二度と会わないから本音が言える…タクシードライバーと乗客の100分間を描いた『ドライブ・イン・マンハッタン』

『ドライブ・イン・マンハッタン』Ⓒ 2023 BEVERLY CREST PRODUCTIONS LLC. All rights reserved.

どこの誰か知らない者同士だからこそ本音の付き合いが続くネット上の関係もあれば、二度と会わないからこそ目の前の相手に本音が言えることもある。ダコタ・ジョンソンとショーン・ペンの顔合わせに惹かれる『ドライブ・イン・マンハッタン』が見つめるのは、後者の関係。登場するのは、JFK空港からマンハッタンの自宅に向かうためにタクシーに乗り込んだ若い女性と、そのドライバー。彼らが車内で会話を繰り広げながら心を通わせていく100分間がリアルタイムで描かれる。


誰かに話を聞いてもらいたい夜がある。

最近は目的地までずっとスマホをいじっている人も多いので、ドライバーと乗客が会話すること自体が少なくなった。クラークと名乗るドライバーも、そんなご時世について愚痴ったりもするのだけれど、波長が合った二人の会話は続き、次第に深い話をするようになっていく。そもそも会話が続くのも、人生経験豊富なクラークが鋭い観察眼を持っているから。スマホに届くメッセージを読む女性の気配を気にかけ、この若い乗客の恋愛がワケありであることを見抜いたり、あげくには既婚者であるその恋人をどう呼んでいるかまで当てたりする。さらには男の本音と建前を踏まえたうえで、家庭を持つその恋人への禁句までアドバイスしてくれる。このクラークの言葉の正しさが、スマホ画面に映し出される恋人からのメッセージで証明されるのには、苦笑いせずにいられない。

とはいえ、クラークはいわゆる“理想的な人物”ではない。下世話な話も好きだし、口も悪い。彼自身もまた、結婚も浮気も経験してきた男だ。だからこそ、その言葉は人生の核心を突くわけで。いささか乗客の私生活に踏み込みすぎではあるけれど、当の彼女がクラークの言葉をシャットアウトしないのも、彼女自身が誰かに聞いてほしい想いを抱えているからだ。そう、人には、秘密を誰かに聞いてもらえるだけで心が救われることもある。別れ際にクラークが彼女に示す行動も、この人生経験豊かなドライバーが彼女の話をしっかり受けとめていた証し。それに対する彼女の反応もまた、誰かに話せたことが彼女にとっていかに救いになったかを物語っていて、胸が熱くなる。

会話劇はときに重苦しくなるイメージがあるけれど、そこは実力派の二人。人恋しさを募らせる夜のニューヨークの高速道路の風景と相俟って、回想シーンや別の場所で起こる出来事も一切インサートされない完全なるワンシチュエーション劇に、繊細な表情の変化や会話の間合いで引き込んでくれるのだ。

脚本も手がけているクリスティ・ホールは、ニューヨークを拠点として活躍してきた劇作家で、本作が長編監督デビュー。この作品もオフオフ・ブロードウェイで上演されることを期待して構想されたもの。それが、映画化されていない脚本を対象としたプロジェクト「ブラックリスト」で2017年度の3位に選出。ホール自身も、バラエティ紙で「2018年に注目すべき脚本家10人」に選出されている。全米で大ヒットした『ふたりで終わらせる/IT ENDS WITH US』の脚色も手がけている注目株だが、ドライバーと乗客の会話だけで人生を見つめさせてくれる力量にますます注目が集まりそう。

Information

『ドライブ・イン・マンハッタン』

JFK空港からマンハッタンへ向かうタクシーの車内の会話に、人生が浮かび上がる。監督・脚本/クリスティ・ホール 出演/ダコタ・ジョンソン、ショーン・ペンほか ヒューマントラストシネマ渋谷ほか全国公開中。

文・杉谷伸子

anan 2435号(2025年2月19日発売)より

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