付き合うための美容の話がもっとあっていいはずだ! と思って、あの本を書いたの。
――お二人は、本を書く以外にも、世の中にアクションを起こしていますね。例えば犬山さんはコメンテーターをされていたり…。
犬山:依頼をいただいた当初は“なぜ?”と思いましたが、女性たちに取材を重ねてきた私だからこそ言えることがあるのかも…、と思い、自信がない中で始めました。いろいろな専門家の方の話を聞く経験を通し、徐々に私の知識も増えていくと、問題意識が高まってきて、もっと勉強し、そこで得た知識を自分でもアウトプットしていこうと、気持ちが変わってきたんですよね。
長田:いまいちばん力を入れているのは、児童虐待防止?
犬山:そう。チームを作って活動してる。自分が手に入れた知識を、誰かのために役に立てられれば本望です。長田さんは、イベントやったりしてるよね。
長田:私、イベントでも、美容本でもやりたいことは一貫していて、ひたすら女の子の“自分を大切にする気持ち”を応援したい。リップのひと塗り、素敵さを自覚してもらうひとことで女の子が笑顔になる、それを見るのがうれしいし、謎の生きる力が湧いてくるの。もうね、それをライフワークにして生きていこうと思って(笑)。
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――最後に読者に、ルッキズムからの解脱、すなわち自尊心を上げるためのアドバイスをいただきたいのですが…。本来ならば、カウンセリングに行ったりすることがベストだと思いますが、まずすぐできる、簡単なものを教えてもらえるとうれしいです。
犬山:寝る前に、自分を褒めてみてください。すごいことじゃなくていいの、「今日はちゃんとお風呂に入れた、私、偉い!」とか、ハードルはめっちゃ低めでOK(笑)。究極は「私今日生きてた、偉い!」でいいと思う。それを毎日やると、自己肯定するクセがついて、自尊心が上がりますよ。
長田:ホメラニアンだね! 私は、自分の中の小さい子の声を聞くことかな。例えばリップ一本選ぶときも、人からどう思われるかより、自分の中の無邪気な部分が「わーい!」ってなることを優先する。小さいことだけど、それを積み重ねると全然ちがうんだよね。ただ、そうやってウキウキ出かけていっても、社会に溢れるルッキズムにボコボコにされる日もあるわけですよ。そんなときは、信頼できる人に「今日は何も言わずに私の話を聞いて?」って、話を聞いてもらうといいと思います。
犬山:あ~、私もまさにそうしてる。つらいことがあったら、長田さんとか、親友とのグループLINEに書き込んで、全力で甘やかしてもらう(笑)。
長田:自分をさらけ出せる仲間は、自尊心を上げる重要なファクターだよね。
犬山:ね!
いぬやま・かみこ イラストエッセイスト、コメンテーター 弊誌の連載「SanPakuちゃんのわがまま気まま愛のRoom」も大好評。著書も多数。『スッキリ』(日本テレビ系)、『大下容子ワイド!スクランブル』(テレビ朝日系)でレギュラーコメンテーターを務める。
おさだ・あんな 美容ライター メイクアップアーティストの吉川康雄さん、写真家の前康輔さんとコラボで制作した書籍『あなたは美しい。その証拠を今からぼくたちが見せよう。』(大和書房)が5月に発売予定。
※『anan』2020年4月8日号より。写真・小笠原真紀
(by anan編集部)