Mrs. GREEN APPLEが所属するユニバーサルミュージックのディレクターとして、グループを初期から見つめてきた村上葉子さん。サウンド面やメンバーのキャラクターなど、多方面から3人の魅力を語っていただきました。


――Mrs. GREEN APPLEとの出会いを教えてください。

村上:知り合いから(大森)元貴くんが作った楽曲のデモCDをもらい、聴いたら本当に感動したので、すぐにその知り合いに電話をして「本人に会いたいです」と伝えました。まだ10代後半ではありましたが、歌詞と声の表現力が素晴らしかった。自分が書いている歌詞を表現する術として歌があって、歌詞に込められた想いが立体的に浮かび上がってきました。そしてすぐにライブを観に行きました。お客さんはまだ少なかったですが、やりたいことがたくさんあるということも伝わってきましたね。しばらくライブに通っていたんですが、元貴くんの歌だけでなくバンドの演奏もどんどんうまくなっていく中で、メンバー一人ひとりと話すようになりました。

――実際にメンバーと話してどんな印象を持ちましたか?

村上:元貴くんは頭が良くて繊細でシャイな人という印象でした。理想とするビジョンがはっきりあって、どうしたらそこに向かえるのかということを真剣に考えている。若井(滉斗)くんは大好きなギターに対してとても勤勉な好青年。涼ちゃん(藤澤涼架)は二人よりは少し年上ですが、ぽわんとしていて今に比べるとそこまで話しやすい感じではありませんでした。シャイではあるんですが、対バン相手やお客さんには自分から進んで話しかけるタイプではありましたね。

――メンバー間で方向性について話し合うことも多いのでしょうか。

村上:フェーズ1の頃から、リハーサルやライブが終わる度にみっちり話し合っていました。人にどう伝わるかということをとても大事にしていて、MCの一つひとつ、例えば「愛情と矛先」の演奏中にこういうことをやってみようとか、当時からとても細かいところを見ながら全体のパフォーマンスを構築していくようなところがありました。

――彼らが思い描くエンタメの形が、フェーズ2でひとつ結実したといえるのでしょうか。

村上:休止を経て、メイクをしたり華やかなビジュアルで戻ってきて、よりエンタメに向かっていこうとしているんだと思いました。フェーズ1の終盤は歌番組に積極的に出るようなモードでもなかったんですが、戻ってきた3人の顔がとても明るくて、「ここからまたやったるぜ」みたいな前向きな決意を感じましたね。

人として好きになってもらうことが大事。

――今の3人それぞれの活躍をどう見ていますか?

村上:バンドはボーカルにだけフォーカスがあたることが多いと思うんです。元貴くんは、それぞれが個として強いキャラクターを持っていて、集まった際に掛け算が起きるイメージをフェーズ1から持っていましたが、当時は一人で走るしかなかったところがありました。フェーズ2を始めるにあたって、3人の中でしっかりとキャラクターを改めて打ち出したんですよね。元貴くんはフェミニンさもありつつバンドのプロデューサーであるフロントマン。若井くんは硬派なイメージ。涼ちゃんは元貴くんよりさらにフェミニンで柔らかい。戦隊に例えるなら赤レンジャーと青レンジャーと黄レンジャー。ビジュアルでもそのイメージをしっかりと打ち出したことによって3人のキャラが受け入れられたところはあったと思いますね。

結成当初から持っていた冠番組を持ちたいという目標が『ミセススクールクエスト』(’23年4月~9月放送)で叶ったのは大きかったと思います。決まった時はとても喜んでいましたし、番組内で3人が全国の高校にロケをしに行って、涼ちゃんが感動して泣いてしまったり、若井くんがすっとぼけて笑いを取ったり、お互いがツッコミ合ったり。あの番組を通して3人の関係性や人間性がしっかりと打ち出されました。

長くやらせていただいているラジオ番組『ミセスLOCKS!』でも3人がツッコミ合うようなやりとりがどんどん前に出ていったことで、人間的に魅力的で面白い人たちなんだなということがお茶の間や媒体の方たちに伝わっていったんじゃないでしょうか。若井くんと涼ちゃんにバラエティのオファーが来るようになったり、元貴くんが制作で稼働できない時に二人が出ていくような体制ができていって、制作期間中でもバンドが動き続けている印象づけができた。今年の正月に放送された『さんま・玉緒のお年玉!あんたの夢をかなえたろか30周年SP』は特に3人の優しさが出た番組で、放送後、それまでミセスの音楽に触れていなかった上の世代の方が人柄の良さから楽曲に入ってきてくれたりして、リスナー数やSNSのフォロワー数が一気に増えました。人として好きになってもらうことが大事だということに3人は最初から気がついていて、フェーズ2でいろいろな番組に出る中でそれが実践できたということだと思います。

――大森さんはメンバーを選ぶ時から演奏力より人間性を重視していたそうですね。

村上:元貴くんはソロのシンガーソングライターとしてもやっていけたと思うんですが、バンドという形態を選んだということは、もちろんバンドというもの自体に惹かれたところはありながらも、メンバー同士信じ合ったり支え合うことが大事だと最初から思っていたと思います。自分がやりたい音楽を一緒に届けてくれる信頼できる戦友としてメンバーを選ぶっていう選択が正しかったということが今になってよりわかりましたね。

――フェーズ1から2になり、大森さんにはどんな変化があったと思いますか?

