「海の上ではとにかく相手を信頼して、船を操ります」
――五輪種目になったばかりという、一般の方にあまり馴染みがないスポーツかもしれません。どんな競技か説明してもらえますか?
高野:49erFXは、ヨット競技のひとつです。動力は風だけで、船は2人乗り。一人は舵をとり、もう一人はバランスをとったり、その他の仕事をしながら、1レース約30分間の速度や技術を競うもの。毎日2~3本のレースを1週間続けて、その総合得点で勝敗が決まります。
――1週間…過酷ですね。二人がこの競技を始めたきっかけは?
高野:私は中学生のときに、ヨットをやっていた友人から誘われて、遊び半分で乗ったことです。一気にハマって、すぐに本格的に始めました。
山崎:私は、2つ年上のお兄ちゃんがヨットをやっていたので小さい頃から練習についていっていて。7歳ぐらいから、気付いたら自分も始めてました。最初は親から、「頑張ったらお菓子買ってあげる」とかおだてられながら(笑)。でも、勝つようになったら、どんどん楽しくなっていきました。
――二人がペアを組んだ経緯は?
高野:2016年のリオ五輪で私が組んでいた方が12歳年上だったこともあり、リオを最後にペアを解消することになりました。それで、一緒に東京五輪を目指せる、新しい相手を探していて。
山崎:私はもともと1人乗りの競技をやっていたんですが、49erFXは1人乗りの船よりもハイスピードで、あと、なんていうか…今時でかっこいいから、ずっと2人乗りに憧れていました(笑)。
高野:アクロバティックでね。二人とも同じコーチの元で練習していたこともあって、年齢も近いし、同じ五輪を目指していたので、自然とペアになりました。
――特殊な種目でありながら、自然と、しかも年齢の近い二人がペアを組めるとは運命的ですね。
高野:以前から練習で一緒に乗ることはあって、そのときからフィーリングが合うと感じていました。
山崎:家庭環境も似てるかも(笑)。
高野:お互い末っ子で、わがままで負けず嫌いでね(笑)。
――家庭環境まで! 実際に同じ船に乗ってみて、お互いのどんなところに魅力を感じますか?
高野:アンナが舵をとって操縦するんですが、どんなに波が高くて過酷な状況でも、絶対に舵に食らいついて離さないからすごい!
山崎:芹奈ちゃんは常に動き回って、帆のコントロールをしながらバランスをとる役。私が言ったことをすぐに理解してくれて、ずっと全力で動き続けるのは素晴らしいなっていつも思っています。
――性格面に関しては?
高野:アンナはどちらかというと感覚派で、あまり言葉にしないタイプですね。私は年上でよく喋るほうだし、言葉をオブラートに包まないので、アンナに注意する感じになっちゃう。でも、アンナのすごく明るくて前向きなところに、救われることもよくあります。
山崎:芹奈ちゃんの魅力…。
高野:顔とか?(笑)
山崎:それはないなぁ(笑)。新しいことに挑戦する精神が強くて…。
高野:柔軟性があるとか? 違うか(笑)。こんな感じで、私がどんどん喋っちゃうんですよね。
山崎:言いたいことをはっきり言うところも、自分に正直なところも、すごいと思う。もし自分の思い通りにならないとしても、現状を一度受け入れて、次の挑戦に向かっていく姿も尊敬します。
――海の上でたった2人きりで戦っていくために、どんなふうにお互いの相性を深めていますか?
高野:説明が難しいんですが…。ヨットを操る上で正解はなくて、正直、感覚としか言いようがない部分も大きいんです。でも、だからこそ、二人が思い描いていることが全然違うと、船の動きはバラバラになって、転覆してしまう。もし不満に思うことがあったら溜め込まずに、お互いに全部言い合って解決しています。海の上ではいつも、わーって言い合ってます。
山崎:レース中喧嘩になって、蹴ったりするペアもいるけどね(笑)。
高野:私たちは何でも話し合って、解決策が見つかったら「OK!」という感じ。サバサバしてますね。それで、嬉しいことがあったら、二人で思いっきり喜ぶ。
山崎:レース後に、イエーイってジャンプして、ちょっといいジェラート屋さんに行ってね。
高野:共同生活で、ごはんも練習も一緒。家族みたいな感じです。
2017年チーム結成。ヨット競技のなかでも“海のF1”と呼ばれる種目「49erFX」で、舵取り役の「スキッパー」を山崎アンナが、バランスをとるなどその他の仕事を担う「クルー」を高野芹奈が務める。2017年ジュニアワールド選手権で銀メダルに輝く。
たかの・せな 1998年生まれ、大阪府出身。ノエビア・関西大学所属。2016 年のリオ五輪「49erFX」に、日本代表として出場した(20位)。
やまざき・あんな 1999年生まれ、東京都出身。ノエビア・日本体育大学所属。2015年ジュニアオリンピックカップ「レーザー4.7級女子」優勝。
※『anan』2018年8月1日号より。写真・内山めぐみ 取材、文・若山あや
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