そんな「ありがとう」を日常に取り入れるコツを、井上さんと医学博士の加藤俊徳さんに聞きました。
感謝の対象に思いを馳せ、深める
感謝と思いやりの心には、深い相関関係がある、と加藤さん。
「ありがたいと感じる時は、感情を司る右脳がよく働きます。右脳は人に共感する、同調する時に働く部分。感謝することで右脳が成長すれば、人の立場でものを考えられる、思いやりの心が育ちます。逆もまた然りで、人を思いやれば、感謝が生まれてくるのです」
思いやりと感謝の関係性は、言語に表れているという説も。
「“思う”という漢字は、思いが大きくなれば“恩”になる。英語のthinkとthank、ドイツ語のdenkenとdankeも、わずかな違いで“思う”と“ありがとう”に。思いが感謝につながることの表れだと思います」(井上さん)
以下では、具体的な方法をご紹介。
「いただきます」に心を込める
「私たち仏教僧は、食事の前に“五観の偈(ごかんのげ)”という言葉を唱えます。内容は、食材の命をはじめ農業や畜産、調理など、食事が整うまでのあらゆることに感謝し、自分がその食事に値するか顧みるものです。みなさんも“いただきます”をする時は、“命をいただきます”という本来の意味に立ち返り、穀物を育む大地や育てる農家の人などに思いを寄せて、感謝を込めましょう」(井上さん)
思い出のものをときどき眺める
「昔使っていた文房具や愛読していた本など、思い出の品を大事に保管してときどき見返してみるのも、感謝の心を育てるうえで有効です。そのものにまつわる出来事や友人を思い起こすことは、記憶力を高めると同時に自分を客観視する練習にもなります。自分の立場を客観視できれば、誰に何をしてもらったか敏感に気づくようになり、自然と感謝できるようになるのです」(加藤さん)
お墓参りや法事に参加する
「法事やお墓参りも、感謝を育む場になります。大切な人を亡くしたばかりでは、まだ悲しみに暮れていると思います。しかし10年20年経った故人への法要は、その人を懐かしみ、生前の恩に感謝を捧げる場になります。親戚などと思い出話をしながら、故人に思いを寄せましょう。久々に会う親戚にも、ありがとうと言いたくなることを思い浮かべるかもしれません」(井上さん)