休日の午後、渋谷の喧騒を抜けて松濤の方まで歩く。緑の溢れる鍋島松濤公園が見えてくる頃には辺りはすっかり穏やかになって、公園の真向かいに小さなレストランを見つける。『ソン・デコネ』。フランス語だと「んな、アホな」って意味らしい。笑える。と思いながら扉を開けば、20席ほどの店内。
カウンターに座ればその向こうはキッチンで、シェフの渋谷将之さんの軽やかな手つきに目を奪われるうち、ビーツとすももの鮮やかな一皿が目の前に。ジューシーで甘くて、誰しもを笑顔にする味わいがベースにありつつ、時にハーブの爽やかさ、カカオのほろ苦さに遭遇する。それは平面に広がる味わいを思いがけず垂直に引き立てる効果があって、一言でいえば、きゅんとなる。料理はレシピ通り、というよりその日の食材で何ができるか即興的なひらめきを楽しむことも多いらしい。「整った料理よりも手作り感あるものが好きだし、気難しいおいしさよりまず楽しい!って思ってもらいたいんです」と渋谷シェフ。でも、だからといって無茶苦茶をやるわけじゃない。神戸とパリで20年弱フレンチに没頭し続け、たしかに何かを経た時間があるからこそ、その先にある自由はとても心強い。カジュアルな気風と芯のある料理、それを楽しむ自由な心。作りたての真っ赤なソルベを食べ終わる頃には、幸福な気持ちでいっぱいになっていた。
前菜・メイン・デザートで構成されたランチコース¥2,500(前菜・メイン、またはメイン・デザートの場合¥2,000)。この日のメインはしっとりと火入れされた鶏胸肉・あさり・ズッキーニの一皿、デザートには赤い果実のソルベ。
Sans Deconner 東京都渋谷区松濤2‐13‐10 TEL:03・6479・4625 ランチ12:00~14:00LO、ディナー18:00~21:00LO 日曜休(月曜はディナーのみ)
ひらの・さきこ 1991年生まれ。フードライター。著書にエッセイ集『生まれた時からアルデンテ』(平凡社)。
※『anan』2018年8月15・22日号より。写真・清水奈緒 取材、文・平野紗季子
(by anan編集部)
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