街角に潜む強硬な暴力の影。ゴジラ的なるものの気配。

水中を漂う人体に水紋が映る。ゴヤの幻想的な版画集の題名を引用したシリーズより。
ロス・カプリチョス インビジブルより From the series Los Caprichos ‒ Invisible ⒸKikuji Kawada, Courtesy PGI
1954年の第1作『ゴジラ』公開70周年を記念し、展覧会が開催中だ。ゴジラシリーズは邦画劇場版だけでも30作に及び、作品ごとに少しずつ姿を変えるゴジラは人々の集合意識の象徴ともいえる。本展では第一線で活躍するアーティストたちがゴジラ像に挑み、現代における「ゴジラとは何か」を表現する。
「僕は毎日撮影をしていて、東京の街のどこからでもゴジラは出てくるという感じを受けますね」
参加者の一人、写真家の川田喜久治さんはさらりと言う。ゴジラは水爆実験によって海溝深く生き残っていた古生物が変異したとされる。第1作の公開当時、人々が抱いたのは核の脅威に対する恐れ。同時にそれを生み出した人間への恐れだった。
「70年前と比べて現在のゴジラがより凶暴になっているとすれば、心理の反映によるものだと思います。悪魔的な力のようなものはますます強大になって我々に迫っている。自然も迫っているし、科学も迫っている。地震や津波、それに事故のない日はないし、強烈で巨大な暴力はどこの街角にもあります」
今回、過去の作品から新作まで40数枚の写真を出展する。その中の一枚「二つの月」は、満月を撮影した2つのシーンをコンピューター上で再構築している。画像を重ねることで幻想的な光景、脅威や恐怖の気配を帯びた黒いトーンが生まれた。
「この“黒”がゴジラのような怪物を生み出した我々の心の中にある、暴力的で強硬な力、デーモン的なものを写し出しているんですね」
街を歩いていて、「発作的に」シャッターを押すのは、そうしたデーモン的なものに遭遇したとき。撮影した画像はコンピューターに取り込んで融合し、色彩を加え、あるいは引く。それを積み重ねるうち、突発的に新しいシークエンス、色彩が現れる。プリントアウトした作品は自身にすら不可解なものを含むという。
「フィルムの頃は暗室でしたが、今はコンピューターの前が“明るい暗室”。イメージしたことが技術的にすぐできますから最高です」
大学卒業後、週刊誌のカメラマンとしてフィルムの時代からキャリアをスタートした川田さんだが、92歳の現在もなお柔軟な心を失わない。インスタグラムに作品をアップし、新しいファンを増やしつつある。
「僕はそうやって楽しんでるだけで。ここまでやったら終わりということがわかれば簡単だけれど、わからないから。毎日撮ってますよ。始まらないんですよね、写したものがないと。シャッターを押さないと」
PROFILE プロフィール

川田喜久治さん
かわだ・きくじ 1933年、茨城県生まれ。写真家。1965年に作品集『地図』を刊行。以後、時代を予兆する作品を発表し続け国際的な評価も高い。近作はインスタグラムの写真をまとめた『Vortex』(2022)。
INFORMATION インフォメーション

ゴジラ生誕70周年記念 ゴジラ・THE・アート展
森アーツセンターギャラリー 東京都港区六本木6‐10‐1 六本木ヒルズ森タワー52F 開催中~6月29日(日)10時~19時(4/30~5/6、金・土曜は~20時。入館は閉館の30分前まで) 会期中無休 一般2200円(土・日・祝日は2500円)ほか※日時指定事前予約可 TEL:050・5541・8600(ハローダイヤル) TM & ⒸTOHO CO., LTD.
anan2445号(2025年4月30日発売)より