Who's Hot?

〈WHO’S HOT〉内野聖陽「どんな硬派な役でも、裏にある弱さや情けなさを探したくなる」

エンタメ
2025.04.28

撮影のために筋トレをし、休みの日には庭で育てた自作の野菜で料理を作る。内野聖陽さんの、人を引き付けるチャーミングな演技の裏には、そんな素顔がありました。

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坂本龍馬、葛飾北斎など強烈な個性の持ち主から、ストイックな検視官、家族思いのお父さんなど、幅広い役柄を演じている内野聖陽さん。4月24日から放送が始まるドラマ『PJ ~航空救難団~』では、航空自衛隊の救難団で若い隊員を育てる、教育隊の主任教官・宇佐美誠司を演じている。この宇佐美さん、令和には珍しいなかなかクセのある男です。

――第1話の脚本を拝読したのですが、キャラクターが濃くてびっくりしました。コロッケにソースを大量にかけて「俺はコロッケじゃなくて、ソースが食いたいんだ」って、どういうことなのか…。

変わった男ですよね(笑)。たぶん近くにいる人にとっては「なんなの?! このおっさん!!」というキャラです。こういう役は誇張されがちなんですけれど、そこをなんとかナチュラルにお届けできるよう、日々奮闘中です。おもしろいキャラになるという期待はあれども、「うっとうしい!」と言われる危険も…(笑)。でも、連続ドラマの第1話って、役作りという意味ではなかなか難しいんですよ。初回なので勢いはあるんだけど、まだ役が定まってないというか。今はまだ、監督と一緒にギリギリまで悩んで…という感じです。ただ、僕はその、1話目の暗中模索感というか、ブレながらチューニングしている感じも嫌いじゃない。で、2話、3話と進んでいくうちに徐々にキャラが安定してきて、「宇佐美ってこういう顔してたんだね」っていうのが見えてくる。それが楽しいです。

――宇佐美は、救難員を目指す若い訓練生たちを厳しく指導する立場ですが、自分と救う対象の命が関わる現場なだけに、指導内容がとてもハードですよね。

今回は自分の限界を超えて頑張る若者たちの姿っていうのがキーワードになっているので、彼らの心拍数が上がり、アドレナリンが出たところでカメラを回すようにしているんです。監督が、訓練生役の若手俳優たちに、懸垂とか腕立てとか宿題を与えるんですが、せめて課題の半分はできるようになってこないと撮影ができないから、とにかく頑張れと。で、彼らを指導する役なので、僕もできなきゃ駄目だなと思い、なんとか頑張ってます(笑)。でもここまでハードに鍛えることってこの年になるとあまりないので、なんか前向きになりますよね。あと朝早いロケが多いので、健康になっている気も。なので、めちゃくちゃ覇気のある現場です、今回は。

――内野さんご自身にも、例えば役者になったばかりの時期など、訓練生たちにとっての宇佐美のような、厳しい指導をする師のような方はいらっしゃいましたか?

デビュー当時にお世話になった監督さんとかですかね。当時はコンプライアンスなんてない時代でしたから、本気で頭をぶっ叩かれながら「君の芝居はね、デカすぎるんだよ!」とか言われて、散々しごかれた思い出が。あの頃はね、ホント、どつかれる、みたいなのが普通でしたから。渦中にいるときは、苦しいしイヤだし、逃げたいし、言葉にしちゃいけないようなことも考えましたよ(笑)。悔しくて泣きながら家に帰ることも多かったし、「ちくしょう、二度とこんな監督と仕事するか」って、本当によく思っていました。

――そういう気持ちをバネに…みたいな感じだったのですか?

うーん、バネに、というよりは、そういう中で無我夢中で頑張ってい続けていると、あるときふと、「あのときあの監督が言っていたことは、その通りだったんだな」と腑に落ちる瞬間が来たりするんですよ。今は素直に、あの時間こそ俺の財産だよな、と思えますし、当時お世話になった監督が芝居を観に来てくれたり、感想を言ってくださると、本当に嬉しい。今は時代も違うし、厳しく育てるということ自体を疑問視する流れもあるけれど、僕個人としては、生ぬるいところでは若い人は育たないと思うんですよ。今回のドラマでも、その辺がうまく伝わるといいな、とは思っているんですけどね。だから、あんまり薄味にはしたくないな、と。

運命づけられた苦しさを発散する出口が演劇だった。

――改めてお伺いしたいのですが、どんなきっかけで演技の道を志されたのですか?

若い頃って、将来どんな職業に就くべきかみんな悩むじゃないですか。でも僕はお寺の跡継ぎとして生まれ、跡継ぎとして育てられたため、そもそも“お寺を継ぐ”という人生が運命づけられていた。それに対して「なぜ自分だけ…」と、その状況がとても嫌だったんですよ。そうした悶々とした気持ちを外に吐き出したかったんだと思うんですが、高校時代にダンスを習いに行き、そこで少しだけ救いを感じることができた。大学入学後は英語サークルに入り、なんとそこで英語劇のキャストに選ばれてしまい、人前で演技をすることに。結果、そこで初めて「生まれてきてよかった」みたいな感覚になったんですよね、大げさではなく。

――演技をすることで、より大きな救いを感じられた?

