
伊藤万理華さん
タイトルの“リプリー”は、リドリー・スコットが監督した1979年公開の映画『エイリアン』の主人公の名前で、宇宙船航海士。とはいえ、本作にリプリーは登場しないし、映画とはまるで別の物語。ただ、主演を務める伊藤万理華さんの役・ユーリは、リプリー同様宇宙船の航海士。その船というのが、エイリアンより厄介な(に違いない)乗組員揃い。次々と起こるトラブルの対応に追われる役柄だ。
宇宙空間で、くだらないことで揉め合っています
「私、不憫な役が多いのですが、なぜなんですかね」
これは作品について尋ねたときの伊藤さんの第一声。思わず笑ってしまったが、なんだか周りに振り回されてテンパる姿が似合いそうだ。
「そう言っていただけるならよかったです。今回の公演が舞台初主演なんです。今までご一緒してきた主演の方は、みんなをまとめて引っ張っていく印象があり、私もそのつもりでいました。でも蓋を開けてみたら、みなさんのエネルギーに引っ張られるばかりで…」
男性ブランコ、かもめんたるといった芸人さんをはじめ、共演はひとクセもふたクセもある面々ばかり。
「稽古初日から、みなさんに圧倒されています。ずっと面白いので、笑いをこらえるのに必死で。そこには対抗しようとしてもできないので、様子を窺いながら自分の役を探っているところです」
脚本・演出はヨーロッパ企画の上田誠さん。緻密に構築した架空の世界で繰り広げられるゆるーいコメディが真骨頂。伊藤さんは一昨年のドラマ『時をかけるな、恋人たち』ですでに上田脚本は経験済み。それもまたSFものだった。
「宇宙空間なのに、くだらないことで揉め合ったりするんですが、それがすごく上田さんらしいなと思っています。たとえば友達同士で会話しているときに、『そこを拾う?』というところを面白がって笑うことありますよね。そういった人間のツボがたくさん盛り込まれています。上田さんがSFをお好きすぎて、入れたいことも全部詰め込まれているんです。セリフにも歌にも宇宙用語がたくさんあり、ひとつひとつ意味を説明していただいていますが、言い慣れていないので必死です」
ユーリは、キャパオーバーになると現実逃避で歌い出してしまうキャラクター。乃木坂46時代、“不安定な歌声”と言われながらも、妙にクセになる伊藤さんの歌に魅了された人は多い。
「上田さんが、10何年も前に制作した私の個人PVをご覧になって、歌が好きだとおっしゃっていて…。まさか今になって、舞台で歌うことに繋がるとはまったく想像していなくて、当時からの伏線回収なのかなと思っています(笑)」
昨年のドラマ『燕は戻ってこない』では、貧困から介護と風俗を掛け持つ女性を好演。そのリアリティのある演技が高く評価された。
「自分の等身大に近い役柄をいただけるのは、ありがたいことだなと感じています。最近、今までなら苦手で敬遠していたジャンルにも、一回踏み出してみようかなと思うようになりました。いろんな人と話すとか、いろんなものを見るとか。自分が体験することで少しでも引き出しになればと思っています」
profile
伊藤万理華さん
いとう・まりか 1996年2月20日生まれ、大阪府出身。2011~’17年に乃木坂46のメンバーとして活動。卒業後は俳優として活躍。近作に、映画『チャチャ』、ドラマ『欲望(蜘蛛の糸のように)』、舞台『宝飾時計』などがある。
informartion

『リプリー、あいにくの宇宙ね』
ニッポン放送×上田誠(ヨーロッパ企画)第5弾、オリジナル脚本で挑む“SFアクション音楽コメディ”。宇宙船の中はいつだってパニックに次ぐパニック。なぜかトラブルに翻弄されがちな主人公の航海士・ユーリ(伊藤万理華)と、共に乗船する仲間たちや客人(?)との物語。5月4日~25日 東京・本多劇場 作・演出/上田誠 出演/伊藤万理華、井之脇海、シシド・カフカほか 平日8800円 土・日・祝日9800円 U25チケット4800円ほか 『リプリー、あいにくの宇宙ね』公演事務局 contact2@pragmax.co.jp 高知、大阪公演もあり。
写真・草野庸子 スタイリスト・Peter Gunn Sho ヘア&メイク・大宝みゆき インタビュー、文・望月リサ
anan2445号(2025年4月30日発売)より