村上:元貴くんは最初から何事にも長けている人ではありましたが、フェーズ1はそれをまだすべて出せる環境ではありませんでした。今は彼のたくさんのやりたいことを叶えることができるチームができたので、「これがやりたい」「だったらこういうことができるよ」というふうにやれることが倍々ゲームで重なっていって、常に夢にまっしぐらに向かっていくことができるようになりました。2023年にベルーナドームで初のドーム公演をやったりする中で、エンタメに対する夢がもっと幅広くなっていって、その後すぐ『The White Lounge』という音楽劇も生まれました。元貴くんはとても歌がうまいので、例えばミュージカルの名作に客演するようなこともできるとは思うのですが、そうではなく自分たちのチームでそれをやり、しかも『The White Lounge in CINEMA』というライブ映画にまでして大成功させられたのは象徴的ですよね。いろいろな方たちが元貴くんのやりたいことに前向きに乗っかってくださったことの連鎖だと思います。

前向きなパワーで人を巻き込んで生み出したものがちゃんと伝わって評価された結果、6月に初開催された「CEREMONY」(ライブやフェスとは異なる、ファッションや音楽、カルチャーが融合した、新たなエンターテインメントメディア)が成功したのだと思っています。多ジャンルのアーティストの方々が一堂に会して皆さんとても楽しそうで、それぞれが音楽をやっていることに夢を見られるような素敵な空間に見えたんですね。「楽しいからこっちにおいでよ」って言ったら来てくれる人たちが増えていって、自然とみんなが楽しいと思えている場が作られたような“現象”だと思いました。出演ミュージシャン同士もお客さん同士も「音楽って楽しいね」と思えるような新たな交流の形が提案できて、これがミセス流の新しい文化の作り方なのではないかと。「こういうテーマでこういうことがやりたい」という明確なビジョンを多くの人に受け入れてもらえるよう、チームと共に作っていくことが可能になってきたことがフェーズ2の大きな変化だと思います。

――若井さんの活躍についてはいかがですか?

村上:音楽バラエティ番組『M:ZINE』の進行役をやらせていただいていますが、ミュージシャンの気持ちはもちろんわかりますし、休止中にダンスを習ったことでダンスもできるようになりました。一番心配だったのはMC力だったのですが、韓国語を学んだことによってコミュニケーション力がすごく上がったんです。人と話すことに対してより前向きになったんですよね。韓国で『The White Lounge in CINEMA』の舞台挨拶をやった時は若井くんが韓国語で会話をしてくれたので現地の方たちからの見え方も良かったと思います。『M:ZINE』に出演したいと言ってくださるアーティストの方が増えていると聞いていますし、若井くんの存在はグローバルなカルチャーとの繋がりにおいてとても大事な役割を果たしていて、そこもフェーズ2の良さだと思います。

ギタリストとしての成長の話をすると、「ライラック」のイントロは音源ではエディットしたような音が入っていますが、あれは元貴くんがギターで弾けるフレーズではないものをあえて考えて入れたんです。でも若井くんは本当に頑張って練習して弾けるようになりました。元貴くんが「絶対にやったほうがいい」と言って公式YouTubeに若井くんの「ライラック」の弾いてみた動画を上げたんですが、その頃から憧れのギタリストとして見られるようになっていきました。元貴くんの叱咤激励のもと、ギタリストとしてどんどん成長しているのは見えないところで努力をし続けてきたからだと思います。

――藤澤さんはいかがでしょう?

村上:若井くんとはまた別のコミュニケーション力が増していますよね。ちょっとドジなことをしていじられたり、最年長ではありますがみんなに可愛がられるキャラクターとして浸透しています。いじられてなんぼという覚悟を感じます。フェーズ2では元貴くんの発案でミセスの既発曲を新しい編成とアレンジで演奏する「Studio Session Live」シリーズをやっていますが、譜面を見たらすぐに演奏ができるような高い技術を持ったミュージシャンと演奏するという鍛錬の場です。そこで涼ちゃんはミュージシャンの方たちと密にコミュニケーションをとるんですよね。参加ミュージシャンの方たちは演奏がうまいんですが、この楽曲が何を表現したいのか、この楽曲がどう成立しているのかっていうことをちゃんと理解できているのは涼ちゃんと若井くんです。元貴くんと10年以上コミュニケーションをとりながらライブやレコーディングで楽曲を成長させてきた中で、その曲が忘れてはいけないことを一番わかっています。涼ちゃんはその曲の本質を他のミュージシャンに伝えることにとても長けているんです。演奏もすごくうまくなっていて、その曲で表現したいと思っていることをまず自分が率先して表せるようになっているので、「Studio Session Live」や『The White Lounge』や「Harmony」といったライブでバンドが大所帯になっても、元貴くんが作っている楽曲の根っこの部分を大事に演奏して人に伝えるということがよりできてきているのはすごい成長だと思います。

日本の音楽シーンの希望や夢になってきている。

――ミセスの楽曲が老若男女に広く深く刺さっている理由をどう捉えていますか?