なんていうのかな、観た人が拍手をしてくれたり、リアクションをしてくれたり、「あいつおもしれぇな」と言ってもらえたりしたことで、“自分がそこにいる”実感を初めて得ることができた。出口を見つけた、みたいな感じというんでしょうかね。自分の中にあるものを吹き出したくて、その方法が僕にとっては演技だったんだと思います。それ以来、「この道に進めたらいいな…」と思い、芝居の道に入りました。俳優になりたい、みたいなところがスタート地点ではないんです。

――芝居は“救い”とおっしゃいましたが、当時から楽しいと思っていらっしゃいましたか?

どうだろう…。救われたのが先で、徐々に俳優としての技術が身につき始めてから楽しくなったかな。でも今は、演じ手が楽しめないものは観ている方も楽しくないと思うので、楽しみたいと思っていますし、いろんな人とセッションしながら何かを生み出していくことに、やりがいを感じています。

――内野さんが演じる役はみな、どこかチャーミングでかわいらしい部分がある気がしますが…、

あ、そうですか? それは嬉しいな(笑)。

――役が持つ愛らしさのようなものを意識されているんですか?

意識どころか、むしろ欲しいと思ってる部分です。僕はどちらかというと、骨組みだけで役を作っちゃいそうな気がしていて、まだまだ余分な贅肉が足りないし、その役の、落語で言う“フラ”(落語家への褒め言葉で、その芸人独特の、生まれ持った愛嬌やおかしみのこと)、みたいな部分が欲しいんだよな…とはすごく思ってるんですよ。抜け感というか、なんていうのかな、「こいつ、天然?!」みたいな部分って、狙って出せるものではないんですよね。そこが欲しいんだけど、技術ではなかなか手に入らない…。なんか、今は言い方が難しいんだけど、いわゆる“男の職業”みたいな役をずっと演(や)ってきて、そういう男をガリガリッと演るとただの硬派なだけのキャラクターになっちゃう。でも人間って、いろんな面があるじゃないですか。

――外では硬派な男も、家では実はだらしなかったり…?

まさにそれ。ビールを飲めばゲップもするし、あくびも出るし、いろいろダルくてボケッとしている時間もあるのが人間。世間的には“ハンパない”と言われている男の裏側を大事にしたいんですよ。つまり、日常の、自然なリアリティを持たせたい。そう思うと、弱さであるとか、情けなさを探したくなる…っていうのは、役を作っていく楽しみではありますね。

『何食べ』への出演で、価値観が大きく変わった。

――では、内野さんの裏側はどんな人ですか?

いやいやいや、もうただのだらしない人(笑)。

――どんな感じに、ですか?

そんなの言えないです(笑)。時間の計算が下手で意志薄弱。目標を立ててもすぐ崩れる(笑)。“だらしねぇなぁ”の連続です。

――撮影がないオフの日は何を?

最近はなんですかねぇ…。緑のあるところに出かけて、川のせせらぎを聞きながら、友人や大切な人たちとのんびりしながら語らう、とかですかね。あ、あと去年あたりから、小さな庭で野菜を作ったりしています。知ってます? 採れたての野菜って甘いんですよ。酸化してないってすごい。

――ということは、お料理もされますか?

しますね。ドラマ『きのう何食べた?』に出てからやるようになりました。僕は昭和43年生まれで、“男が厨房に立つなんて男らしくない!”みたいな価値観の中で育てられましたが、今やまったく逆ですよね。あのドラマを経験したことで、昭和的な男らしさは時代の遺物…は言いすぎかもしれませんが、価値観は変わるということを学ばせてもらいました。

――演じる役を通して学びを得る、という意味でいうと、今後どんな役をやってみたいですか?

基本的には、もうなんでもやらせてよ! というスタンスなんですが、うーん、強いて言うなら、いやらしい人(笑)。

――え?! どういう意味ですか?

人間って、そんなに美しい生き物ではないと思っちゃっているので、裏でいやらしいことをしている人、演ってみたい。何かをすごく集めちゃってる人とか、倒錯的な趣味を持っている人、あるいは犯罪に手を染めている人もいいなぁ。変態っぽい役がやりたいです。

――そんな役をやられたら、どんな影響を受けるんでしょうか…。

もし変化があっても、あんまり人に言えなそうな気がします。ただ人間は、みんな変態ですからね…(笑)。

PROFILE プロフィール

内野聖陽さん

うちの・せいよう 1968年9月16日生まれ、神奈川県出身。’96年、朝の連続テレビ小説『ふたりっ子』に出演し、注目される。その後は映画や舞台、ドラマなどで幅広く活躍。今年3月、昨年公開された映画『八犬伝』葛飾北斎役で第48回日本アカデミー賞優秀助演男優賞を受賞。

INFORMATION インフォメーション

『PJ ~航空救難団~』

人命救助の最後の砦といわれる航空自衛隊航空救難団の救難員・通称PJ(パラレスキュージャンパー)。超難関を突破した訓練生と、彼らを鍛える主任教官・宇佐美との熱いぶつかり合いを描く。航空自衛隊が全面協力。ほか出演者に、神尾楓珠、石井杏奈、吉川愛、濱田岳、鈴木京香など。4/24より毎週木曜21:00~テレビ朝日系で放送。

写真・岩澤高雄(The VOICE) スタイリスト・中川原 寛(CaNN) ヘア&メイク・佐藤裕子(スタジオAD) インタビュー、文・河野友紀

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