ファレルの半生がレゴ®アニメーションに! 無謀な試みを実現した監督を直撃|映画『ファレル・ウィリアムス:ピース・バイ・ピース』

エンタメ
2025.04.03

劇中は全編レゴ アニメーション! 映画にはモーガン・ネヴィル監督(右)がファレル・ウィリアムス(左)にインタビューする様子も登場。

4月4日(金)から公開される映画『ファレル・ウィリアムス:ピース・バイ・ピース』。音楽、ファッションなどポップカルチャーを自在に行き来するファレル・ウィリアムスの自伝的映画は、型破りな彼らしく全編レゴ®アニメーション! 今回、その監督を務めたモーガン・ネヴィルとのオンラインインタビューが実現。製作の裏側や、ファレルから受けた刺激などについて聞きました。

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INDEX

    グラミー賞を受賞したスーパープロデューサーとして、世界22カ国のチャートで1位を獲得した「Happy」のシンガーとして、そしてルイ・ヴィトンのクリエイティブディレクターとして──自ら「ハイブリッド思考の申し子」を名乗るカルチャーアイコン、ファレル・ウィリアムス。

    彼の波乱の半生を描いた『ファレル・ウィリアムス:ピース・バイ・ピース』は、数あるミュージシャンの伝記映画の中でも突出して斬新な作品だ。監督はアカデミー賞受賞経験もあるドキュメンタリー界の俊英、モーガン・ネヴィルが務める。

    「ファレルはあまりにも多様なピースで構成されているアーティストで、当初は捉えどころのない印象がありました。彼は不可能なことも必ず実現できると信じている、クリエイターの美学を体現するような人物。前例のないことに次々と取り組んで、しかも決まって成功させてしまうのです」(ネヴィル監督)

    自伝をレゴ アニメーションで表現するには?

    ネヴィル監督の指揮のもと、この『ピース・バイ・ピース』で行われているのはまさに「前例のない」試み。ここではファレル自身の提案により、バイオピック(伝記映画)史上初めて全編がレゴ アニメーションで表現されている。

    「製作にあたっては、まずアニメーション映画の作り方を学ぶ必要がありました。自分のようなドキュメンタリー作家とアニメーターとでは考え方が正反対なところがあります。アニメーターは物語のすべてをコントロールすることができますが、ドキュメンタリー作家はすでに在る事実を撮るわけですから一切コントロールができません。

    作業の流れとしては一度撮影したドキュメンタリー映像をファレルに確認してもらって、それをアニメーションスタジオに持ち込んで『レゴ化』していく。その繰り返しでした。ある意味、映画を2回作ったようなものですね」

    ファレル特有の“共感覚”を色鮮やかに映像化

    『ピース・バイ・ピース』の醍醐味のひとつは、レゴ アニメーションを駆使した自由で鮮やかな色彩表現。その真骨頂は映画の序盤、音に色を結びつける知覚現象「共感覚」を持つ幼少期のファレルがレコードを聴くシーンで早々に発揮される。

    「ファレルの共感覚を映像化したシーンをテスト的に作った際に『これはうまいくぞ』と確信しました。あの場面では色を鮮やかに見せたいという構想はあったのですが、どうすれば実現できるのか、当初は見当もつきませんでした。

    そんななか、大きな力になってくれたのが著名なアニメーター、ミシェル・ガグニーの存在。彼はピクサー映画『レミーのおいしいレストラン』を製作したとき、共感覚の描写に取り組んだことがあったのです。ミシェルの豊富な経験に助けられましたね」

    音の色が見えたというファレル少年。その様子がレゴ アニメーションにより生き生きと表現されている。

    “人との違い”はスーパーパワーになり得る!

    このシーンをはじめ、物語のなかで大きなウェイトを占めているのが変人扱いされて空想の世界に逃避していた幼少期のファレルの孤独と葛藤。劇中では、はみ出し者だった劣等感を唯一無二の個性へと転換していく彼の“もがき”を丁寧に描いていく。

    「ファレルの幼少期にフォーカスした理由はいくつかありますが、ひとつは彼がどこにも所属できないアウトサイダーな感覚を持って育ったことです。ファレルが幼いころから『違ってもいい』ということを理解し、人と違うことが弱点ではなくスーパーパワーになり得ることに気づいていた事実は、のちの彼の成功を語る上でとても重要なポイントだと思います」

    『ピース・バイ・ピース』はファレルの50年の歩みを辿る伝記ドラマであり、彼を取り巻く関係者(ジェイ・Z、ミッシー・エリオット、スヌープ・ドッグ、ケンドリック・ラマーらヒップホップのキーパーソンを含む)の貴重な証言を交えたドキュメンタリーでもあるが、同時にファレルが携わった数々の名曲をふんだんに用いたジュークボックスミュージカルの要素も併せ持つ。彼の膨大なディコスコグラフィから選りすぐられた劇中の使用曲は実に30曲以上に及んでいる。

    “スモーク”の演出がユニークなスヌープ・ドッグの登場シーン。

    イン・シンク時代から度々タッグを組んでいるジャスティン・ティンバーレイク(左)。ヒップホッププロデューサーがアイドルとコラボ!? と2000年代当時は驚かれた組み合わせも、今では一般的に。

    「私はこれまでファレルが手がけてきた何百もの曲をスマートフォンにダウンロードして、繰り返し聴いてはストーリーを語り出してくれる曲を探しました。単によく知られている曲だから採用するというわけではなく、曲自体に物語があることが重要だったのです。

