草彅剛が体現する日本映画へのオマージュとリスペクト。
Netflix映画『新幹線大爆破』で、主人公の高市を演じている草彅剛さん。今作は、’75年公開、高倉健さん主演の同名映画をリブートしたもので、爆弾が仕掛けられたはやぶさ60号を舞台にしたノンストップサスペンスだ。草彅さんの主演は、樋口真嗣監督自ら熱望したという。
「樋口監督と作品でご一緒したのは18年ぶり。お会いするたびに監督が『今度出てよ』と言ってくれる割には、新作にはいつも声がかからなくて、あれ? って(笑)。ようやくタイミングが来たのかな。でもそれだけ時間が空いていても、それを感じさせないような関係性が僕と監督の中にはあって。普段から監督は、僕の舞台には必ず足を運んでくださっていたし、連絡を取り合ったり、ごはんに行くなどの交流を持っていたんです。女子会ならぬ男子会みたいなもんですよ。オファーをいただいて、いつにも増して嬉しかったですね。監督から声がかかったら絶対に出る、って決めてましたから」
はやぶさ60号の車掌・高市。車内がパニックになる中、乗客たちの安全を第一に考え、自分の身をなげうち、実直に自分の使命と向き合い遂行していく高市の姿に心が打たれる。
「高市を演じるにあたり、運転士役を務めたのんちゃんと二人で、新幹線にまつわる知識や乗務員としての心構えなどを実際のJR社員の方から学びました。車両の把握からシステム操作、前日からの時間の使い方、身だしなみなど、覚えることが多くて。その中でも特に、お客様を目的地までお守りし、いかに幸せな気分でご案内するか、そのマインドがすごく大事だと思ったんです。僕は普段から古着と愛犬のことしか考えてないんですが(笑)、高市を演じる際は、新幹線に乗り合わせたお客様のことを、愛情を持ってどれだけ考えられるかに徹しました」
仕事でよく新幹線を利用するという草彅さん。今作への出演を経て、以前とは違う感覚で新幹線に乗るようになったそう。
「乗務員が何人いるとか、このタイミングで車両を歩き、次はあの作業をする、なんてことがわかるようになりました。裏側を知ったからこそ、新幹線の技術や運行の仕方、アナウンスのタイミングなど全ては理に適っていると、改めて感心しています。日本の技術は世界からも一目置かれていますし、指差喚呼は日本が始めたと聞きました。それにより事故率も減少するそうで。そういう日本人のおもてなしの心は、世界的に注目を集めている文化ですよね。だから誇りを持って、この作品を世界に届けたいです。ちなみに僕が20~30代で後悔しているのは、もっと一人旅をしておけばよかったということ。当時は忙しかったからなんですが、みなさんにはエネルギーに溢れる若い時に、新幹線でどんどん旅をしてほしいと思います」
のんさん、細田佳央太さん、豊嶋花さんら、若手俳優も多く登場する今作。先輩として、また主演としての役回りを尋ねると「むしろ彼らから刺激をもらって、僕も演じられる部分があるんですよ」との答えが。
「現場に立つと、先輩方からはもちろん、自分よりも年下の方から学ぶことも多いんです。僕なんてもう何十年もやってるけど、なんでみんなこんなに志が高いの? と驚いてばかりだし(笑)、その焦りをエネルギーにして演じているところもあるぐらい」
’20年公開の映画『ミッドナイトスワン』では、日本アカデミー賞最優秀主演男優賞を受賞。その才能が引く手あまたであることは、多くの人が知るところでもある。
「俳優って、自分で仕事を決められるわけじゃないし、誰かが僕と仕事したいと思ってくれないと作品には出られないわけで。だから監督には感謝しかないです。そして、呼ばれて行くからには一生懸命やってお返しをしないと。プレッシャーや焦り、失敗もあるけど、でもそれに立ち向かって頑張ることは楽しくもあるんです。朝早くて、うまくいかない時は、もう嫌だなと思っても、それ以上にカメラやお客さんの前で演技をすることが好きなんでしょうね。そしてそうやって自分のためにやっていることが、結果的にみんなのためにお芝居をしていることにもなっている。共演者、監督やスタッフも、全部繋がって一つの作品を作っていると実感するし、それを観てくれるお客様がいるから」
常に笑顔で、周りを和ませるご機嫌な態度の裏には、ある劇作家の教えが息づいているという。
「作品によってはバッドエンドもあるけど、劇場に来てくれたお客様を最後はハッピーな気持ちで帰してあげる、そういう心構えを教えてくれたのが、つかこうへいさん。僕の心にはいつもその教えがあります。もちろん僕だって人間だから、気分が乗らないとかイライラする時もあるけど、フルーツを食べればすぐに機嫌が直っちゃう。スイカと、特にキンカンが大好きなんですが、キンカンは小さくて持ち歩きやすくて皮ごと食べられるし、苦味もあって最高。しかも、パッケージにある生産農家さんのコメントを読んだり、生産者の方の顔写真を見ながら食べると、また美味しさが増すんです。新幹線の裏側もそうですが、何事も、背景を知るとより想いは募るのかもしれませんね」
PROFILE プロフィール

草彅剛さん
くさなぎ・つよし 1974年7月9日生まれ、埼玉県出身。俳優、歌手、タレントと幅広く活躍。近年の代表作は主演映画『ミッドナイトスワン』『碁盤斬り』、『罠の戦争』など主演ドラマ戦争シリーズ、連続テレビ小説『ブギウギ』ほか。
INFORMATION インフォメーション

『新幹線大爆破』
仕掛けられた爆弾は時速100km以下で即爆発。そんな予告を受け、はやぶさ60号の乗客たちはパニックと恐怖に陥る。車掌の高市(草彅剛)や藤井(細田佳央太)は、乗客を守り、爆破を回避すべく奔走するが…。Netflixにて独占配信中。
写真・神戸健太郎 スタイリスト・栗田泰臣 ヘア&メイク・荒川英亮 取材、文・若山あや
anan2445号(2025年4月30日発売)より