村上:「青と夏」くらいまでは“10代に刺さる青春ソング”と言われていました。元貴くん自身も学生だった頃は、自分の気持ちややりたいことをわかってくれない大人や社会に対する気持ちを曲が代弁しているところもありましたが、元貴くんの年齢が上がっていくとともに自然と大人に伝わる曲を書くことを意識したとは思います。だからといって元貴くんはリアリティのないことは書かないので、ずっと大人も思うであろうことを書いてはいたんですが、にもかかわらず10代に対しての曲だと思われ続けているところにジレンマはあったと思います。でもフェーズ2でダンスやお芝居を交えて曲を表現したり、バラエティ番組に出ていく中でミセス自体の見られ方が変わってきました。楽曲の本質は大きく変わっていないと思いますが、より正しく受け取られるようになったんじゃないでしょうか。

――大森さんの作家としての才能に特に衝撃を受けた曲というと?

村上:「パブリック」です。元貴くんは歌詞と曲とアレンジが全部同時に生まれてくる人なので、基本的に出来上がった状態でデモをもらうんですが、「パブリック」の2番のBメロから後半に展開していく流れの中で、言葉の向く方向に音が展開していくということを特に感じました。この展開やアレンジでなければならない必然性を強く感じて驚いたんですよね。元貴くんの作る曲は型にはまらないので1番をコピーすることがなくて、毎回2番のAメロやBメロが秀逸で驚かされます。どのパートもサイズ感にも必然性があり、短くなった場合も長くなった場合も明確な理由があるんですよね。メロディだけ先行で作っていると歌詞が書けなくて悩んでしまう人もいますが、この歌詞でこの音でこのアレンジでっていうふうにすべてに必然性があるので、歌詞が書けないことがないところもすごいです。

――今の日本の音楽シーンでミセスはどんな存在だと思いますか?

村上:最初は内々のものだったのが、たくさんの人を巻き込んで倍々ゲームになっていく中で、ミセスという存在が日本の音楽シーンのひとつの希望や夢になってきているんじゃないかと思っています。もちろん苦しいことも立ち止まって考えなければいけない時もあると思うんですが、総じて前に向かうパワーが強い人たちです。元貴くんの曲は、暗いこともたくさんあるけれど、それも踏まえて前に進めるんじゃないかということをずっと歌っていると思っていて。暗部があるから明るいところを目指していきたくなりますよね。明るい日本の音楽の未来を懸命に模索しながら提案しているんじゃないかと思います。また、楽曲は日本語歌詞ではありますが、海外の人も面白がってくれるんじゃないかとも思うんです。もっと広い世界にミセスが広がっていくんじゃないかと。信じたことを軸に進んでいくことが彼らにとっては一番大事なことなので、スタッフとしてはそれを実現させられるように一生懸命やりたいと思っています。

村上葉子さん

Profile

メジャーデビュータイミングからMrs. GREEN APPLEのディレクターを担当。音楽大学からビクター、音楽制作会社を経てユニバーサルミュージックに入社、現在に至る。

Mrs. GREEN APPLE

Profile

ミセス・グリーン・アップル 2013年結成。’15年メジャーデビュー。’20年、メジャーデビュー5年のタイミングでフェーズ1を完結し、活動休止。’22年、フェーズ2を開幕させ、活動再開。’24年、年間Billboard JAPANのトップ・アーティスト・チャート“Artist 100”1位を獲得、オリコン年間ランキングアーティスト別セールス部門デジタルランキング1位を獲得。今年、デビュー10周年を迎えた。

アニバーサリーベストアルバム『10』

Information

アニバーサリーベストアルバム『10』が発売中。7月26日・27日に神奈川・山下ふ頭で計10万人動員のライブを開催。10月から初の5大ドームツアーを開催し、ラストは東京ドーム4公演。秋から全国で展覧会を開催、ドキュメンタリー映画の公開も予定している。

 

取材、文・小松香里

anan 2455号(2025年7月16日発売)より
Check!

No.2455掲載

夏の推し旅 2025

2025年07月16日発売

海、美食、動物、かき氷、アートなど「大好き」なもの=“推し”を追い求める癒しの旅を案内する特集。夏といえばの沖縄は、那覇&本島西海岸のエリア別解説のほか、久米島、西表島という2つの離島もフィーチャー。他に「大人の夏休み」として、埼玉・長瀞の涼を求めて日帰り旅、栃木・那須で自然に触れる“大人の林間学校”、岡山で今が旬のフルーツとアートを楽しむ旅、北海道・トマムで雄大な自然を満喫する旅など、この夏おすすめの旅先をご紹介します。 ※ anan2455号POPver.(通常版)と、MODEver.(特装版)は表紙・掲載グラビア(Mrs. GREEN APPLE)・バックカバー・価格が異なり、その他の内容は同一です。

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