
意外と知らない社会的な問題について、ジャーナリストの堀潤さんが解説する「堀潤の社会のじかん」。今回のテーマは「能動的サイバー防御法案」です。
安全保障面から求められた法律。透明性も担保して

5月にいわゆる「能動的サイバー防御法案」が成立しました。これにより、政府がサイバー攻撃の兆候を察知した時には、攻撃元のサーバーにアクセスし無効化することが可能になります。
日本に対するサイバー攻撃は年々増えており、総務省の情報通信白書によると、国立研究開発法人情報通信研究機構の大規模サイバー攻撃観測網(NICTER)のダークネット観測では、2024年の総観測パケット数は2015年の10倍以上に増えており、約13秒に一回攻撃を受けているような状態です。内容を見ると、IoT機器が多く狙われていました。
近年、大病院や航空会社、金融機関など様々なところでサイバー攻撃の被害が出ており、2024年中に観測されたサイバー攻撃関連の通信の99%以上は海外からの発信でした。攻撃方法も巧妙化し、システム障害にとどまらず、身代金要求などもなされています。
世界では、サイバー攻撃によりその国のインフラを停止させたり、情報を混乱させるという、サイバー空間での戦争が起きています。昨年5月にはDMMビットコインから482億円相当の暗号資産が盗まれ、被害総額は約800億円に上りました。警察庁は北朝鮮のハッカー集団が関与していると指摘、盗まれたお金はミサイルの開発費に使われた可能性もあり、安全保障上の大きな問題でもあるんですね。
日本の安全保障は専守防衛が基本ですから、能動的サイバー防御法により、危険を察知した場合に相手国のサーバーに侵入可能となれば、攻撃を仕掛けることにならないかと懸念する声も上がりました。ただ、能動的に対処可能と世界にアピールすることが、抑止力になります。
アメリカ、カナダ、イギリス、オーストラリアは、すでに同様の措置が取れる体制を整えており、同盟国の日本も同レベルまでサイバーセキュリティに関する権限を引き上げないと連携がとれない、という背景もありました。
今後、政府は民間の基幹インフラ事業者とデータを共有し、情報分析することになるため、プライバシーの保護や通信の秘密を守るために、国民に対しての透明性が求められます。
Profile
堀 潤
ほり・じゅん ジャーナリスト。市民ニュースサイト「8bitNews」代表。「GARDEN」CEO。『堀潤 Live Junction』(TOKYO MX月~金曜18:00~19:00)が放送中。新刊『災害とデマ』(集英社)が発売中。
anan2459号(2025年8月20日発売)より