ラストは呆然…ストーカー事件を描いた『消えない月』

エンタメ
2017.11.11
世の女性にぜひ読んでおいてほしい…と思わずにいられない畑野智美さんの『消えない月』。ストーカー事件を加害者と被害者の視点から緊張感たっぷりに書き切った力作だ。畑野さんにお話を聞いた。
消えない月 (919×1024)

「『罪のあとさき』で犯罪事件を書き終えた後、もう一回違う事件で加害者の話を書きたいと思ったんです。直後にNHKのドキュメンタリーでストーカー加害者へのインタビューを見て、これは書けるかも、と」

マッサージ店に勤務するさくらは、客の松原と親しくなり、交際を開始。だが、彼の支配欲の強さに気づき、別れを切り出す。彼のしつこい連絡にも応じずにいるのだが…。

「番組を見て思ったのが、ストーカーの言うことも分からなくはない、ということ。もしも仕事だったら、トラブルの後のメールに応じないのは失礼ですよね。だから、松原が会って話し合いたいというのは分かります。でもストーカーになる人って、どこかで論理が捻じ曲がるんですよ。会って話し合ってからお別れしたい、なら分かる。会って話し合ったうえで、彼女を幸せにしたいと言い出す。自分たちはうまくいくと頑なに信じているんです」

それは、純粋な愛情といえるのか。

「ちょっと違うと感じます。好きというより、自分が振られるのが納得いかない。だからストーカーって、高学歴で外見も悪くない人が多いと聞きます。それに、何か自分が腹を立てていたり分かってほしいところが他にあるんじゃないかとも思う」

周囲に相談するさくらだが、「この小説の中で、彼女は間違ったことばかりします。一番まずいのは、素人だけで解決しようとすること。騒ぐのは大袈裟だと言う人もいて、さくらも躊躇してしまう。でも警察はもちろん、法律の専門家にも相談したほうがいいですよ」

ただ、絶対的な対策はない。書きながら畑野さんが感じたのは、「加害者側の周囲に理解者や味方がいたら違ったかもしれない。こういう人も突然犯罪者になるわけではなく、周囲の影響や家族関係などが積み重なった結果なんです。加害者の心理を誤解している人は多いので、こうして小説にすることで“ああ、こういう心理なのか”と考えてもらえるきっかけになれば」

ラストは呆然。今後も犯罪加害者について書いていくつもりだという。

はたの・ともみ 1979年生まれ。2010年「国道沿いのファミレス」で小説すばる新人賞を受賞してデビュー。著書に『海の見える街』『感情8号線』『罪のあとさき』『家と庭』など。

『消えない月』マッサージ師のさくらは、感じのよい客・松原から誕生日プレゼントを渡されたのを機に親しくなる。しかし、それが悪夢の始まりだった…。新潮社 1800円

※『anan』2017年11月15日号より。写真・森山祐子(畑野さん) 水野昭子(本) インタビュー、文・瀧井朝世

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