    なかにはファレルが曲に託した意図とは違う使い方をすることによって活きてくる曲もありました。たとえば、幼少期のファレルが牧師の言葉からインスピレーションを得るシーン。あの場面で流れるN.E.R.D.(ファレルが所属するバンド)の『God Bless Us All』はもともと彼が友人のために書いた曲ですが、ファレルは『こんな解釈もできるのか!』ととても驚いていました」

    「Get Lucky」は、映画の中でもハイライト

    映画を彩る数々の音楽シーンのなかでも特に感動的に響くのが、ファレルがボーカルを務めるダフト・パンクのグラミー賞最優秀レコード賞受賞曲「Get Lucky」。ネヴィル監督も「レゴ アニメーションとして最も冴えているシーン」と自信を覗かせる『ピース・バイ・ピース』のハイライトだ。

    「個人的には『Get Lucky』のシーンがいちばん気に入っています。当時のファレルは行くべき道を見失って暗闇の中をさまよっているようなところがありました。そんなことから劇中では彼の心情に沿ってモノトーンを基調にしていますが、活路を見出す『Get Lucky』の登場によって一気にスクリーンが色鮮やかになってジェットコースターに乗っているような高揚感が味わえます」

    「Get Lucky」のMVを踏襲した映像と、ファレルの心情がシンクロ。

    成功までの道のりは、地道な努力の積み重ね

    強調しておきたいのは、『ピース・バイ・ピース』が単なるミュージシャンの伝記映画を超えた、多角的な構造の作品であること。さまざまな音のピースを組み合わせて斬新なサウンドを生み出していくファレルの姿は、発想力と好奇心次第で無限に可能性が広がるレゴ アニメーションの魅力を体現すると共に、ひとつひとつの地道な積み重ね(ピース・バイ・ピース)こそが夢を形作っていく、という普遍的な真理に改めて気づかせてくれる。

    「ファレルの人生には共感できることがたくさんあります。有名になる前の彼は本当にハードワークで、毎日のようにビートを作りレコード会社と交渉をしていくことで見事に有言実行を果たしました。成功した後もただ周囲の言いなりになるのではなく、自分のクリエイティブを守るために思案を重ねています。これはアートが巨大なビジネスになると常につきまとう宿命ですが、それを乗り越えた彼の信念は本当に尊敬に値します」

    ファレルが見せてくれた新しい世界

    インタビュー中で印象的だったのは、ネヴィル監督が「私は映画を通してファレルにプロデュースされたのだと考えています」と語っていたこと。この言葉からはファレルがプロデューサーを生業とするのにふさわしい元来のインスパイアリングな人物であることがうかがえるが、彼の人生哲学が詰め込まれた『ピース・バイ・ピース』もまたクリエイターたちの創造性を強く刺激する作品として語り継がれていくに違いない。

    「ファレルと出会ったことで自分のアートに対する考え方が100%変わりました。これまでで最も自分を変えてくれた映画です。とにかくチャレンジの連続だったので、普段自分がいる安全な場所から離れることがクリエイティブなことを仕事にする者にとって最良の経験になることを思い知らされました。自分に新しい世界を見せてくれたファレルには本当に感謝しています」

    PROFILE プロフィール

    モーガン・ネヴィル監督

    ドキュメンタリー作家。2013年、ドキュメンタリー映画『バックコーラスの歌姫(ディーバ)たち』でアカデミー賞最優秀ドキュメンタリー賞とグラミー賞最優秀音楽映画賞を受賞。ほかにも監督作は2018年の『ミスター・ロジャースのご近所さんになろう』、2021年の『ロードランナー:アンソニー・ボーデインについて』、ウィリアム・バックリー・ジュニアとゴア・ヴィダルの討論を描いたエミー賞受賞作『Best of Enemies(※原題)』などがある。

    PROFILE プロフィール

    ファレル・ウィリアムス

    1973年生まれ、アメリカ合衆国バージニア州出身。幼少期から音楽の魅力にのめり込み、1990年代になると、子供の頃から友人のチャド・ヒューゴと共にプロデューサーユニット「ザ・ネプチューンズ」を結成。ジェイ・Z、スヌープ・ドッグなどとタッグを組み、数々のヒット曲を世に送り出す。ソロでもダフト・パンクとの「Get Lucky」、「Happy」などがメガヒット。近年は、ルイ・ヴィトンのメンズ・ウェアのクリエイティブディレクターを務めるなど、ファッション界での活躍も目覚ましい。

    INFORMATION インフォメーション

    『ファレル・ウィリアムス:ピース・バイ・ピース』

    監督・脚本・編集:モーガン・ネヴィル
    出演:ファレル・ウィリアムス、スヌープ・ドッグ、ケンドリック・ラマー、ティンバランド、ジャスティン・ティンバーレイク、バスタ・ライムス、ジェイ・Z、プシャT、N.O.R.E.、ダフト・パンク、グウェン・ステファニーほか
    4月4日(金)TOHOシネマズ日比谷ほか全国公開
    配給:パルコ ユニバーサル映画
    © 2024 FOCUS FEATURES LLC

    編集・保手濱奈美

    Tags

    映画

    文・髙橋芳朗 ライター

    音楽ジャーナリスト。著書に『ライムスター宇多丸の「ラップ史」入門』『ディス・イズ・アメリカ~「トランプ時代」のポップミュージック』など。また、TBSラジオ『ジェーン・スー 生活は踊る』などで選曲を務める。『ファレル・ウィリアムス:ピース・バイ・ピース』では字幕監修とパンフレットへの寄稿を行っている。

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