日常の中で、なんとなく心が弱っている、もやもやとした感情におおわれている…。そんな時、ジェーン・スーさんと桜林直子さんのポッドキャスト番組『となりの雑談』を聴くと、正体の見えなかった感情を表す言葉に出合えることがあります。普段から、正解を求めずとも、核心をついた痛快なおしゃべりを続ける二人に聞きたい、心のこと。自分の心はどう守る? ネガティブな感情のとらえ方は? 聞いてみたいことはたくさんあるけれど、まずは、いま多くの人や、社会に立ち込める“不安”を明らかにすることからスタートしました。
桜林直子さん(以下、桜林):漠然と「不安なんです」って話す人は多いね。
ジェーン・スーさん(以下、スー):今、“不安”が流行っている感じがするね。「不安です」って言うことで落ち着く、みたいな。そういう人たちは意外と頑なで、こうしてみたらいいんじゃない? こういう考え方もあるよね? って話しても、「でも」って言葉が返ってくるんだよ。不安でいるほうが安心するんだろうな。
桜林:うん、実際に不安があるんだろうけどね。「みんなにできても、私にはできない」って言う人も多いね。不安なのは仕方ないと思いたいのかなと感じる。
スー:具体的に何が不安なのか聞くと、老後の心配、パートナーと出会えるのか、出会えたとしてこの先うまくやっていけるのか…いろいろ出てくるけど、基本的に不安な状態から抜け出す工夫はあんまりしてないのよ。
自分が不安でいることに安心を感じていないか。
桜林:雑談で人の話を聞く仕事をしていて、ひとりずつから不安について聞く時は、何が一番怖くて、どうなることを恐れているのか、具体的な一点を探して言葉にすることを徹底しているよ。具体的に出していくと、不安に思っていることのほとんどが“もしもの話”で、いま現在起きていないことだと気がつくんだよね。ふんわりとしたイメージで語っていくと、不安って無限に膨らますことができるから、なるべく収束できるように、不安の起点を探す作業を一緒にやっている。そうすると、今の自分に何が足りていないのか分かる人もいるし、想像だと気がつくことで、怖くなくなる人もいる。周りの不安な空気を浴びて、自分も不安になってしまう人も多いのかなって。“不安が流行っている”っていうのは、そういうことでもあると思う。
スー:改めて自分の胸に手をあてて、「本当は不安な状態が居心地がいいんじゃない?」と問うてみる。違うとしたら、次は物理的に解消していく。例えば1日15分縄跳びをやるのでもいいと思うよ。体を動かして、考えすぎない時間をつくって。
桜林:私は外に出て、いつもより遠くのスーパーに行くとか、何も考えずに歩くよ。視界を広くすると、細かいことを考えられなくなるからね。ネガティブな感情の中にいることに居心地の良さを感じていたり、それが自分のアイデンティティになっていたりしなければ、いくらでも不安から離れる方法はあると思う。
スー:あとは、未来に対する不安で備えられることがあるか調べる。老後が心配なら、具体的にシミュレーションして動く。例えば行動のひとつが積み立てだとして、調べる前から、「でも投資は怖いし…」って言葉や、やらない理由が出てくるのだとしたら、面倒くさい気持ちのほうが勝っちゃってる。
桜林:そうだね、不安の中身を全部一緒くたにまとめずに、これは怖い、これは面倒くさい、これは準備不足って仕分けをしていくのは大事だよね。
スー:そうそう。あと心を守るという意味で気をつけたほうがいいのは、不安に対して「分かるよ」と共感して近づいてきて、高額なものを売りつけるような人。
桜林:自分にとって都合の良いものを信じてしまうからね。
スー:自分は特別だと思いたい自己愛の表れが、不安の形で出てくることもあるんだよね。そこを攻めてくる悪人はいる。
桜林:そういう部分を満たしてくる人はいくらでもいるよね。
スー:いるいる! 気をつけて。自分の中にある不安が歪(いびつ)だと、歪なものに惹きつけられてしまう。そういう意味で、不安の箱に入っている感情を、面倒くさい、自信がない、好きじゃない、やりたくないって感じで仕分けないと、ただただ不安に呑まれてしまう。自分の心の中を棚卸しすることは、心とお財布を守ることでもあると思う。
桜林:そうだね(笑)。
自信がないからこそやってみる。
桜林:自動的に不安な状態になってしまうっていう人が多いけど、そんなことないと思うんだよね。自分の欲望とか感情と違って、気分は自分でコントロールできることだし、それを知っているかどうかが大きな違いで。そういえば、この前スーさんが、お化けの話をしてたじゃない?(笑)
スー:堀井(美香)さんの話ね。堀井さんが、宿泊先でお化けが怖くて眠れないって言うから、「お化けを主人公にするな!」って言ったの。あんたの人生なんだから、あんたが主人公でしょって。こっちの世界に入ってきたお化けに対して、出ていけっていうだけの話。
桜林:そうだ(笑)。そんなふうに自然に考えられるのはすごいと思うよ。独特な例えかもしれないけど、こういう心の散らし方はあるし、自分自身でできることもあるんだと思う。
スー:怖い世界に自分が存在するのではなくて、自分の世界に異物が入ってきたから、蹴飛ばす。世の中で怖いといわれるものに関しては、全部そう。不安が先立つことが、警戒心になって失敗を防ぐことはあると思う。でも、それだと成功もできないんだよ。失敗しないとしても、成功もしないから自信は積み上がらない。失敗しても大丈夫だった、っていう経験を積んでいったほうが必ず自信がつくと思うから。
桜林:“自信がない”も、ふんわりした言葉だよね。そう話す人に、自信があるってどういう状態なのか聞くと、大体答えられなくて、自信がない=だからやれない、という理由になっている。
スー:“自信がない”と“面倒くさい”の相性が良すぎるんだよね。どうしてトライしないの? って聞くと、自信がないって言う。それは面倒くさいだけじゃない? って。
桜林:私もよく「自信はありますか?」って聞かれるけど、ないよ。「でもできているじゃないですか」って言われるから、「自信がなくてもできるよ、自信がないから失敗しても平気じゃん!」って答える。自信満々で失敗したほうが痛手だから。自信がないからこそやるんです。
スー:うん。これまで「あなたにできるわけがない」「失敗しちゃダメ」って言われてきた過去がある人はなかなか大変だけど、少なくともトライすれば、そうじゃないってことを自分で自分に証明はできる。
桜林:自分の自信の有無は、他人が決めるものではない。誰かに褒められたい、認めてほしいっていう気持ちが自信につながるのではなくて、自分でやった、できたという実感でしか自信は生まれないから。
見て、聞いて、信じて知恵と工夫を身につける。
桜林:私が20代の頃は、人に怒られるのが苦手すぎて、怒られたくないから、自分も怒らないようにしていたの。それで、本当は怒っているのに、自分の中で悲しみに変換する癖がついていってしまった。嫌なことを言われたら、その時に怒って終わるのが健全なのに、なんであんなこと言われたんだろうとか、自分を否定する悲しみに変換してしまうんだよ。そうすると、怒れずに解消できなかった感情がドロドロとした澱のように溜まって悪臭を放って、いつまでも自分の足を引っ張るの。苦手だからといって感情に向き合わずにいると、違うかたちで残ってしまう。感情を溜め込むのはよくないと気づいてから、時間をかけてフレッシュなまま出せるようになった。
スー:そっか。私は、怒ったり、感激したり、傷ついたりそういうひとつひとつの感情や出来事を大げさにとらえるのが苦手なの。感情をオフにしているのでは全くなくて、ひとつひとつの感情に価値を置きすぎずに、それぞれが自分の人生を構成している要素だと思って、尊重しているつもり。
桜林:スーさんは、人が膨らませがちな感情は膨らませないし、人が抑えるところを抑えない、どちらもあるよね。
スー:そうかもね(笑)。
桜林:だからフラットにいられるんだと思う。その場ですぐに、嫌だ! って言うし(笑)。
スー:めっちゃ言う。
桜林:分かりやすい。いいと言っているけど本当は嫌だと思ってない? と反応を見る必要もないし、周りにいて楽だなと思うよ。
スー:はっきり言ってくれる人のほうが一緒にいて楽だよね。
桜林:自分でもそうできるようになると、躊躇せずに断れたり、面白くなかったらみんなに合わせて笑わなくてもよくなったり。でも、そんなふうにそれぞれが抑えている感情を抑えなくなると、わがままだって言われない?
スー:言われてても知らない。
桜林:そうね(笑)。私が嫌なことは嫌だと言えると楽になるよって人に話すと、「そんなわがままなことできません!」って言う人もいるの。
スー:それは、生きていくのが大変だ…! 私さ、インスタグラムに海外の女性格闘家がアップしている護身術を見るのが超好きで、すごく元気が出るの。逃げ方とか闘い方を見ていると、実際にできるかどうかは別として、やり方があることを知るだけで安心するから。自分を弱き存在のままにしておきたくないのよ。
桜林:力が弱いとしても、一度しゃがむとこうできるのか! なるほど! ってね。
スー:そう。見ることは信じることだから。#selfdefenseで検索するとたくさん動画が出てくるよ。
桜林:うん。自分が何を信じるかだよね。そうやって見たり、話を聞いたことで、私もやってみようと思える心でいられたほうがいい。私はこうだからできないと決めつけずに、知恵と工夫があれば、大抵のことはどうにかできるって思うから。
PROFILE プロフィール
ジェーン・スーさん
1973年、東京都生まれ。コラムニスト、ラジオパーソナリティ。TBSラジオ『ジェーン・スー 生活は踊る』、ポッドキャスト番組『となりの雑談』『ジェーン・スーと堀井美香の「OVER THE SUN」』で活躍中。『おつかれ、今日の私。』(マガジンハウス)など著書多数。
桜林直子さん
1978年、東京都生まれ。雑談の人、エッセイスト。クッキー店『SACabout cookies』オーナー。ポッドキャスト番組『となりの雑談』のほか、マンツーマン雑談「サクちゃん聞いて」を主宰。著書に『世界は夢組と叶え組でできている』(ダイヤモンド社)など。
INFORMATION インフォメーション
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